世界を唸らせる最高のおもてなしはこうして生まれる
“和”を重んじる、ホテルオークラ東京の人材開発とは
株式会社ホテルオークラ東京 管理部
糸正弘さん
プロ集団が力を発揮するための“潤滑油”としての人事課
「若い世代に仕事やポストへの欲が感じられない」というお話がありましたが、そうはいっても、変革期を迎えているホテル業界において、次世代リーダーの育成は急務ではありませんか。
もちろんです。基礎固めの時期に適性・志向を見極め、ジェネラリスト型の人材にはマネージャーや課長など次世代リーダー候補としてのキャリアパスを用意します。またオークラグループの旗艦ホテルという位置付けを考えれば、私たちとしては、弊社で各セクションのトップを務めているような人を、ぜひ他事業所の総支配人なり、部長なりの立場で送り出したいとも思っています。
そのために、何か具体的な取り組みを行われていますか?
本社ホテルオークラ主催の海外短期留学制度があります。一昨年、「オークラユニバーシティ」と称して立ち上げられました。オランダのホテルオークラアムステルダムを拠点に約3ヵ月、ハーグホテルスクールと共同開発した独自のカリキュラムに従って、働きながら勉強するシニアマネジメントコースとハイポテンシャルコースの研修制度です。いま、ちょうど人事課の課長を派遣しています。
最近は、海外赴任や留学を敬遠する若手も多いようですが。
いまは弊社に限らず、どの企業も自主的に考え、学ぶ人材を欲しがりますが、結局、若手が欲を持つことにさえ目覚めれば、「自分で考えなさい」と口を酸っぱくして言わなくても、自然とそうなると思います。海外への興味や挑戦心も、同じではないでしょうか。それでは、彼らに欲を持たせるにはどうすればいいかというと、これが難しい。世界の賓客をもてなす第一線のホテルとしての重責を担うとなれば、若手が慎重になるのは無理もありません。処遇や労働環境の改善も必要ですが、それ以前に上司や先輩が、もっと下の世代が憧れるようなビジネスパーソンになっていかなければならないと思います。
他業種との比較は難しいかもしれませんが、糸さんは、“ホテルの人事部”とはどうあるべきだとお考えですか。
他業種の人事よりも強く求められるのは、やはり現場を整える潤滑剤――コーディネーター的な役割だと思います。ホテルビジネスの現場は各部門とも、ひたすらサービスのクオリティを追求するプロフェッショナルの集団です。当然、部門同士の衝突も起こりやすい。しかし、衝突をおそれて無難な仕事ばかりしていては、肝心のクオリティが落ちてしまいかねない。その結果お客様からクレームが入れば元も子もありません。だからこそつねに最高のパフォーマンスとチームワークが保たれるように、私たちが間に入って、互いの意思疎通を促さなくてはならないのです。そうした仕事をする上で、私が心に刻んでいるのは「嘘をつかない」ということ。相手に正直に心を開いてもらうために、自分も相手に対して正直でありたいのです。お客様一人ひとりに最高のおもてなしを――ホテルオークラ東京にとって譲ることのできないこの一線を守り抜くために、私たち人事が果たすべき役割は決して小さくないと思っています。
(取材は2011年6月24日、東京・港区のホテルオークラ東京にて)