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不正競争防止法の改正で、退職者による情報漏洩も処罰の対象に!「営業秘密」の管理のために、企業はどのように対応すべきか

改正の背景

「知的財産戦略大綱」との関係から

わが国産業の国際競争力の強化、経済活性化の観点から、政府は、知的財産戦略会議を開催、平成14年7月3日、「知的財産立国」実現に向けた基本構想である「知的財産戦略大綱」を策定し、次いで、知的財産基本法を成立させました(平成14年12月4日法律第122号・平成15年3月1日施行、最終改正:平成15年7月16日)。

営業秘密の保護は、平成2年の不正競争防止法の改正によって規定されたものですが、上記戦略大綱によって、その保護の強化の方針が盛り込まれ、これを受けた知的財産基本法によって、営業秘密が知的財産の1つとして法的に明確に位置付けられるに至りました。また、同様に戦略大綱を受けて、営業秘密の侵害者に対する刑事罰の導入等を内容とした平成15年改正不正競争防止法が成立した(平成15年5月16日成立、同16年1月1日施行)他、経済産業省によって、平成15年1月、「企業が営業秘密に関する管理強化のための戦略的なプログラムを策定するための指針である「営業秘密管理指針」が策定・公表されています。

近年の実情との関係から

ところが、近年、中国や韓国、台湾などのアジア諸国の技術的な発展が加速し、特に半導体や液晶等の分野で、上記諸国の企業が日本企業の強力な競争相手になってきたという状況下にあって、具体的な営業秘密の漏洩・侵害事例が多くなってきました。例えば、日本企業の技術者が週末に海外出張し、アルバイトで現地企業を技術指導する例や、雇用の流動化により退職者が増加した状況の中で、退職した元役員・元従業員が営業秘密を持ち出して競争相手であるアジア企業に再就職する例が増大しています。そこで、こうした安易な技術流出が日本企業の国際的競争力の低下を招来したものとして、営業秘密の保護強化を求める声が各方面から強まったのです。

そのような中、第162回通常国会において、秘密を漏洩した退職者の処罰及びかかる退職者を受け入れる法人の処罰、国外犯の処罰の導入、刑事罰の引上げ等を内容とする不正競争防止法の平成17年改正法が平成17年6月22日成立、同年11月1日施行されるに至りました。

改正の経過

平成17年改正法の内容を説明する前に、まず営業秘密に関するこれまでの改正の経過を見てみることにします。

平成15年改正法

「知的財産戦略大綱」に基づきなされた平成15年の不正競争防止法の改正は、(1)民事訴訟において、営業秘密侵害行為の具体的態様、損害および因果関係の立証を容易にするための規定を設ける等民事的保護の強化、(2)営業秘密の侵害者に対する刑事罰の導入、(3)インターネット商取引社会に応じた定義規定の見直し(不正競争防止法における「物」にプログラムを含む)を内容としたものです。

平成16年改正法

営業秘密に関し、訴訟手続における営業秘密の秘密性が保護されるように秘密保持命令と訴訟の公開停止の制度を導入し、加えて、文書提出命令がなされる際にその提出を拒否する理由の正当性の判断のためのインカメラ審理手続において、反対当事者に当該文書を開示し意見を聴取する手続きが採用されました。

平成17年改正の概要

平成15年改正によって営業秘密の侵害に対する刑事罰が導入されましたが、その後も、東アジア諸国を中心とした技術レベルの向上により海外企業との競争が激化する中で、日本企業を退職した者が会社の営業秘密を持ち出して海外の競争企業に再就職したり、日本企業に在職する技術者が海外に出張しアルバイトでこれらの企業に技術を教えたりするなどの事例が増大する状況にありました。

平成15年改正法は、職業選択の自由に配慮して、営業秘密を示された者が不正の競争の目的で退職後に当該営業秘密を使用し、開示する行為については、営業秘密を記録した媒体を横領した場合、あるいは営業秘密を記載・記録した媒体の内容について複製した場合に限って処罰の対象にしていたため、上記のような事例においては適用されず、結果、人材の海外流出に伴い、営業秘密までも流出してしまう事態を招来していたのです。

このため平成17年改正法は、刑事罰をさらに強化し、(1)退職者による営業秘密の漏洩を新たに処罰の対象に加えるとともに、(2)当該退職者を受け入れた法人をも処罰の対象とした両罰規定を採用し、更に、(3)日本国内で管理されていた営業秘密を日本国外で不正に使用・開示する一定の侵害行為を処罰することとしました。以下、平成17年改正法の具体的内容を確認したいと思います。

