組織価値向上につながるリスクカルチャーの醸成
三菱UFJリサーチ&コンサルティング コンサルティング事業本部 サステナビリティビジネスユニット GRCコンサルティング部 コンサルタント 吉岡 宏起氏

近年、企業や組織においてリスク対応の在り方が見直される中で、「リスクカルチャー」という概念が注目されています。望ましいリスクカルチャーは、役職員の適切な行動を促し、持続的な組織価値の向上につながります。本コラムでは、組織価値の向上につながるリスクカルチャーの醸成について、組織価値との関係性や構成要素ごとに目指すべき状態を解説します。
リスクに対する認識・判断・行動が問われる時代に
昨今、リスク環境の複雑化や相次ぐ不祥事などにより、企業や組織に対する社会の目は厳しさを増しています。それに伴い、リスクに関するステークホルダーの期待値は高まり、役職員のリスクに対する認識・判断・行動が問われるようになっています。
実際に、役職員がステークホルダーの期待に反する行動を取った結果、行政処分を受けたり、取引先の離脱を招いたりするなど、組織に多大な損害が発生する事態がさまざまな業種で発生しています。これらは組織の価値観や行動様式、つまり「カルチャー」と深い関わりがあると考えられます。
リスクカルチャーと組織価値の関係性
リスクカルチャーとは、組織内で共有されるリスクに対する認識・判断・行動の基準となる価値観や規範を指します。
望ましいリスクカルチャーが醸成された組織では、役職員は自律的かつ適切にステークホルダーの期待に応える行動を取ります。それが組織内に波及し、望ましいリスクカルチャーが強化されていきます。これにより他の役職員も含めてより良い行動を選択するようになり、組織のレピュテーション、ひいては組織価値を向上させるという好循環が生まれます。
しかしながら、不適切なリスクカルチャーを有する組織では、役職員がステークホルダーの期待に反する行動に走り、それが不適切なリスクカルチャーを増長し、役職員が望ましくない方向に傾くという悪循環に陥ってしまいます。その結果、組織のレピュテーションが悪化し、組織価値を毀損してしまいます。(図表1参照)。
リスクカルチャー醸成において注目すべき4つの構成要素と目指す状態
リスクカルチャーを醸成するにあたり、注目すべき構成要素として、「トップの姿勢」「コミュニケーション」「マネジメントシステム」「動機付け」の4つが挙げられます(図表1参照)。
「トップの姿勢」とは、リスクに対するトップの捉え方や意思決定・行動です。トップに立つ人物がリスクカルチャーの醸成に向けて積極的なメッセージを発信し、リーダーシップを発揮していることが求められます。
次に「コミュニケーション」とは、リスクに関する情報がどのように報告・議論がされているかという点です。心理的安全性が高く、リスクに関する報告や問題提起がオープンに実施されている状態が望ましいでしょう。
3つ目の「マネジメントシステム」とは、リスク管理に関する体制やそのプロセス整備の状況を指し、これらが適切に整備・運用される必要があります。
最後の「動機付け」とは、役職員のリスクに対する適切な認識・判断・行動が組織的に促される仕組みのことです。適切な認識・判断・行動が奨励されることにより、望ましいリスクカルチャーの定着が促進するでしょう。
望ましいリスクカルチャーの醸成に取り組む意義
望ましいリスクカルチャーの醸成は、それまで存在してきた組織内の価値観や行動様式を大きく変革しなければならない場合もあり、決して容易な取り組みではありません。しかし、リスクカルチャーが望ましい形で醸成され、定着した組織では、リスク管理やコンプライアンスに係る仕組みやルールに過度に依存することなく、役職員が自律的かつ自然に適切な行動を取り結果的に持続的な組織価値の向上に寄与します。したがって、望ましいリスクカルチャーの醸成は、単なる人材管理手法としてではなく、企業や組織の将来を見据えた重要な取り組みとして、大いに価値があると考えられます。
【関連資料】
リスクカルチャーの可視化と醸成
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