進んでいない「社会貢献型」転職への対応
採用に予算が取れないベンチャー企業・NPO法人 対応しきれない紹介会社のビジネスモデル
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「採用したい企業」と「転職したい人材」がいるのに……
「そうなんですか」
Sさんは意外そうに、そして明らかに残念そうな顔になった。
「隠すことでもないのでお話しますが、当社のような人材紹介会社は採用する企業からの紹介料で運営しています。ですから、人材採用にある程度以上の予算をかけられる会社、言い換えれば採用に熱心な企業は多くご紹介できます。一方、社会起業型のベンチャー企業や非営利組織であるNPO法人は、人材採用にほとんど予算をかけられないのが実情です。したがって、そういった企業から私どもに求人依頼をいただくことは非常にまれなのです」
ビジネスパーソンだけに、Sさんもすぐに理解してくれたようだ。
「やはりハローワークなどで探すしかないのでしょうか」
確かに、ベンチャー企業やNPO法人は、出来るだけコストのかからない縁故やハローワークを中心に採用しているところが多い。とある社会起業型の企業の総務マネジャーに、こんな話を聞いたことがある。
「弊社のような会社は人事のマンパワーがないので、一般公募で候補者が集まっても対応しきれないんです。本当は紹介を使ってピンポイントで良い人を採用したいのですが、通常の紹介料を支払うほどの予算はとれません」
そんな話もSさんには伝え、中長期的な転職支援を約束してこの日の転職相談を終えることになった。
「私のような転職を希望する人は、他にもいますか?」
かばんに資料をしまいながら、Sさんが聞いてきた。
「多くはありませんが、いらっしゃいますよ。主流はやはりキャリアアップのための転職ですが、Sさんのように社会に役立ちたいというやりがい重視の方も増えている気がします。そういう意味では、人材紹介会社ももっと紹介できる範囲を広げていきたいと思っているのですが」
採用したい企業があって転職したい人材がいるにもかかわらず、従来型の人材紹介のビジネスモデルでは対応しきれていない。なんともいえず歯がゆい思いだ。しかし、そのうちそういった企業のニーズを満たしてくれるような新しい転職支援の仕組みを考えて起業する人が現れるだろう。まさにそれこそが社会起業だといえる。
Sさんを見送りながら、私はそんなことを考えていた。
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