営業秘密の保護強化(刑事罰の強化)

1.退職者による営業秘密の漏洩に対する処罰(法21条1項8号)
平成15年改正法は、営業秘密の不正な取得、使用、開示については、営業秘密の保有者から示され、当該営業秘密を正当取得した役員や従業員が不正競争の目的で、営業秘密の管理に係る任務に背き(刑法上の背任に相当する類型)、営業秘密を使用し、または開示する場合にはこれを処罰するものとしていましたが(法21条1項7号)、退職者については何らの規定も設けてはいませんでした(もっとも、前述した通り、元役員・元従業員であっても、管理に係る任務に背き、保有者の管理に係る営業秘密記録媒体を不正領得し、または複製を不正に作成し、使用、開示した場合には、使用、開示の時点に退職していても法21条1項6号により処罰されることになる)。

平成17年改正法により、在職中に営業秘密の不正開示の申し込みをし(当該営業秘密にアクセスする権限を与えられていない者に対して、これを開示するという意思表示をすること)、またはその営業秘密の不正使用もしくは不正開示の請託の受諾がなされた上で、退職後に営業秘密を使用、開示した場合を処罰の対象とするに至りました。

2.法人に対する両罰規定の導入(法22条1項)
従来、営業秘密の侵害行為を行った退職者を誤って採用してしまった企業が処罰を受けることになれば、企業が転職者の採用につき萎縮してしまい、結果、雇用の流動化を阻害する虞れがあるとして、法人処罰の規定の導入は見送られてきました(平成16年改正法で秘密保持命令の違反事例については法人の両罰規定が導入されている)。

しかし、営業秘密の侵害行為は組織的に行う例が少なくないことに鑑みれば、これを処罰の対象としないときは、侵害行為を実際に行った個人が切り捨てられるのみであり、営業秘密の漏洩行為を抑止するには不十分であると言わざるをえません。

そこで、平成17年改正法は、前記のような虞れが生ぜず、特に悪質な以下の場合に限り、法人処罰を導入しました(22条1項)。

(i)法人の代表者・代理人・従業員が、その法人の業務に関して、詐欺的行為または管理侵害行為により営業秘密を取得し、不正競争の目的で使用、開示した場合(同条項4号) …具体的には、役員または従業員が他の企業の営業秘密を不正に取得し、これを自らの所属する企業で使用する場合。(ii)法人の代表者・代理人・従業員が、その法人の業務に関して、詐欺的行為または管理侵害行為により営業秘密記録媒体を取得し、その記録の複製を作成した場合(同条項5号)…具体的には、役員または従業員が他の企業の営業秘密記録媒体を不正に取得し、またはその記録の複製を作成した場合。(iii)法人の代表者・代理人・従業員が、その法人の業務に関して、不正競争の目的で、営業秘密の不正開示の相手方となって営業秘密を取得し、これを使用、開示した場合(同条項9号) …具体的には、役員または従業員が他人を唆して、その者の所属する企業の営業秘密を漏洩させて取得、使用した場合。

なお、今回の改正では、法人に対する刑罰について罰金刑の上限を引き上げ、1億5,000万円以下とされました(法22条1項2号)。

3.二次的取得者による使用・開示に対する処罰(法21条1項9号)
今回の改正以前は、営業秘密の不正な取得、使用、開示に二次的に関与する者の処罰は、もっぱら共犯の成否の判断に委ねられていたため、実際の不正使用者が営業秘密侵害罪の実行行為を行う者との間に第三者を介在させることによって罰則の適用を免れる可能性がありました(わが国刑法は幇助の幇助を処罰していないため)。

そこで、平成17年改正法は、不正競争の目的で他人の営業秘密侵害罪にあたる開示行為によって営業秘密を取得、使用、開示した者を正犯として独立の処罰の対象としました。

4.国外犯に対する処罰規定の導入(法21条4項、5項)
平成15年改正法において営業秘密侵害罪の規定が定められるに至りましたが、国外犯に関する規定は存しなかったため、実行行為が国外で行われる場合には処罰が及びませんでした。日本企業の技術者が海外でアルバイトで技術指導をする場合などは処罰の対象とはなりえなかったのです。

