人はいくつになっても成長できる――
トヨタファイナンスが取り組む“本気”のシニア活用とは
自分の内面をとことん深掘りして上司と対話できるか
シニア社員のモチベーションがなかなか上がらないのはなぜでしょう。
矢田:所属長、グループマネジャー、そしてシニア社員本人を交えた三者面談や、シニアとシニア予備軍の中堅層を対象にしたワークショップなど、さまざまな取り組みを実施しましたが、やってみてわかったのは、実はシニア社員自身にも、自分の強みを活かして会社に貢献したいという思いがあるのに、その気持ちに“フタ”をしていたということです。なぜフタをするかというと、やはりラインの長になることにしか意義を見出せない価値観に縛られているから。そこからはずれた自分はもう会社に期待されていない、上司からもそういう風に扱われ、周囲の若手からもそう見られているなど、勝手に決めつけてしまうんですね。
確かに上司も接し方が難しいといって、マネジメントを避けていましたから、シニアが「放っておかれている」と感じたのも無理はありません。でも、もともとモチベーションが低いわけではないのです。本当は頑張りたいのに、本人にも周囲にも思い込みがあって、本心にフタをしていたのです。ワークショップなどを通じて、本気で彼らに迫ってみたら、それがわかりました。
藤田:鈴木さん、あなたの経験からどう思いますか?
鈴木:いずれ役職定年を迎えることは分かっていましたが、いざラインの長を外れてみるとやはり寂しかったですし、それ以上に、寂しいという気持ちが自分の中に生まれたことに正直、すごく驚きました。まさか自分がそんな風に感じることはないだろうと思っていたのです。私でさえそうなんですから、コーポレートラダーを昇ることにすべてを賭けてきた人なら、なおさら喪失感が強いのではないでしょうか。そこで適切なマネジメントを受けられず、放っておかれると、自分はもう期待されていないという思い込みにはまってしまう。逆に、そこで上司にしっかりと向き合ってもらえれば、シニアのマインドもだんだん変わってくると思います。
本人だけでなく、上司を含めた周囲の意識も変わっていかなければいけませんね。
藤田:そうなんです。自分は活かされている、役に立っている、無価値な存在ではないという実感を本人がもてるように、周囲も変わらなければいけない。そのために私がマネジャーたちに求めているのは、「周りに関心を示して欲しい」ということ。シニアに限らず、メンバー全員に本気で関心を持ち、それを示すことがマネジメントの最低限のベースです。無関心が一番いけません。放っておかれた人は大変なことになってしまいます。
矢田:関心を示すという意味では、シニア社員対象のワークショップの際、本人に宛てた所属長からの“手紙”を渡すという試みも行っています。そこには「あなたにはこういう強みがあるから、それを活かしてこんな役割を果たして欲しい」という期待のメッセージが書かれています。自分が上司から期待を寄せられているとわかり、シニア社員の心にたいへん響くのです。
だからといって、すべてのシニア社員がすぐに応えるというわけではありません。その期待と自分の現状との間に、何か心理的な“壁”を作ってしまい、変われずにいるケースが多いのです。その壁を認識し乗り越えてもらうために、ワークショップでも職場での面談でも、私たちが徹底的にこだわっているのが、内面を深く掘り下げる「対話」です。本当は自分が何をしたいのか、何ができるのか、そして何が自己変革を妨げているのか。そこを本人が、上司に直接話せるかどうかがポイントですね。だから現場にも、そこが出てくるまで、とことん突き詰めて「対話」を継続してくださいと、鈴木から強くお願いしています。
職場での「対話」の継続を、人事部としてもフォローされているのですね。
鈴木:ワークショップや研修を行っても、やりっぱなしでは行動化されないので、本人にその後も必ず、上司と「対話」を続けてくださいというのですが、日頃の関係がよくなかったりすると、どうしてもそのままになってしまうのです。ですから、上司一人ひとりを訪ねて、「対話」の進捗をチェックするようにしています。当初はまさかそこまで人事部がフォローしてくるとは、本人も現場も思っていなかったようですが、私たちが本気であることを示さないと、皆も本気になって取り組んではくれません。