キーパーソンが語る“人と組織”

組織に関する問題を「人」「関係性」に働きかけることで解決
いま日本企業に必要な“組織開発”の理論と手法とは(後編)[1/2ページ]

2015/9/11

中村 和彦さん
(南山大学 人文学部心理人間学科 教授、人間関係研究センター センター長 、
人間文化研究科 教育ファシリテーション専攻 )

中村和彦さん 南山大学 人文学部心理人間学科 教授 人間関係研究センター センター長 人間文化研究科 教育ファシリテーション専攻 Photo
前編』では、いま「組織開発」が注目されている背景と、組織開発の持つ機能について詳しいお話をうかがいました。『後編』では、組織開発をどのように進めていけばいいのか、また、その際に人事部はどう関わっていけばいいのかなどについて、具体的な話をうかがっていきます。
Profile

なかむら・かずひこ●1964年岐阜県生まれ。名古屋大学大学院教育研究科教育心理学専攻後期博士課程満期退学。専攻は組織開発、人間関係トレーニング(ラボラトリー方式の体験学習)、グループ・ダイナミックス。アメリカのNTL Institute組織開発サーティフィケート・プログラム修了。組織開発コンサルティングを通して、さまざまな現場の支援に携わるとともに、実践と研究のリンクを目指したアクションリサーチに取り組む。著書に『入門 組織開発 活き活きと働ける職場をつくる』(光文社新書)、主な論文に「組織開発(OD)とは何か?」「対話型組織開発の特徴およびフューチャーサーチとAIの異同」(『人間関係研究』に掲載)などがある。

リーダーこそ「組織開発」の重要性を理解しなければならない

―― いまの日本企業には、組織としてどのような課題があるとお考えですか。

社員一人ひとりの資質を高めるための支援は、これまでも研修などを通じて行われてきましたが、現場の関係性を高めるなど、部署や部門などの現場に向けた支援があまりできていないと思います。

ではどうすればいいのかというと、例えばGEでは現場担当人事という役割の人がいて、定期的に社員と面談しているそうです。メンバーには「何か困っていることはないか」、リーダーには「部署の関係性はどうか」「どのようにメンバーの力を発揮させているか」など、まさにコーチングを行うかのような面談です。一方、多くの日本企業の人事部は、制度構築や研修にばかり注力していて、現場の関係性の支援はできていないのが実状です。

―― そうした状況の中で、組織開発をどのように進めていけばいいのでしょうか。

日本企業では、企業全体の戦略は決まっていても、部署や部門ごとのビジョンや長期的な目標が決まっていないというケースが多いですね。しかし、経営戦略がそのまま降りてくるだけでは、社員にとってなかなか「自分ごと」にはなりません。そこで重要になるのが、部署のビジョンを自分たちで作ること、あるいは自分たちが1年間かけて取り組むべき目標を、数値目標以外で作ることです。

また、日本企業のリーダー(部課長クラス)には、関係性を改善するために何かしたいと考えている人もいるのですが、具体的にどうすればいいのかが分からないというケースが多いようです。そのため、そういった人たちが「助けてほしい」と人事に言える環境を作ることがとても大切です。

そのためには、社内に組織開発を専門とする人がいて、各部署を助けていく、「パートナー型」の組織開発の進め方がいいと思います。例えば、ヤフーはそのような形で組織開発を進め、成果を残しています。こういったモデルは日本企業ではまだ少数派ですが、人材開発部が「組織・人材開発部」と名称変更する会社が増えてきており、組織開発の機能を企業内に置く動きは今後も増えると思います。そして、組織開発を専門とする人材の育成が、これからは大変重要になってくるでしょう。

そういった人材を社内で育成するのは難しいと思いますので、当面は外部の組織開発の研修を社員に受講させるといいでしょう。いくつかの専門機関で、組織開発の推進者養成コースなどが開催されています。研修を受けると、組織開発の実践力が身に付くほか、受講生同士によるネットワークが形成されます。講座終了後も受講生同士がつながり、お互いにアイデアを出しあい、それを各人が社内に持ち返って実践してみて、その結果を受講者同士でフィードバックし合うことによって、組織開発に関する学びをさらに深めることも可能です。まさに、組織開発の「実践コミュニティ」ですね。人事の方々もこのような研修を受講して、会社の枠を超えた、組織開発を推進するためのネットワークが形成されていくことも重要だと考えます。

―― 組織開発を社内に広めていくには、どのようなアプローチが必要でしょうか。

中村和彦さん Photo

まず、キーパーソンとなる現場のリーダーが、業績や目標達成のことばかりを考えるのではなく、「自分の部署の関係性が変わり、風土が変わることが大事である」というマネジメント観を持つようになる必要があります。あるいはGEのように、トップマネジメント層に行く人たちは、異動の中で必ず組織開発部を経験するというようなキャリアパスを用意することです。これからリーダーとなる人たちは、組織開発の素養を持たなければならないということを、メッセージとして伝えることが重要です。

