「キャリアアドバイザー」を活用することで、
組織の活性化と個人のキャリア自律の統合を図る
慶應義塾大学総合政策学部教授 同大学キャリアリソースラボラトリー代表
花田 光世さん
組織における「キャリアアドバイザー」の浸透と役割の進化
企業が「キャリアアドバイザー」や「キャリア自律」を支援することは、実際には難しいのではないでしょうか。
現場には嫌われ、経営者には無理だという姿勢をとられるのが実情だと思います。語弊があるかもしれませんが、多くの企業におけるキャリア自律はまだ小手先の対応です。キャリア自律を可能にする人事の受け皿作りや、自己啓発にとどまらない現場教育のあり方の見直しにつながるキャリア自律の展開などは、まだまだだと思います。もし企業が本当にキャリア自律を推進しようとするなら、キャリア自律のワークショップの中で職場や上司の期待をしっかりと組み込んだキャリア自律をデザインすることや、OJDと呼んでいる日常業務の中で自分のキャリアチャンスを広げる自主的な活動を組織として認めることが必要です。しかし実際には、時代の流れでキャリア自律や自己啓発が重要だと言われているのでとりあえず研修でもやってみるか、という表面的なプログラム消化型の対応がかなり多いのではないでしょうか。
そのようなトレンドの中にあっても、企業の中で「キャリア自律は本当に大事だと思うから、何としてでも実践していきたい」「制度としてキャリア自律は導入できていない。仕組みとして受け皿もそんなにない。でも、人事としてキャリア自律を進めていくにはどうしたらいいか」ということを一所懸命考えて勉強して、できるところから少しでも導入していこうという人たちが2003~04年(平成15~16年)くらいから徐々に増えてきました。
そういった努力の結果、キャリアアドバイザーの考え方が徐々に拡がり、キャリアアドバイザーの役割を実験的に実践する方々や人事部門が出始め、企業の中で存在感を増すようになっていきました。私の認識では、2003~04年(平成15~16年)頃から活動を始めた方々が、キャリアアドバイザーの「第一世代」。キャリアアドバイス制度を自分たちで作っていくのだということで、一所懸命努力されました。創業家精神・起業家精神というか、そういう気概にあふれていたのが第一世代だったと思います。すると、その動きを徐々に会社として認めていく流れが生まれました。
そうすると今度は、会社がキャリアアドバイザーを活用・任用し、制度として動かし始めます。そこで何が起こるかというと、キャリアアドバイザーのスタッフ化です。キャリアアドバイザーという活動にプロフェッショナル意識を持って専門的な知識を勉強し、一所懸命にキャリアアドバイザーの活動に取り組む。しかし、自分がゼロベースで仕組みを作っていくということではありません。出来上がった仕組みの上で、それをどのようにメンテナンスしていくか、回していくか、改善・改良・工夫していくか。そういう方向で動く人たちであり、これが「第二世代」です。
そして現在は、「第三世代」に入りかかっています。第三世代は多面的なキャリアアドバイザーの役割作りを担っています。ダイバーシティ、CSRといったような教育部門やキャリア支援部門とは少し異なる領域やプロジェクトの中で、キャリアアドバイザーの活動を実践する方々が登場し、そういう動きの中で、キャリアアドバイザー活動が組織全体へと少しずつ広がってきています。キャリアアドバイザーといっても、一つのレールの上で活動が進化しているのではなく、いろいろな活動を行ったり、新しいものを加えたりしながら、進化・変化しているのです。
その変化のポイントは、どのようなことでしょうか。
まず、これからのキャリアアドバイザーの活動では、人事教育部門との連動が重要です。当たり前のことだと思われるかもしれませんが、今までのキャリアアドバイザーは、実は“意図的に”人事部門と距離を置いてきました。人事の中にいたら、人事とツーカーになり「この情報は人事に流れるのではないか」という懸念を、相談を受けにきた方に持たせてしまうからです。
ところが、人事部門との連動の強化は人事部門に影響をもたらします。人事の仕組み自体が、キャリア自律を反映した運用に変化し始めるようになるからです。そうすると、キャリア面談や社内公募、ジョブポスティングなど、人事の一連の仕組みの中でキャリアアドバイザーを巻き込んだ人事活動が動き始めると思います。
人事とは意図的に距離を置いていたのがキャリアアドバイザーの第一世代で、人事とは距離を置く形で専門性を深めていたのが第二世代です。「キャリアアドバイザーは人事と距離を置く」ということで多くのキャリアドバイザーが自分の働きがいを作ってきましたが、これからはそれとは違った形でキャリアアドバイザー活動が進化し、新たな人事の進化も見られるようになるのではないでしょうか。
「キャリア開発」は対象範囲が広く、その手法もさまざま。「大切なことだとは認識しているが、何から取り組めばいいのかわからない」という声は少なくありません。他社の具体的な施策や、実践のポイントを学ぶことで、自社の今後のキャリア開発支援に活かせます
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