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人材採用“ウラ”“オモテ” 
企業・求職者・人材紹介会社の「転職」三角関係

一般企業への就職を希望する博士号取得者
転職する理由がなくなってしまった転職者

せっかくの「知」を生かしたい

「博士」の力を活用できる企業とは?

企業が「博士号取得者」の採用を積極的に行おうとしている、というニュースを見かけるようになった。逆にいえば、これまでは非常に少なかったということでもある。理工系の場合、修士号まで持った大学院修了者はもはや当たり前だが、やはり博士となると急に採用の敷居も高くなるようだ。以前から指摘されている問題だが、今後は変化していくのだろうか。

意外に多い博士課程で学ぶ人々

「これまで研究してきたことを生かせる仕事…というと、少ないんですよね。求人サイトにもあまり出てないですよね」

この日、転職相談に来ていたFさんは、大学院で博士号を取得。その後、研究者をめざして大学に残っていたが、その可能性が少ないということがはっきりしてきた。そこで、今後は一般企業で働く道を選択したい…。そんなご相談だった。

実は、Fさんのような経歴の方は決して珍しいわけではない。

「理科系の場合、大学院で修士まで取る人って普通じゃないですか。それで、勢いがついて博士まで行ってしまうんですよね」

理工系の場合、大手メーカーなどでは修士号取得者を優先的に採用している企業も多い。そこで、学部卒よりも就職に有利だということで大学院に進む人が一般的だが、博士号まで取得する人はやはり学問が好きな人が多いのだろうか。

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「就職に関していえば、博士まで行ってしまうと不利だということはみんな知ってますから、それでも行くという人は基本的には学問が好きなんでしょうね」

企業が「博士」をあまり採用しないのには、いくつかの理由が挙げられている。まず、専門分野を深く勉強しているので、自分の専門外のことをあまりやりたがらない。企業としては使いにくいということのようだ。また、プライドが高そう、コミュニケーションが苦手な人が多そう、コスト意識がなさそう…といった、マイナスイメージで敬遠している企業も多いという。

「企業への就職が嫌だということで、一種のモラトリアム期間として博士課程まで行くような人もいるみたいですけどね…」

そう語ってくれるFさんは、十分コミュニケーション能力もありそうだが…。

これから企業は「博士」を積極採用していくのか

「コミュニケーション能力はそれほどないと思います。やはり、大学という特殊な組織に長くいると、一般企業の会社員とはかなり違う感覚になっているでしょう…」

Fさんの場合、自分でもそう認識しているから、おそらく企業に入社しても、うまく修正していくことができるのではないだろうか。問題はまったくその自覚がない人の場合だろう。

「大学院で博士課程まで行くと、けっこう学費もかかってるんですよね。ですから、一番は、せっかく勉強してきたことを無駄にしたくない…という気持ちじゃないでしょうか。ですから、どうしても専門にこだわってしまうんだと思います。特に、留学とかして、海外で勉強したような人の場合は、費用も労力も相当かかってますから…」

たしかに米国などでは、一流大学の博士号取得者の場合、実務未経験でも最初から好条件で採用されることも多い。同じ研究室で学んだ仲間が、米国企業で成功している様子などを見ていた場合、日本の現状には失望するのではないだろうか。

「留学した先輩が言っていたのですが、新卒でも年収8万ドル、日本円で1000万円前後のオファーをもらう人もいるみたいです。でも、まあ自分の場合は、そこまでは望んでいませんから。普通に生活できるレベルでまったく問題ありません」

おそらく企業が、博士号取得者の採用をもっと前向きに進めるようになったら、それこそ企業向きの人材が、より高度な勉強を安心してできるような時代になるのではないだろうか。現状では、企業への就職が若干不利でもいい…と考えるような研究志向の強い人材、あるいはモラトリアム期間を望むような人の割合が高くなってしまっている可能性はある。