組織開発が社内に広がっていくためには、人事部長、または人事担当役員クラスの人たちが「関係性に投資することが大事だ」と理解し、実際に投資することが大前提となります。人事トップが組織開発の重要性を分かっていると、組織は大きく変わっていきます。しかし実際には、「組織開発に投資して本当に利益に結び付くのか」と疑問に感じる人が少なくありません。また、日本の組織は短期的な視点に陥りがちで、目先の利益をどう上げるかにばかりに目が向いています。戦略を実行できるような体質を組織の中でどう作るかということは、あまり考えようとしません。まずは、組織開発に投資して成功したケースを皆に知ってもらうことが必要だと思います。


  • このエントリーをはてなブックマークに追加

キーパーソンが語る“人と組織”のバックナンバー

森永雄太さん:
ただ「健康増進」を唱えるだけでは届かない 
健康経営を従業員のやる気につなげる「ウェルビーイング経営」の考え方(後編)
従業員の健康につながる施策に会社をあげて取り組む「健康経営」の考え方が定着しつつありますが、一方で若い人ほど「健康」という言葉を軽くとらえてしまいがちであるのも...
2017/08/09掲載
森永雄太さん:
ただ「健康増進」を唱えるだけでは届かない 
健康経営を従業員のやる気につなげる「ウェルビーイング経営」の考え方(前編)
従業員の健康増進につながる施策に会社を挙げて取り組む「健康経営」の考え方が定着しつつあります。少子化が加速し、労働人口が減り続ける中、一人ひとりが長く働き続けら...
2017/08/02掲載
井上智洋さん:
AIが雇用を変え、働き方を変え、社会を変える
“全人口の1割しか働かない未来”の幸福論とは(後編)
「いまから30年後には、全人口の1割ほどしか働いていない社会になる」――AIの最先端に精通する駒澤大学准教授の井上智洋先生が描く未来図は衝撃的です。人手不足が深...
2017/07/14掲載

関連する記事

「グローバル化」推進のポイントがわかる記事14選
現在、日本企業の多くがグローバル展開を進めています。人材の面からそれらの事業を支えるのが人事の役割ですが、人事部門のグローバル化や、社員の語学力向上、グローバル...
2017/07/04掲載『日本の人事部』編集部 厳選記事
人材育成・能力開発制度の実際
人材育成・能力開発の目的・方向性・進め方について、プログラムの考え方と実施のポイントについて解説する。
2017/06/30掲載よくわかる講座
社員研修・人材育成の実務(3)近年の教育研修の傾向と対応
「基本」を押さえつつ効果と実効性を高める教育研修のポイントについて、近年の傾向から分析する
2017/02/28掲載よくわかる講座
日向野幹也さん:
権限、役職、カリスマ性がなくても発揮できる
職場と学校をつなぐ「リーダーシップ教育」の新しい潮流(後編)
金融論の研究者から、リーダーシップ教育の第一人者へ――日向野幹也・早稲田大学教授の思いがけないキャリアチェンジの物語は、そのまま日本の大学におけるリーダーシップ...
2016/07/28掲載キーパーソンが語る“人と組織”
日向野幹也さん:
権限、役職、カリスマ性がなくても発揮できる
職場と学校をつなぐ「リーダーシップ教育」の新しい潮流(前編)
「リーダーと聞いてどんな人を思い浮かべますか?」リーダーシップという言葉の意味するところが、いま、大きく変わりつつあります。リーダーシップの新しい世界標準とは何...
2016/07/21掲載キーパーソンが語る“人と組織”
課題解決ノウハウが満載!! 『日本の人事部』注目のセミナー特集
会員として登録すると、多くの便利なサービスを利用することができます。会員ができること

記事アクセスランキング

注目コンテンツ


『日本の人事部』注目のセミナー特集

人事担当者必見の注目のセミナーをご紹介。貴社の人事課題の解決や、情報収集にお役立てください。


【人事の日制定記念企画】
オピニオンリーダーからのメッセージ

HR領域のオピニオンリーダーの皆さまから全国の人事部門に向けてメッセージを頂戴しました。


人事メディア情報

人事メディア情報

人事・労務関連の代表的なメディアをご紹介いたします。


日産自動車の“カルチャー ダイバーシティ”戦略 ~Eラーニング導入による効果と今後への期待とは?

日産自動車の“カルチャー ダイバーシティ”戦略 ~Eラーニング導入による効果と今後への期待とは?

ビジネスの世界では、「グローバル化」が急速に進んでいる。このような状況...


ミスなく!手間なく!リスクなく!<br />
「奉行シリーズ」で中堅・中小企業を熟知するOBCのマイナンバー対応サービスとは

ミスなく!手間なく!リスクなく!
「奉行シリーズ」で中堅・中小企業を熟知するOBCのマイナンバー対応サービスとは

マイナンバーの個人への通知開始まで、半年を切った。企業のマイナンバー対...