そこで、平成17年改正法は、詐欺等行為(詐欺、暴行、脅迫等)もしくは管理侵害行為(窃盗、住居侵入、不正アクセス等)がなされた時または保有者から当該営業秘密が示された時に日本国内で管理されていた営業秘密(21条4項)、営業秘密に関する裁判で裁判所によって出された秘密保持命令の対象とされる営業秘密(21条5項)について、国外で使用、開示する行為を処罰するものとしました。

5.罰則の強化(法21条1項)
平成17年改正法は、従前、3年以下の懲役または300万円以下の罰金とされていた罰則規定を5年以下の懲役または500万円以下の罰金に引き上げるとともに懲役刑と罰金刑を併科しうるものとしました。これに伴い、刑事訴訟法における公訴時効の期間も3年間から5年間になりました(刑事訴訟法250条)。

模倣品・海賊版販売対策

その他、今回の改正法では、模倣品・海賊版対策のための規定が設けられています。

1.著名表示の冒用行為(偽ブランド品)への刑事罰の導入(法21条1項2号)
「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為」(法2条1項2号)について、「信用もしくは名声を利用して不正の利益を得る目的で、または、当該信用もしくは名声を害する目的で」これを行った場合に5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、またはこれらを併科するという罰則規定が追加されました(法21条1項2号)。

2.商品形態模倣行為(コピー商品)への刑事罰の導入(法21条2項)1項2号)
「他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡もしくは貸渡しのために展示し、輸出し、または輸入する行為」(法2条1項3号)について、不正の利益を得る目的でこれを行った場合に3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処し、またはこれらを併科するという罰則規定が追加されました(法21条2項)。

3.関税定率法に基づく水際措置の導入
なお、(1)および(2)の商品の国内流入を防ぐため、これらを水際差止措置の対象に加える関税定率法の改正が行われています。

「営業秘密」の定義

改正不正競争防止法は、第162回通常国会において成立し、平成17年11月1日に施行されました。経済産業省は、その施行に合わせ、平成15年に策定した「営業秘密管理指針」を改訂し、企業の営業秘密の管理の強化を促すこととしました。

同指針では、第1章で全般的な概説がなされた上、第2章において「不正競争防止法上の営業秘密の保護」、第3章において「営業秘密を保護するための管理のあり方」について、それぞれ説明がなされています。ここでは、特に不正競争防止法において保護の対象となる「営業秘密」の具体的内容について触れ、次項において、不正競争防止法で保護されるための営業秘密の管理の方法について述べることにします。

不正競争防止法において保護の対象とされる「営業秘密」とは、(1)秘密として管理されていること、(2)生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること、(3)公然と知られていないことの3つの要件を満たす情報であるとされています(法2条6項)。

1.「秘密管理性」

「営業秘密管理指針」では、第1の要件である「秘密管理性」が認められるためには、事業者が主観的に秘密として管理しているだけでは不十分であり、客観的にみて秘密として管理されていると認識できる状態にあることを要するとされています。具体的には、(1)当該情報にアクセスできる者を制限し特定すること(アクセス制限)、(2)情報にアクセスした者にそれが秘密であることが認識できること(客観的認識可能性)の2つが要件となります。

「秘密管理性」は、営業秘密を保有する事業者による情報の管理状況に関する要件ですが、(1)の要件を具備する具体例としては、例えば、施錠した保管庫に情報の記録されている媒体を保管しており、特定の者により鍵が管理されている場合、コンピュータのパスワード等によりアクセスしうる者を制限すること、(2)の要件の具体例としては、例えば、情報を記録した媒体に「マル秘」、「社内秘」、「持ち出し禁止」、「複製不可」等の表示をすること等が考えられます。

営業秘密として保護されるためには(1)(2)の2つの要件をいずれも具備していることを要しますから、形式的に「マル秘」等の表示がなされているのみならず実質的にもアクセス制限がなされていることが必要です。

2.「有用性」

指針では、第2の要件である「有用性」が認められるためには、当該情報が客観的に有用であることが必要となります。「有用性」とは、具体的には、当該情報自体が事業活動に利用されることによって、財やサービスの生産、販売、研究活動において、経費の節約、経営効率の改善等に役立つものであることをいいます。設計図、製法、製造ノウハウ、顧客名簿、仕入先リスト、販売マニュアル等は有用性が認められるものと思われます。

なお、公序良俗に反する内容の情報は、その内容が社会正義に反し、秘密として保護されることに正当な利益がある情報とはいえないので、「有用性」は認められません。例えば、犯罪の手口や脱税の方法を教示し、あるいは麻薬・覚せい剤等禁制品の製造方法や入手方法を示す情報は、法の保護を受けるに対象となりえない情報ですので、「有用性」は認められず、営業秘密としての保護を受けることはできません。

