【真の残業削減を実現する】「営業職」の労働時間短縮のための業務見直しのポイント
時短コンサルタント・社会保険労務士
山本 昌幸
IV. 営業職の労働時間短縮の進め方
1. 労働時間削減に向けた具体的活動
では、次に営業職の労働時間削減(以下、「時短」という)を実現するための手法を説明します。
(1)プロジェクトチームの編成
最初に行うことは、時短に向けた「方針」の策定と公表です。この時点で、従業員は会社が時短に向けた取組みを開始することを認識します。そして、そのためのプロジェクトメンバーを募集します。募集にあたっては、アンケートや個人面談を実施することも有益ですが、まずは応募状況を確認しましょう。
本来、プロジェクトチームを結成するには、メンバーとしての適性を備えていることを確認すべきことは言うまでもありませんが、会社が指名するより「仕事とプライベートにメリハリのある生き方をしたい人募集!」とプロジェクト参加希望者を募るほうがうまくいきます。以上を経てプロジェクトチームを結成します。
(2)プロジェクトメンバーへの事前教育を行う
当プロジェクトではマネジメントシステムを実施する(PDCAを回す)ことによって時短に取り組みますので、次の内容の事前教育を実施します。
◆事前教育の内容
- マネジメントシステム(PDCA)の知識
- プロセスに関する知識
- 適正労働時間マネジメントの知識
- データ管理について
- ムダ時間削減手法について
- 「効率」と「稼働率」について 等
なお、PDCAがいかに素晴らしいシステムであってもPDCAだけでは成果は出ません。「プロセス管理」を理解・実施してこそPDCAで成果が出せることを、肝に銘じる必要があります。
また、事前教育と同時に、当プロジェクトへの妨害に対する事前対応も実施すべきです。
(3)現状把握・日常の運用管理策を決定する
大切なことは、残業発生に関するデータや組織風土等の現状を把握することです。データ(数値)による現状把握が中心となりますが、組織風土等のように、定量化できない場合もあります。“現状把握”なしに、対策を試みてもうまくいきません。「問題には必ず原因がある」ように「現状把握なしに対策は施せない」のです。実は、この現状把握を「○ヵ月後に実施する」と事前に公表したうえで実施するだけでも、時短効果が現れることがあります。
さらに、営業職員の日常業務の流れについて十分な現状把握がされているかという点で考えると、ブラックボックスとなっている場合が多いようです。しかし、「仕方ない」と諦めてしまっては時短の実現はできません。ですから、営業職員の日常業務についても深く切り込んでいくことが必要です。
また、「残業の許可制」「ノー残業デー」等を実施するかどうかもこの時点で決定します。ただ、多くの企業が実施しているこれらの時短対策が “小手先” の対策であることも認識しておく必要があります。
(4)労働時間削減に向けた取組みを宣言する
ここでは、社長による、“何があっても妥協しない時短への取組み” を社内に宣言していただきます。通常は、朝礼、ミーティング、会議等で社長自ら宣言のうえ、時短に向けた「方針」を策定のうえ、詳細に説明します。この社長による宣言を聞いた社員が「今回、社長は本気だな」と思わせることが重要です。「計画倒れ社長」「新しいもの好き社長」に代表される、どこかのセミナーやコンサルタント等から吹き込まれた取組みをやりたがっているだけだと思われてしまうと成功しません。
そのための演出として、当該宣言に第三者である取引先企業や株主に出席してもらうことも効果があります。
(5)残業の原因となるリスクを特定する
残業発生には必ず原因があることは前述の通りですので、残業発生の原因となり得るリスクを洗い出さなくてはなりません。
そして、洗い出したリスクを客観的に評価したうえで、対策を施すリスクを決定するのです。これらの「リスクの洗出し~対策を施すリスクの決定プロセス」についてはさまざまなアプローチがありますが、筆者がこの段階で活用している手法は、日常の作業から洗い出す手法と、プロジェクトで洗い出す手法の二つです。
先ほども触れましたが、営業職員の業務処理状況を“ブラックボックス”にしておかないことが必要です。事業場外みなし労働時間制を適用するために、あえて営業職員の日常の業務内容を細かく把握しない企業もあるようですが、そのような後ろ向きの考えでは営業職員の残業時間削減は難しいことをご理解ください。
(6)リスクと対策の中間にあることを特定する
残業削減に取り組むにあたり、これまで説明したプロセスを実施している企業は、筆者の指導先企業以外では遭遇したことはありませんが、他の問題解決のアプローチを確認してみると、通常、「リスクを特定する」→「リスク対策を講じる」という順序が一般的です。
“一般的”なアプローチによっても「そこそこの効果」は得られるのですが、中途半端に終わってしまうこともよくあるのです。そのようなことにならないためにも、「リスクを特定する」と「リスク対策を講じる」の間を取り持つプロセスが非常に重要なのです。この考え方は、スウェーデンで目的達成のアプローチとして学んだものです(実際、スウェーデンでは国を挙げて取り組んでいるあるテーマにおいてこのアプローチによって劇的な効果を上げている)。
要はリスクに対する対策をいきなり考えるのではなく、効果ある対策に導くための施策をあらかじめ用意しておき、それらを当てはめてどれが最も効果的なのかを確認したうえで対策を決定するのです。例えば、「顧客から営業職員への急な呼出し」をリスクとした場合、いきなり対策を考えようとするとなかなか難しそうですが、「なぜ、顧客から急に呼出しがあるのか?」の原因を明確にしたうえで、あらかじめ想定されたリストラ手法(リストラ=再構築)を参考にすると、対策が容易になります。
このリストラ手法(再構築手法)は、各企業であらかじめ十数種類用意しておき、活用できるようにしておきます。
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