どこまで進んだ?「成果主義」制度の傾向と対策
日本企業の最大の特徴だった「年功序列」「終身雇用」のシステムは、平成不況の深刻化とともに崩れ去ろうとしています。それに代わり、注目されているのが「成果主義」――好業績の社員には高給で報いる、というシステムです。外資系企業では定説のシステムですが、いま日本企業の人事・労務は、成果主義に基づく様々な制度や処遇をどれくらい導入・反映しているでしょうか?
一般の社員にも適用されてきた「年俸制」
まずは、表1をごらんください。 これは、労務行政研究所が昨年末から今年初めにかけて行った、日本企業の賃金に関する様々な制度の実施状況についての調査結果をグラフにまとめたものです(注参照)。
成果主義に基づく処遇システムの代表格に挙げられる「年俸制」を導入している企業は32.3%と、約3社に1社の割合に上っています。同じく成果主義の考え方を反映する「職務給・役割給」の導入企業も、全体の35%あります。
一方、従来の年功序列・終身雇用のシステムに基づく「年齢給」を設定している企業も37.7%と、3社に1社以上の割合ですが、1995年の同じ調査の結果と比べた場合、その割合は16.6ポイントも減っています。これに対して、成果主義型の「業績連動型賞与制度」を導入している企業の割合は、2001年の時の調査結果から23.5ポイントも増えて、41.2%に達しています。
これだけ見ても、今、日本企業の人事制度に成果主義が本格的に導入されつつある、と言えるのではないでしょうか。
「年俸制」は、80年代まで嘱託社員や専門的な能力を持った人の処遇策として適用されていましたが、90年代に入ると管理職の活性化を図る手段として導入されるケースが増えてきました。今回の調査では、「年俸制を導入している」と回答した企業のうち、その適用対象を「管理職に限定」している企業が64.3%と多数を占める一方で、「全従業員(正規社員)」に適用している企業も13.1%ありました。今後は、社員がみんな年俸制で働く企業が増えていくかもしれません。
また「職務給・役割給」は、今回の調査で「導入している」とした企業の中の4分の3が、2000年以降に制度導入へと踏み切っています。調査では、賃金全体に占める職務給・役割給のウエイトなどは尋ねていませんが、職能資格制度を採っている企業の中でも、職務給・役割給を設けているケースが見られます。年功序列的な能力給体系の改善策として、職務・役割に応じた賃金制度を採り入れる企業が増えつつあるものと見られます。
「退職年金制度」の内容は多様化
もう一度、表1をごらんください。賃金に関する様々な制度の中で企業が最も導入しているのは、退職年金制度でした。全体の8割以上という高い導入率を示しています。
退職金の支給方法には、退職するときに一括で支給される「退職一時金」と、定められた期間中に本人または遺族に一定額ずつ支給される「退職年金」の2つがあります。
もともと日本企業では退職一時金の制度を採るケースが多かったのですが、1962年に適格退職年金、66年に厚生年金基金が発足したことにより、退職年金制度の導入が促進されたと言います(鈴木敦子著『人事・労務がわかる事典』日本実業出版社)。
しかし最近では、運用難から厚生年金基金の代行返上が本格的となり、それに代わって「確定拠出年金」や「確定給付企業年金」といった新しい制度ができるなど、退職年金制度の内容は変化してきています。
表1に見るように「ポイント制退職金制度」を導入している企業は全体の35.8%に上り、また表2に見るように退職年金制度を導入した企業の中で「確定拠出年金」を採用している割合も7%あまり見られ、制度の多様化をうかがうことができます。
約4社に3社が実施している「目標管理制度」
では、表3をごらんください。成果主義に基づく人事制度を導入するときに最大の課題の一つとなるのは、社員の上げた成果をどう正当に評価するか、ということです。「目標による管理制度」は、成果主義の広がりとともにその重要性が増している、と言えるかもしれません。今回の調査では、約4社に3社以上の割合(77.3%)で実施されています。2001年の調査では64.2%の実施率でしたから、13ポイント以上増加していることになります。
目標管理制度を効果的に機能させるためには、その最終プロセスで「自己評価」を行うことが効果的だと言われます。目標管理制度を実施する企業が増えるとともに「自己評価制度」も広がり、今回の調査では45%の企業がそれを採り入れています。
また、評価結果のフィードバックも成果主義志向の人事制度では重要ですが、「一般社員への人事考課結果の公開」については約6割(58.8%)の企業が実施しています。さらに、評価結果をめぐって社員と会社の間に軋轢が生じることも予想されますが、2割強(21.5%)の企業が「考課結果に対する異議申し立て制度」を採用しています。
年功序列から成果主義への切り替えを失敗して社内の不平等を広げてしまうか、それとも社員のモチベーションを上げて業績を伸ばすか。透明性・公平性を持たせた評価制度が実現できるかどうかが、キーポイントの一つになるのは間違いないでしょう。
「成果主義」浸透の陰で廃止されていく制度
最後に、表4をごらんください。調査では、様々な制度の「実施」状況とあわせて、その「廃止」状況も聞いています(ただし、廃止率はもともと制度を実施していない企業も含めた割合です)。
全体の12.7%と、最も多くの企業が廃止していた制度は「定期昇給制度」。「成果主義導入のため、本人の成果と無関係なものは廃止した」「考課結果により降給も行う制度に改定した」といった理由からです。一生懸命働こうが働くまいが毎年給料が上がっていく、というのは、成果主義志向の人事制度にはマッチしないのでしょう。
「社有の社宅・寮」については10.4%の企業が廃止。これは「新入社員の減少とともに入寮者も減ったため、非効率な寮は閉鎖した」「老朽化で寮を廃止した」「経費削減のため一部廃止した」などの理由です。
* 同調査の対象は、全国証券市場の上場企業および店頭登録企業3663社と、上場企業に匹敵する非上場企業(資本金5億円以上かつ従業員500人以上)311社の合計3974社。そのうち260社から回答がありました。
* 同調査は、「賃金」「労働時間・休暇」「人事管理」など、大別して13分野について行われましたが、ここでは、今回のテーマに合わせて「賃金」「人事評価」「諸制度の廃止状況」の3分野における調査結果をもとに、「日本の人事部」編集部が記事を作成しています。
* 表1~4は同調査の詳細を掲載している『労政時報』第3628号から転載させていただきました。
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