3.「非公知性」

指針では、第3の要件である「非公知性」が認められるためには、当該情報が刊行物に記載されていない等、保有者の管理下以外では一般に入手できない状態にあることが必要とされます。例えば、一旦、学術誌や学会で公表された情報は「非公知性」が失われることになります。

一方、複数人が当該情報を知っている場合であっても、それらの者に守秘義務が課されている場合などには「非公知性」を認めてよいといえます。

営業秘密の管理のために企業に求められる対応

リスク管理の必要性

企業にとって、その有する技術やノウハウ等の営業秘密は企業活動における競争力の源泉であり、これが外部の産業スパイによって盗まれ、また従業員によって外部に持ち出され、競争企業の手に渡れば、極端な場合、企業が倒産することさえありえます。当然ながら、営業秘密は企業がその投資により時間と費用と労力をかけて蓄積してきたものであり、競争企業にその成果に対するただ乗りを許せば、その損失は甚だしいものとなるといわざるをえません。それでは、このように財産的価値を有する企業の営業秘密をいかにリスクから守るべきでしょうか。以下、詳論します。

「営業秘密」の特定

「営業秘密」が保護されるためには、まずその内容が特定されていなければなりません。「営業秘密」か否かの選別基準が明確でないと、すでに公知性を有する情報や秘密としての有用性が認められない情報を「営業秘密」として厳重に管理したり、反対に重要な「営業秘密」について、部外者との不用意な会話によってこれが漏洩したりする場合もありえます。何が「営業秘密」であるかが特定されないと、従業員が意識なく流失させてしまったり、また、故意に流失させた場合でも、錯誤主張を許したりするなどして、民事上の責任の追及を困難とする場合も生じてくるのです。

何が「営業秘密」であるかを特定する作業には、まず、社内における「営業秘密」の洗い直し作業を必要とします。社内の各部署(製造部門、営業部門等)に対して照会し、「営業秘密」の種類、記録媒体、保管場所、保管責任者、当該情報の利用方法等の項目別に意見を提出させた上で、各部署の従業員と面会の上、聴取するのがよいでしょう。

もちろん、「営業秘密」の管理にはコストを要しますので、企業としては、これと勘案した上で、営業秘密としての特定を図り、管理の程度を決することになります。

「秘密管理性」の要件

「営業秘密」を特定することは、かえって何が重要な情報かを明確にし、社外への流失を許すのではないかとの懸念がありますが、従業員が意識なく当該情報を社外に流失させる結果は、そのリスク判断すら困難なものとするというべきです。そもそも何が「営業秘密」かを特定し認識することによってこそ、当該情報の内容の精度を向上させることができるものといえます。また、「営業秘密」の特定の作業を怠ることは、これに対する法的救済の享受を困難なものとするということを看過してはなりません。そうすると、企業としては、侵害された事後の法的救済の享受を視野にいれた上で、その「営業秘密」であることの立証という観点から管理の方法を考える必要があると考えます。

企業には、必要な管理の水準として、裁判例を確認した上で、自社の組織的な管理のシステムを構築していくことが必要となるというべきです。

この点、裁判例では、特に「秘密管理性」の要件について、厳格に判断される傾向があります。以下、「秘密管理性」の要件である(1)アクセス制限、(2)客観的認識可能性につき具体的事例を確認することにします。

1.アクセス制限
「営業秘密」として保護される各情報については、まず第1に、各情報ごとにアクセスすることができるアクセス権者を限定する必要があります(大阪地裁平成14年10月11日判決等)。アクセス権者には営業秘密を使用しうる等の権限が与えられる他、一方でその流失を防止するに適切な管理をする義務が課せられます。アクセス権者を特定した上で、書類の管理記録やコンピューターのアクセスログによって義務が遵守されているか確認していくことになります。

第2に、「営業秘密」の記録媒体に応じた管理が必要です。管理方法としては、書類やCD-ROMのような有体物については、施錠された保管室内(東京地裁平成11年7月23日判決)や引き出し(同平成12年11月13日判決)、および金庫に保管することが必要であるし、また、コンピューターに電磁的に記録された情報については、パスワードの設定により管理するとともにシステムの外部ネットワークからの遮断の措置を行うこと(東京地裁平成17年6月27日判決)が考えられます。

