「あの人と一緒に働きたい」という入社動機
もし理想とする先輩がいなくなったら?
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「後ろ盾」を失った場合どうすればいいのか
「その役員ですが、私が入社した2ヵ月後に転職してしまったんです」
「えっ、そうなんですか」
予想外の展開に、私は思わず驚いた声を出してしまった。しかし、よく考えるとこれまでにも何度か、似たような話を聞いたことがあった。たとえば、すでに転職が決まっているマネジャーが自分の後任を自ら面接して採用するケース。その際に「自分はもう退任が決まっているので、その後を任せたい」とはっきり伝えて採用すれば問題ないのだが、影響力が大きい人材の場合、社内での発表も退職直前になることが少なくない。当然、候補者にも自分が辞めることは伏せたまま採用選考を進めることになる。
こうした場合、前任者が「ぜひこの人と一緒に働きたい」と思わせる魅力がある人でも、入社したときはすでに退任は既定路線となっている。Nさんの場合も、直接の後任ではないにしろ、近いケースだったのかもしれない。
「役員の方が転職したのなら、人事部長や直属の上司など社内の方に相談してみてはいかがですか」
私のこの問いに対するNさんの回答も、なかなか深刻だった。
「もちろん相談はしました。ただ、人事も直属の上司も、もともとは業界未経験者を採用することには慎重派だったようなんです。彼らは役員が独断で異業種の人間を採用したことを、あまり良く思っていなかったようで……」
「そうなんですね」
いってみればNさんは、入社した後にはしごをはずされ、後ろ盾を失った状態になっていたのだった。
「この人と一緒に働きたい」と感じられる先輩がいること自体はいいことだろう。しかし、その人物とずっと一緒に仕事ができるという保証はない。企業を選ぶ際には、働く「人」だけでなく、企業の風土や仕事内容など、さまざまな要素を検討して決める必要がある。
「再度転職活動をされるのでしたら、仕事内容も含めてじっくりと探す方がいいでしょうね。ご希望があればお手伝いさせていただきます」
Nさんにとってもその方がいいかもしれない。私はそう考え始めていた。
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