丸紅株式会社:
仕事と介護の両立にマネジメントスキルを活かす
総合商社ならではの“先進的”介護支援とは
丸紅株式会社(人事部 ダイバーシティ・マネジメントチーム チーム長補佐)
許斐理恵さん
今後5年以内に介護に関わる“介護予備軍”が8割以上も
仕事と介護の両立支援にむけて先進的な取り組みを始められたのも、その一環というわけですね。何か具体的なきっかけがあったのでしょうか。
弊社では年1回、今後積みたい経験や異動の希望など「キャリアプラン」を自己申告して、上長と面談する機会があります。申告用のシートには個人的な事情や家族のことで会社に知っておいてほしいことを自由に記入できる欄を設けているのですが、ある時期からそこに介護に関するコメントを寄せる社員が増えてきたんです。まさにいま介護の問題を抱えている社員もいれば、まだ要介護にはいたっていないけれど、高齢の親が遠方で独り暮らしをしているから心配だという声もありました。介護に関する社員の負担や不安を、私たちも少しずつですが、肌で感じるようになっていったんです。
また、冒頭で申し上げたように、海外駐在は商社パーソンにとって当然ですが、ここ10年くらいでしょうか、家族の介護やその可能性を理由に、海外駐在に対する不安を持つケースが少しずつみられるようになり、50代の幹部クラスの主要人事に、わずかながら影響も出始めました。このままでは、現実に介護の問題が人事戦略をおびやかしかねない――そうした危機感の兆しが、人事部内でも徐々に共有されていったんです。
先ほどおっしゃったように、以前は家庭内で解決されることの多かった介護の問題に、ビジネスパーソンも主体的に関わるようになり、その影響が顕在化してきたわけですね。
決定的だったのが、11年秋に東京大学のWLB推進・研究プロジェクトを通じて実施した「介護ニーズ調査」の結果でした。40代、50代の社員を対象に、ウェブ上で介護に関するアンケートをとったのですが、まず驚いたのが約4割という回答率の高さ。回答任意、しかも回答に15分を要するそれなりにボリュームのあるアンケートだったのですが、回答の督促をほとんどしない中で、予想をはるかに上回る反応でした。
900人近い回答者のうち「現在介護をしている」という人は11%、実数にして100人弱に上りましたが、これも想定以上でした。また「今後5年以内に介護に関わる可能性がある」という“介護予備軍”は84%で、そのうち96%、ほぼ全員が「将来の介護に不安を感じる」と答えています。「自分が主たる介護者」だと申告してくる社員も非常に多くて、意外なことにその男女比は半々ぐらい。男性も結構いたんですよ。
そうした調査結果を、人事部としてどう受け止められましたか。
キャリアプランの中の自己申告を通じてそれなりに把握はしていましたが、やはり衝撃でしたね。正直なところ、これは大変なことだなと。すでに介護関連施策については育児支援と足並みをそろえる形で拡充を進めていました。短時間勤務は、育児・介護ともに十数年前に導入していましたし、10年には「育児・介護セレクトタイム」と呼ばれる時差勤務の制度も新設しました。ところが、そうした制度の利用状況からは、潜在する介護ニーズの高まりはあまり見えてきませんでした。何しろ介護休業を使う社員は弊社の場合、ごく少数ですから。制度の利用がないからといって、すなわち介護の実態もないというわけではありません。できるだけ業務に影響を与えないように個人で工夫しながら、通常の勤務時間外の時間で介護にあたっているというのが、多くの社員の実態だと改めて理解しました。
今後、社員の介護ニーズがさらに高まることは間違いないでしょう。休暇制度を新しく作ったり、改めたりするだけでなく、会社として何かもっとできることはないのか。とりわけ、介護予備軍の抱える不安にどう応えればいいのか。介護ニーズ調査の結果を受けて、私たちは仕事と介護の両立に向けた新しい支援体制の構築にとりかかりました。