「ともかく、今の大学との契約は来月で終わるので、本当によろしくお願いします。専門分野以外の仕事も前向きに考えていますので…」

Fさんと私は求人探しをさらに本格的に行うことを確認しあったのだった。

意外とよく発生する問題

内定をもらったのに転職する理由がなくなってしまったら

転職活動中に、自分の置かれている状況が変わることはよくあることだ。たとえば、転勤に応じられないから転勤のない会社に移ろうと思っていたら、急に転勤話が立ち消えになった…など。しかし、その場合も将来また転勤を命じられる可能性は残るわけである。そんなケースで残留するか転職するかを決断するのはなかなか難しい問題だ。

せっかく入社した会社でやりたい仕事ができない現実

「実はご相談があるんですけど…、今の会社でいっこうに始まらなかった例のプロジェクトがいよいよスタートすることになったらしいんです」

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Tさんから電話がかかってきたのは、ご紹介していたN社からTさんへの内定が出た直後のことだった。

「例のプロジェクトといいますと…」
「ええ、最初にお話ししたと思うんですけど、そのプロジェクトに携わりたくて今の会社に入社したのに、半年以上たっても研修ばかりの毎日でまったく始まらなかったアレですよ」
「ああ、そうでしたね…」

Tさんは今勤務している会社に入ってまだ1年もたっていないのだ。それなのに転職しようと思った理由がそれだったのである。

最初、Tさんはなかなか希望した仕事ができない苛立ちを正直に話してくれたのだ。Tさんの会社は、社員数わずか20人ほどの企業である。その前は大手とはいかないまでも中堅の会社で働いていたTさんが、わざわざベンチャー企業のような中小企業を選んで入ったのは、どうしてもある特殊な製品の開発プロジェクトで働きたい…という強い思いがあったからなのだという。

「それなら一日も早く同じような開発に関われる会社に移られたらどうでしょう。同じような仕事ができるという内容で募集している企業は他にもありますよ」と提案した私にTさんも賛同し、さっそく紹介したうちの一社、N社からの内定が出たのがつい先日のことだったのだ。給与も若干ではあるがアップするし、何より良いのはTさんが渇望している同様の開発業務がすでに走っていることだった。

会社への恩義か、それとも自分の希望か…

「で、Tさんはどうしたいのですか? N社の仕事はTさんの希望にぴったりですし、先日入社日も決めたばかりですよね。今の会社への退職手続きも始めるとおっしゃっていたと思いますが…」

Tさん自身もコトの展開に驚いているらしく、とても迷っているのだと言った。

「ええ、N社にはとても感謝しています。内定が決まった時には、これで希望した仕事ができると思って、正直ホッとしましたよ。でも…」

ちょっと言葉を切って考えながら、ゆっくりとTさんは話してくれた。

「今の会社にも、たっぷり半年間も研修してくれた恩義がありますし、転職しないで希望の仕事ができるならしない方がいいのかな…とも思うんですよ。経験社数は増えないほうがいいようにも思いますし…」
「もちろんそうですね。でも、今の会社は小規模だし、たとえ当面はプロジェクトが続いたとしても、将来もずっと携われるかどうかは保証がないんですよね。たしか、それもご心配されていたように覚えていますよ。その点、N社は業界でも準大手だし、プロジェクトが途切れることはまずありえません。いろいろな経験もできると思います」

うーん、とTさんは考えている。

「ちょっと考える時間をいただけませんか。自分なりに整理したいと思います」
「大丈夫ですよ。でも、N社をあまりお待たせすることはできません。入社するなら気持ちよく入社した方がいいと思いますから、数日以内にはお返事が必要かと思います」

セオリーとしては、これは新しいN社で心機一転スタートした方がいいケースだろう。今の会社には半年しか勤めていないのだし、恩義に敏感になるよりも、希望した仕事がコンスタントにできる環境を確保することを優先するほうがいいはずだ。

しかし、Tさんが現職に留まる可能性も大いにあることは、私には分かっていた。当面同じ結果が得られるなら、あまり変化を望まない人の方が多いからである。もちろん、社内の勝手が分かっているという点では、今の会社に残ることのメリットもある。

どちらが良い選択だったのかは1年後、2年後くらいにならないと分からないだろう。だからこそ、最後の決定は本人にしかできないのである。



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