若手社員の早期離職防止~キャリアデザイン支援は離職防止の打ち手となるか~
三菱UFJリサーチ&コンサルティング コンサルティング事業本部
組織人事ビジネスユニット HR第4部 コンサルタント 福田 潤也氏

若手社員の離職防止が企業にとって喫緊の課題です。離職の背景を踏まえた慎重な対処が求められる中、施策の1つとして「キャリアデザイン支援」を検討する企業も多いと思います。しかし、実際に取り組むとなると「本当に効果があるのか」「かえって転職を促してしまうのではないか」と不安を感じる方もいるでしょう。
そこで本コラムでは、離職防止に向けたキャリアデザイン支援を効果的に進めるポイントなどを紹介します。
キャリアデザインとは
キャリアデザインとは、人生における「自身のありたい姿」を考え、その実現に向けて自身のキャリアや組織内外での活動を主体的に設計することです。その中核にあるのは「自己理解」であり、「どんな人生を送りたいのか」「何のために働くのか」「働くことを通じてどんな幸福を実現したいのか」という問いと向き合い、「ありたい姿」を模索する過程が重要になります。この模索によって自分らしさを見いだすことで、従業員は自律的・主体的に行動できるようになり、結果としてエンゲージメントの高まりと共に組織の目標達成への貢献にも結び付きます。これがキャリアデザインの目指す理想的な状態です。
本人の語る「ミスマッチ」は本当に「ミスマッチ」なのか
若手社員の離職原因の1つに「仕事のミスマッチ」があります。しかし、それは本当にミスマッチと言えるのでしょうか。
キャリアデザインにおける「マッチしている状態」とは、「自身の強みを生かして組織の期待に応え、そのことが人生の目標や幸福実現につながっている状態」を指します。一方で、現場では「自分の強みが分からない」「組織に何を求められているかが見えない」「ありたい姿をじっくり考えたことがない」などの声が多く聞かれます。特に若手社員は日々の業務で手一杯で、自己を模索する時間や余裕がないのが実情です。そのような中で自分なりの働く意義を見いだせないと、人はどうしても「安全で楽なこと」を優先しがちになります。そうなると負担が高いと感じる場面で「この仕事は自分に合わない」と感じやすくなるでしょう。つまり、ミスマッチと言われる離職の背景には「本当に仕事が合わない」だけはなく、仕事と自身の関係性をじっくり考えないまま、負荷の高さに対してストレスを回避しようとする行動が含まれているのではないでしょうか。
一方で、キャリアデザインによって自己理解が深まり、組織との結び付きが強化されると、たとえ負担を感じる場面でも「向き合う意義」や「工夫する余地」を主体的に見いだせる可能性が高まります。業務に対して「合わない」のではなく、「まだ十分に模索・検証していない」、また、「負荷が高い」のではなく「どう乗り切るかを考え切れていない」という視点の転換を支援することで、キャリアデザインは、若手社員の衝動的・回避的な離職を防ぐ有効な施策となります。
キャリアデザイン支援はエンゲージメントの向上につながるか
キャリアデザイン支援は転職を促してしまうのではないかと懸念する声もあります。しかし、従業員の立場で考えれば、自分の「ありたい姿」を大切にしてくれる組織に対して、むしろ好意的な感情を持つのではないでしょうか。組織と従業員の結び付きは、合理的な利害関係だけではなく愛着に代表されるような情緒的なつながりの影響も強く受けます。「この会社が好きだ」「大切な居場所だ」などの感情が芽生えれば、組織に対するエンゲージメントは高まります。
また、キャリアデザインの支援によって自律性・主体性が向上すれば、仕事に対する洞察が深まり、新たな視点の発見にもつながります。その結果、組織内で適応できる範囲や挑戦意欲を持てる領域も広がれば、支援は「転職を促す行為」ではなく、むしろ「自社にいる理由を自己の中に探索する行為」となります。
実際、若手・中堅社員を対象とした意識調査でも、「自律的・主体的キャリア形成は、組織へのコミットメントを高め、転職意欲を抑制する可能性がある」との分析結果が示されています[ 1 ]。組織が従業員一人ひとりのありたい姿を尊重するキャリアデザイン支援は、離職防止に直結する施策として検討すべきでしょう。
キャリアデザイン支援を効果的に進めるポイント
キャリアデザイン支援は、うまく進めば従業員の自律的・主体的な行動を引き出せる一方で、やり方を誤ると不信感や抵抗感を生む恐れもあります。有効な施策にするために、以下のポイントを意識して実行することが大切です。
a. 担当者の足並みをそろえる
担当者間でキャリアデザインに対する共通認識を持った上で施策を進める
b. 従業員の理解を得る
従業員の懸念や不安を十分に受け止めながら、支援の目的を繰り返し発信する
c. 継続的な支援を行う
自己理解には時間がかかることを踏まえ、焦らず種をまくように継続的に進める
d. 人材マネジメントシステム
人材マネジメントシステムとの有機的な関連付けを行う
キャリアデザイン支援が組織に浸透し、効果が発揮されるには一定の時間を要するものの、粘り強く継続した先には、組織にとって有意義な変化が期待できる施策です。
【関連コラム】
若手社員の早期離職防止(1)若手社員の離職問題のこれからを考える
若手社員の早期離職防止(2)効果的な離職防止策を打つためのチェックポイント
【参考文献】
[ 1 ]リクルートマネジメントソリューションズ 人材育成・組織開発サービスサイト「若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に関する意識調査 組織のなかでの自律的・主体的なキャリア形成の実態」
https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000001017/?theme=career(最終確認日:2025/4/2)
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