「働き方改革」の弊害か……見失いたくない転職の目的いつの間にか変化してしまうことも 転職してわかった「自分が求めていたもの」
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たしかに勤務環境は良かったが……
「実際に無理のない働き方のできる会社で、そこはまったくイメージ通りでした。ただ……」
Aさんによると新しい会社の仕事内容は、Aさんにとって簡単すぎるのだという。以前の会社が成長企業で、忙しいのと同時に自分も成長しているという手応えを感じられたのに対して、今の会社は大企業のグループ会社で、自分一人が頑張ったところで、裁量が限られているという。
「正直、前回の転職ではブラックかホワイトかというところにばかりが気になってしまっていました。同じ職種だし、仕事内容はそう変わらないだろうと思っていたのですが」
Aさんが本当に求めていたのは、「やりがいとワークライフバランスの比率を変えたい」というものだったのだ。しかし、転職活動をしているうちに、「同じようなブラック企業に再就職することがあってはならない」という気持ちが先行するようになり、いつのまにかやりがいはそっちのけになっていたという。
実は、転職活動をする人がこういう心理状態に陥ることは、決してめずらしいことではない。中には「転職すること」自体が目標になってしまい、入社した後で「自分が本当に行きたかった会社はこういうところではなかった」と思い始める人もいる。
「わかりました。まだ転職されて一年ですから、働きながらもう一度じっくり探すことをおすすめします。仕事内容も充実していて、ワークライフバランスにも配慮してくれる環境の会社を探しましょう。今は『働き方改革』の考え方が広がりつつありますから、そういう企業も増えていると思いますよ」
そうアドバイスすると、Aさんはまたしても独自の転職理論を繰り出してきた。
「今の会社に長く勤めていると、『ぬるい会社に長くいた人材』という見られ方をされるんじゃないですか。思い切って退職して、背水の陣で臨んだ方がよい結果につながるということはないでしょうか」
私はあわててAさんをとめた。
「退職は絶対やめてください。退職してしまうとそれが焦りを生むことになりますからね。焦るとまた当初の自分が求めていたものを見失ってしまう可能性があります。幸い、今の会社は残業も少ないということですから、働きながらでも余裕を持って転職活動ができるのではないですか」
まだ20代のAさん。一度くらい失敗してもリカバリーできる年代だが、二度、三度と繰り返すと、一気に厳しくなってしまう。前のめりなのはAさんの良いところでもあり、同時に弱点なのかもしれない。
ここはしっかりサポートしなければ、と私は改めて気を引き締めたのだった。
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