職場のモヤモヤ解決図鑑【第63回】
新人教育を任された!教えるときのポイントは?
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!
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志田 徹(しだ とおる)
都内メーカー勤務の35才。営業主任で夏樹の上司。頼りないが根は真面目。
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児玉 夏樹(こだま なつき)
社会人3年目の25才。志田の部下。ネットとサブカルが好き。
入社3年目となり、新人教育を任された児玉さん。頼りになる先輩になりたいと思いつつも、新しい役割に少々不安な様子です。新入社員のモチベーションを高め、自律的な働き方を促す新人教育を実現するためには、どうすればいいのか考えます。
新人教育の手法
新人教育は、早期戦力化のほか、学生から社会人へマインドを変えることなどを目的に行われます。
新人教育の手法には、現場で指導する「OJT」、職場から離れた場で研修やセミナーを実施する「OFF-JT」、業務だけではなくメンタル面でのサポートも担う「メンター制度」などがあります。新人教育の目的や業務内容によって、適した手法が異なります。
OJT
OJT(On the Job Training)は、実際の業務を通じて指導する教育手法です。実践での学びを通じて、現場で求められるスキルを早期に伸ばすことが可能です。新人の業務経験や特性に合わせて指導しやすいという特徴があります。ただし、指導担当者のスキルによって教育の質が左右されるため、OJT体制を確立するためには上司や人事部からのフォローが必要です。
OFFーJT
OFF-JT(Off The Job Training)は現場を離れて、主に座学やグループワークで学ぶスタイルの研修を指します。新人教育では、ビジネスマナーやITスキルなどを学ぶ際に多く用いられます。数十人や数百人といった単位で新人を集めて一度に教えることができ、基礎知識などの平準化を図れる点がメリットです。実務の感覚はつかみにくいため、OJTとの併用が好ましいといえます。
メンター制度
メンターとは、実務だけではなく、メンタル面をサポートする社員を指します。メンターが業務上の悩みやキャリア形成などに関してアドバイスすることで、新入社員のモチベーション向上、早期離職防止が期待できます。メンターは、直属の上司以外に他部署の社員が担当することもあり、社内の人脈形成にも役立ちます。
- 【参考】
- メンター制度
マニュアル
必要な手順や知識を体系的にまとめたマニュアルは、新人が業務を覚える際に役立ちます。マニュアルがあると、業務手順に不明な点があったときに自ら調べて確認できます。マニュアルは、OJTの予習・復習にも活用できます。
新人教育で重要なステップ
新人教育を効果的に進めるためのステップを紹介します。
【ステップ1】
業務の全体像を伝える
はじめに、業務の流れや事業の全体像を伝えます。「データ入力」といった単調な業務や、「販売」など直接売上につながる業務の相関性を示すことで、それぞれの業務の意義を理解できるようにします。最初は目立たない仕事を任されることも多い新人にとって、全体像を知ることはモチベーション維持に役立ちます。
【ステップ2】
作業を見せながら説明する
口頭で説明するだけでは理解を促すことが難しいため、作業を見せながら説明すると効果的です。まず全体の流れを見せてから説明する、理解できていない場合は作業を一時的に止めて詳しく説明するなど、相手の状況に合わせて柔軟に対応します。
新人に業務のポイントを覚えてもらうために、メモをとらせることは重要です。ただし、メモをとるのに時間がかかりすぎている場合は改善が必要です。要点をメモでまとめるコツを伝えたり、質問を受けることで知識の整理を促したりすると良いでしょう。
【ステップ3】
やりながら質問を受け付ける
一通り作業を見せて説明したあとは、実際に作業をしてもらいます。このとき、はじめは完璧にできなくても問題ないことを伝えると、新人の心理的安全性が高まります。重要なのは、先輩社員がそばで新人の作業を見ていること。わからないことがあればすぐに質問できるので、2回目以降の作業の習熟度が向上します。
接客や電話の顧客対応といった臨機応変な対応が求められる業務では、研修でロールプレイングを導入するなど、実践的な経験を積める場を用意します。
【ステップ4】
フィードバックを行う
新人へのフィードバックは、できる限りその場で行います。良いフィードバックは、新人のモチベーション向上にもつながります。話す時間を確保するのが難しい場合は、日報やメールなどを利用するのもいいでしょう。