第3に、「秘密管理性」の要件を充足するためには、就業規則等社内規定の整備、秘密保持契約の締結が肝要です。この点に関しては後述します。

2.客観的認識可能性
「客観的認識可能性」の要件を充足するためには、第1に、営業秘密が記録された媒体を従業員が取り扱う際にそれが秘密として管理されている情報であると看取しうるための表示がなされていることが必要となります。具体的には、前述の通り、情報を記録した媒体に「マル秘」、「持ち出し禁止」等との表示をすることが考えられます。

また第2に、「客観的認識可能性」を高めるには、従業員に対し、秘密管理の重要性や管理組織の概要、具体的な秘密管理のルールについて教育を実施することが重要です。全従業員に対する一般的な教育活動の他、特にアクセス権者に対し、別途関連法規の内容、具体的な管理方法、侵害事例に関する事後的対処方法等を含め教育していくことが望ましいといえます。

社内規定の整備(就業規則、秘密保持契約等

従業員は雇用契約上の善管注意義務の一内容として秘密保持義務を負うと解されますが、これを就業規則に改めて明示することは各従業員の認識を確かなものとするためにも有用であると思われます(もとより、その内容は労働関係法規に反しないよう留意しなければならない)。もっとも、就業規則においては、事後生じる「営業秘密」を事前に特定することはできず、必然、一般的な秘密保持義務を明示するに止まることになります。従って、具体的なプロジェクトに参加する際などに具体的な「営業秘密」に関する秘密保持の誓約書を交わしておくことが肝要と考えます。

また、取締役や支配人は、商法上、会社に対する忠実義務(254条の3、45条)、競業避止義務(264条1項、41条)を負っており、その一内容として秘密保持義務を負うことは自明ですが、従業員の場合と同様に、改めて覚書、誓約書によって秘密保持義務が存することを明示的に合意しておくことは意味のあることです(以下に、具体的な記載例を記します)。

退職者に対する対応

退職者については就業規則による規制が及ばないことになるので、営業秘密の管理の観点からは、退職時に、対象となる営業秘密を特定し、秘密保持義務の内容、秘密保持の期間、義務違反の場合の措置等を合意しておく必要があります。

なお、このような合意に関しては、「制限の範囲、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無」などを勘案して、職業選択の自由との関係で合理的に認められる内容か否かが決せられますので注意が必要です(奈良地裁昭和45年10月23日判決参照?種々の予見を勘案しながら秘密保持期間2年間を合法とした)。

また、反対に中途採用者については、その採用に際し、勤務していた会社との間で秘密保持契約を締結しているか否かを確認する必要があります。

取引先との間の秘密保持契約

取引先との間で共同プロジェクトを行う際にも、契約によって、営業秘密の保持義務を明示的に合意しておくことが望ましいと思います。秘密保持契約においては、営業秘密を特定するとともに、その使用範囲の限定、管理体制、秘密保持期間、義務違反の場合の措置等を合意しておく必要があります。

社内監査の実施

このように営業秘密の管理に関する業務は多岐にわたるため、できるならば営業秘密に関し統括的に管理する独立の部署をおくことが望ましいといえます。

その上で、営業秘密の使用状況に関しては定期的な検査を実施することがその保護のための施策を実効あらしめるために不可欠です。かかる作業を容易にするためにも、日々の業務遂行の過程において、自社で開発した営業秘密の記録簿を作成することが肝要と思われます。

日本法令発行の『ビジネスガイド』は、1965年5月創刊の人事・労務を中心とした実務雑誌です。労働・社会保険、労働法などの法改正情報をいち早く提供、また人事・賃金制度、最新労働裁判例やADR、公的年金・企業年金、税務、登記などの潮流や実務上の問題点についても最新かつ正確な情報をもとに解説しています。ここでは、同誌の許可を得て、同誌2006年2月号の記事「改正不正競争防止法の概要と『営業秘密』管理のための企業の実務対応」を掲載します。『ビジネスガイド』の詳細は日本法令ホームページhttp://www.horei.co.jp/へ。

【執筆者略歴】
●菅谷 公彦(すがや・きみひこ)
弁護士・社会保険労務士・行政書士。1968年東京生まれ。90年成城大学法学部卒業。94年司法試験合格。95年早稲田大学大学院修士課程修了。97年4月弁護士登録。2005年9月30日に「弁護士法人法律事務所ActiveInnovation」を設立。現在、早稲田大学法学部法職課程講師。日本交通法学会会員。日本賠償科学会会員。日本トラウマティック・ストレス学会会員。

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