丸紅株式会社:
仕事と介護の両立にマネジメントスキルを活かす
総合商社ならではの“先進的”介護支援とは
丸紅株式会社(人事部 ダイバーシティ・マネジメントチーム チーム長補佐)
許斐理恵さん
日本の高齢化率は世界一。2025年には、介護の可能性が高まる「75歳以上」の人が12年の1.4倍にまで増加すると言われます。一方で子の世代は兄弟姉妹の数が少なく、未婚率が高いのが実情。親の介護に直面したとき、仕事と介護をどのように両立していけばいいのか――。個人にとっても、企業にとっても、いまや「仕事と介護の両立」は待ったなしの課題と言えるでしょう。ワーク・ライフバランス推進の一環として介護支援に取り組む丸紅株式会社では、子育てに比べて表面化しにくい介護の問題を組織内で共有。介護が必要になる以前から社員に広く内外の支援策を伝え、両立に向けた啓発や個別相談に取り組んでいます。先進的施策を推進されている、同社人事部ダイバーシティ・マネジメントチームの許斐理恵さんに、詳しいお話をうかがいました。
- 許斐 理恵さん
- 人事部 ダイバーシティ・マネジメントチーム チーム長補佐
(このみ・りえ)●1998年丸紅株式会社入社。産業プラント部、ソリューション事業部、リスクマネジメント部、情報企画部を経て、現職。2007年に第一子出産、2008年10月に育児休業から復職以降、人事部に所属。2009年4月のダイバーシティ・マネジメントチーム立ち上げ以降、主にワーク・ライフバランス関連施策の企画・運用を担当。
ワーク・ライフバランスの目的は中長期的な会社への貢献を極大化すること
総合商社のビジネスパーソンといえば、世界を飛び回るタフなプロフェッショナルというイメージがあります。扱う仕事の規模も大きいので、ワーク・ライフバランス(以下、WLB)への配慮は他の業種以上に難しそうですね。
弊社では、総合職の約3割を占める800人超が海外に駐在しています。昨今、グローバル人材の育成がさかんに言われていますが、特定の誰かではなく、総合職であれば誰もが一度は海外へ出る。それがあたりまえのキャリアパスになっているのは、やはり総合商社ならではだと思いますね。
現在は少子高齢化や核家族化、非婚化、共働きの増加などが進んでいますから、今後はビジネスパーソンが家庭の問題に対してさらに主体的に関わっていく時代になっていくでしょう。もちろん、当社も例外ではありません。特に、海外駐在が組み込まれている総合職のキャリアパスの中で、仕事と育児や介護との間に葛藤を抱えるケースが増えてくると考えています。だからこそ、会社としてWLBの推進に力を入れなければいけない。個人がライフイベントを乗り越え、成果を出していくための支援を会社が進んで行わなければならないと考えています。
許斐さんが所属されているダイバーシティ・マネジメントチームの発足は2009年ですが、WLBに関わる取り組み自体はそれ以前から進んでいたようですね。
はい。05年の育児介護休業法の改正を機に、法定基準を上回る内容で関連制度を改正し、また弊社独自の制度・施策も順次導入していきました。06年には育児や介護を目的とする特別休暇の「ファミリーサポート休暇」や配偶者の転勤に伴う休業制度など、当時としては先進的なWLB施策を新設しました。それまでは、どちらかというと法令を意識した制度の充実を図ってきたわけですが、06年に初めて、WLBという観点での制度拡充を図ったわけです。
00年代後半に入ると、社内でも女性総合職や一般職の採用が増え、組織の人員構成が多様化してきたことも、背景の一つです。2009年4月にダイバーシティ・マネジメントチームを立ち上げ、最初に着手したのは、ダイバーシティ・マネジメント推進のインフラとなるWLB関連施策の拡充です。翌10年にWLBの目的を明文化。あらためて、WLBを会社の成長に資する重要施策として位置づけました。
御社にとって、WLBを推進する目的とは何ですか。
私たちは、WLBの目的を「会社・社員双方がキャリアの段階やライフステージに応じて働く環境を整え、社員一人ひとりの中長期的な『会社への貢献』を極大化する」と定義しています。つまり、多様なバックグラウンドを持つ社員がしっかり“ワーク”できる環境を整えるために、“ライフ”をサポートするという発想です。長い会社人生の中では、いろいろなライフイベントがありますよね。だからこそ短期的に波はあっても、中長期で見て、アウトプットをどれだけ大きくできるかが重要だと私たちは考えています。
その社員が退職するときに、改めて「あの人、会社にとても貢献してくれたね」と言われるキャリアを歩んでほしい。そのために、個人だけで乗り切れないところは会社が制度で支え、一方で社員も必要なときに必要な制度を必要な分だけ活用しながらその時に出せる成果を出すとともに、ライフイベントを乗り切ったらまたしっかり働いて貢献する。そうした基本理念をふまえて、関連施策の浸透に取り組んでいます。