「その人材はやめておきましょう」とは言えない、
企業と人材の間に立つ人材紹介会社の立場
「この人材は採るべきか」と企業に相談されても 推薦した以上「その人材はやめましょう」とは言えない
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「正直迷っているんです」
「相談というのは、御社にご紹介いただいたPさんのことなんです」
オフィスのソファに腰かけてお茶を一口飲むと、M部長が切り出した。

「彼はうちに入社する意思があるんですかねえ。契約に細かいのはいいんですけど、どうも時間を引き延ばされているような気がしてしまうんですよ。御社はこれまでもいろんな人を見てきているわけでしょう? 率直にPさんについて、どう思われますか? やっぱり採用した方がいいのかどうか、正直迷っているんですよ」
M部長は採用が本職ではない。だからこういうケースもこれまでに経験がないのだという。どうやらM部長は、Pさんが契約書に時間をかけ、その間に他社との天秤にかけているのではないかと気になっていたようだ。そして、そんなテクニックを弄する人材を「果たして採用すべきなのか?」と思い始めたのだという。
「そうですねえ……」
正直どう答えればいいのか、私もまた迷っていた。Pさんの契約書をめぐる一連の経緯が特殊だということもあるが、そもそも人材紹介会社は、「採否を決めるのはあくまでも企業側」という立場だからだ。
人材紹介会社は候補者を「推薦」しているが、これはあくまでも「候補としての推薦」である。一部のエグゼクティブサーチなどでは、企業の戦略や社風などまで完璧につかんだうえで、「この人が御社には最適です」と絞り込んで薦める場合もあるが、一般的な人材紹介の場合、そこまでの深いコミットは難しい。かといって、企業側が迷っているからといって「ではやめておきましょうか」とも言えない。人材側にもその企業を紹介した責任がある。よほど挙動がおかしいといった事情がない限りは、紹介会社が勝手に話を終わらせるわけにはいかないのだ。
「Pさんが意図的に引き延ばしをしているのかどうかは、正直言ってわかりません。もし気になるなら、契約書へのサインが終わるまではお互いに交渉中で対等なわけですから、納得いくまで話し合われてはどうでしょうか」
人材紹介会社としてできる提案はここまでが限界だろう。M部長ももちろん、私に判断を丸投げしに来たわけではない。案外、第三者的な誰かに迷いをぶつけることで、自分の考えを整理したかったのではないか。「もう少しだけ、話し合ってみます」と言って帰っていった後姿からは、そんな思いが見えたような気がした。
後日談を書き添えるなら、Pさんは結果的にはM部長の会社には入社しなかった。現職の会社に退職を切りだしたところ、強く慰留され、年収の大幅アップを提示されたからだという。リスクを伴う日本行きに家族が強く反対したのも、理由の一つだった。
関係者全員が相当に迷い、契約書作成などの大変な手間をかけてもまとまらないこともある。特殊なケースになればなるほど成約しにくいのが人材紹介なのかもしれない。
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