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人材採用“ウラ”“オモテ” 
企業・求職者・人材紹介会社の「転職」三角関係

企業と候補者の間に挟まれて…
人材紹介会社の悩みどころ

企業と人材 どちらを重視すればいいか

矛盾する人材紹介会社の役割

企業が人材紹介会社を利用して採用を行なうメリットの一つに、「ある程度のスクリーニングを行ってくれる」という点がある。企業が提示するスペック(経験や能力)に近い人材だけに絞り込んで紹介します…ということである。しかし、応募者側を見ると、「希望する企業に推薦してくれる」からこそ人材紹介会社に登録している人も多い。多くの人材紹介会社では、「候補者の希望を最優先」とうたっているからだ。

「ダメモト」でも応募してみたいのです

「どうしてもS社の選考は受けてみたいです。このまま応募せずに諦めてしまうと、ずっと後悔が残りそうな気がするんですよ」

エンジニアのTさんにとって、世界的に有名なS社は常に憧れの企業だった。前年に同じ会社で働いていた同僚がS社に転職したという話を聞いて、自分にも可能性があるのではないか…と相談に来たのだ。

「そうですよね…」

実は、私は迷っていた。エンジニアとしてのTさんのキャリアは決して見劣りのするものではない。しかし、S社が望む開発リーダーとしての経験はほとんどなかった。最近のS社は、開発リーダーやプロジェクト・マネジャーとしての経験者しか中途採用では採らない方針を打ち出していたのだ。

「Tさんのこれまでのキャリアを活かすには、こんな選択肢もありますよ」

私はS社以外のいくつかの求人をTさんに紹介した。そのうちの数社の仕事内容にはTさんも大いに興味を持ってくれた。キャリアアップにもなるし、海外でも多くの製品が販売される仕事でやりがいもあると感じてくれたようだ。同時に、S社は管理職クラスの採用に絞り込んでいる旨もご説明した。Tさんは理解してくれたが、それだけでS社を断念する気にはなれなかったようだ。

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「たしかにS社が提示するスペックは満たしていませんが、応募できないわけではないんですよね…」

Tさんとしては「ダメモト」でも応募したいという。大学入試でも記念受験、思い出受験というのがあるが、そんな感覚かもしれない。普通なら「分かりました」とS社にご推薦するところだ。たとえ書類選考で、結果的に不合格になっても、Tさん自身はスッキリした気持ちで他社の面接に専念できるというものである。

しかし、S社を担当しているコンサルタントによると、「そうしたダメモトの推薦は同社がいちばん嫌うところ」なのだという。S社は有名企業なので、一般公募でも記念応募が非常に多いらしい。そのため人材紹介会社に対して、「この人なら大丈夫」といえる自信のある候補者だけを送って欲しいという強い希望があるのだという。

人材紹介会社が合否を決められない

「S社の採用基準は非常に高いのですが、その水準に及ばない候補者ばかりを推薦していたある人材紹介会社が契約を打ち切られたこともあるそうですよ」

S社の担当コンサルタントはそんな不吉な話も教えてくれた。S社は、推薦前に一度候補者をふるいにかけることに期待して人材紹介会社を利用しているのだから、ありえない話ではなかった。

しかし、Tさんの希望を一方的に断れない理由があった。多くの人材紹介会社がそうであるように、私たちも「候補者の希望を最優先します」「決して応募先を無理強いすることはありません」とうたっているのである。

「なんとかならないでしょうか。実際、絶対に無理だと思っていた候補者が良いところまで進むこともあるのでは…」

私はTさんを何とか推薦してもらえるように、S社の担当コンサルタントを説得することにした。人材紹介会社は企業が望むスペックを十分に理解してスクリーニングを行なうことになっているが、正直な話、企業の内情や最新の採用動向を「100%」把握しているわけではない。「ダメモト」で推薦した候補者が書類選考を通過したり、場合によっては採用に至ったりするケースもなかにはあるのだ。

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「Tさんの可能性を、私たちが断つことはできないでしょう…」

極端な話、人材紹介会社がアテにならないと思ったTさんがS社に自ら応募して書類選考を通過するようなことがあれば、今度は私たちがTさんからの信頼を 100%失ってしまうことになるだろう。また、S社にとっても、可能性のある候補者との出会いを人材紹介会社の判断で失うことは望んでいないはずだ。

結局、S社の担当コンサルタントはTさんを推薦してくれることになった。

「ありがとうございます。これで思い残すことなく他の企業の面接も頑張れます」

笑顔のTさんを見ながら、このようなケースは今後も数多くあるのだろうと私は思った。



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