改善点に関する指導が積み重なると、新人が負担に感じることもあります。上司や人事部は、教育担当の社員や新人の様子を見守り、場合によってはフィードバック後に新人をフォローすることも必要です。
新人教育のポイント
新人教育で気を付けるべきポイントを紹介します。
質問しやすい雰囲気を作る
新人はわからないことがあっても「わからないと思われたら、評価が下がるかもしれない」などと考え、質問しないことがあります。周囲に能力が低いと思われることを恐れ、不明点を放置してしまうのです。
しかし、質問をすることで、新人は業務の理解度が高めることができます。また、質問を通じて、指導者側は新人の理解度や考え方の癖を把握できます。新人に対しては、「わからない点があればいつでも聞いてください」と、質問を歓迎する姿勢であることを伝えるといいでしょう。
実際に質問された際は、業務の手を止めてきちんと話を聞きます。困っている様子を見かけたときに声をかけてサポートする姿勢を示せば、新人の心理的安全性を高めることにもつながります。
- 【参考】
- 心理的安全性とは|日本の人事部
ゴールを示す
新人が達成感を得られるように、教育のゴールを示すことも重要です。たとえば、営業の新人研修において、期間と売上目標は研修のゴールとなり、新人の目標達成への意欲を向上させます。数値に限らず、「今週は〇〇ができるようになることが目標」と細かいステップを示すとモチベーション向上につながります。
- 【参考】
- OKR|日本の人事部
業務の目的を伝える
新人教育では、業務の手順とあわせて、背景や目的を伝えます。たとえば、データ入力のような単調業務は雑用のように感じられ、モチベーションが下がることがあります。単調な作業でも、売り上げを立てるために欠かせないフローであると伝えることが重要です。
考える機会をつくる
ただ与えられた作業をするだけでなく、自分で考えることで、自律的に仕事に取り組む姿勢が育まれます。たとえば教えるだけではなく、「〇〇と△△のやり方、どちらがいいと思う?」「どうしてそう考えたの?」などと聞くことで、新人は業務を自分事として捉えられるようになります。また、回答にフィードバックすることで、新人は思考力を鍛えることができます。
NGな新人教育の例
指導方法を誤ると、モチベーション低下や早期離職につながりかねません。先輩社員は適切な指導ができるよう、避けるべきことなどを事前研修などで学ぶ必要があります。
感情的に叱る |
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失敗やミスについて、感情的に叱ることは避けます。叱られた側が羞恥心や恐怖を強く記憶してしまい、行動の改善を促すことが難しくなるからです。失敗を叱責するのではなく、誰にでも起こり得ることとして原因と予防策を共に考えることが、新人への重要なサポートになります。 |
指導者が忙しく、放置してしまう |
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OJTでは、指導係の社員が業務で忙しく、結果として新人を放置してしまうケースが見受けられます。何を指導するべきか、教育内容をマニュアルなどで確認し、必要であれば業務量を調整します。 |
仕事の目的や意義、背景を伝えずに作業のみ教える |
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作業のみを教えるのではなく、なぜその作業や業務が必要なのか、できる限り説明することが大切です。自身が行っている作業が役立っていることがわかれば、新人の仕事に対するモチベーションが高くなります。 |
指導する社員によって教え方が異なる |
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指導係や業務で接する社員が複数いる場合、人によって言っている内容が異なると、新人が混乱する原因となります。業務フローやルールは、新人教育の前に統一しておく必要があります。 |
【まとめ】
- OJT、OFF-JTを組み合わせて新人教育を行う。メンタル面のサポートなどを通して定着を促したい場合はメンター制度も効果的
- 業務のやり方だけを教えるのではなく、業務の意義や目的、他の業務との関連性など全体像を示すことで、仕事へのモチベーションが向上する
- 新人教育を担当する社員が指導しやすいように、マネジャーや人事がサポートすることも重要
新人教育のステップなど、基礎知識を得た児玉さん。後編では、メンターに任命された児玉さんが、期待される役割や心得などを学びます。
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!