「キャリアアドバイザー」を活用することで、
組織の活性化と個人のキャリア自律の統合を図る
慶應義塾大学総合政策学部教授 同大学キャリアリソースラボラトリー代表
花田 光世さん
上司をフォローするのが「キャリアアドバイザー」の役割
そうなると、入社して3~5年間の上司のあり方が重要になってきますね。
そのためにはまず、個人をしっかりと鍛えること。そして、個人のためを思って、個人の成長という視点で叱ることができる上司の存在が不可欠です。若者の期待に沿って、親切に丁寧に優しくといった迎合的なマネジメントではなくて、鍛えたり叱ったりできなければならない。組織や日常の現実とはどういったものなのかを、しっかり理解してもらえるような情報提供も行わなければいけない。さらには日常の仕事の重要性や、それがどのような成長やチャンスの拡がりにつながるのかを、若者視点で語ることができる。そういった上司の存在が大変重要です。
支援型の上司、コーチング型の上司など、いろいろと言葉はありますが、基盤がある程度できて「自分はこれからどうしたいのか」という局面に立った時に、本人の持っている力や関心を引き出すコーチングは重要です。しかし、最初の3年間の出会い、イニシエーション(通過儀礼)、組織における社会化、そういった状況の中では、コーチングという考え方は少し引いてみたほうがいいのではないでしょうか。
要はバランスが大事なのです。指導一辺倒では、今の若者はついてきてくれません。叱ってばかりでは本人のやる気を阻害するだろうし、マイナス的な影響もあるので、若者が元気になるような対応として、寄り添い型といった対応もあってしかるべきだと思います。
しかし、実際には若者に対して基盤をしっかり作ることが欠けてしまっています。自分のキャリア、自分の方向性、自分の関心といった「自分」にのみ目が行ってしまいがちな若者に、周囲の期待、職場の期待、組織の方向性を分かりやすく伝え、仕事の持つ意味、仕事の関連性、一つの仕事がどう次の仕事やチャンスにつながるかを伝えることは、上司の重要な役割です。しかし、残念ながら今の管理者教育にも、このような部分が抜け落ちている。その意味からも、こういった対応に不慣れな上司には、キャリアアドバイザーの支援が必要です。
ここまで入社3~4年の若者とその上司の話を伺いましたが、次の段階である入社5~6年の一本立ちフェーズの若者への支援はどう思われますか。
その頃から、キャリア自律が本格的に動き始めると思います。自分の力で自分の可能性を開いていくという活動です。基礎を築いたとしても、世界は予定調和ではありません。矛盾に充ちた過酷な世界です。自分の基盤すら大きく揺らぐ中で、新たな基盤づくりを含めた「状況対応力」、それを私は「人間力」と呼んでいますが、その力を発揮することが重要になってきます。人間力は誰もが持っている力であり、問題はそれを発揮できるかどうかの個々人のマインドセットです。ここで、独り立ちしていく一人ひとりの社員に対する、新たなキャリアアドバイザーの役割が生まれてきます。
キャリアアドバイザーの役割といっても、支援を受ける側のライフステージ、キャリアステージによってその内容は大きく変わってきます。しかし、入社3~4年の若手に対しての支援を除いて、自分の多様な力の棚卸し、周囲からの期待への気づきをベースとした自分の力の発揮、不透明な環境の中での状況対応力発揮の支援などは、キャリア自律における基本コンセプトであり、キャリアアドバイザーの重要な支援対象に他なりません。
「キャリアアドバイザー」と「キャリアカウンセラー」の違いとは?
当初、「キャリアアドバイザー」が世の中に出てきた時には、どちらかというと「キャリアカウンセラー」と同義語として扱われていたように思います。
厚生労働省が用意した呼称は、キャリアアドバイザーでもなく、キャリアカウンセラーでもなく、「キャリアコンサルタント」でした。しかし、このキャリアコンサルタントの役割は、平成10年代は主として、キャリアカウンセラーの活動を想定していたように思います。そして、キャリアコンサルタントを提唱した厚生労働省主催のキャリア研究会の平成19年度(2007年度)の研究報告あたりから、徐々にキャリアコンサルタントの活動の中に、「個」に特化した支援を行うキャリアカウンセラーとは異なる、組織の活性化や上司や職場を含む周辺支援を行うキャリアアドバイザーの役割が認められていくようになりました。ですので、キャリアコンサルタントを育成する民間団体の多くは、活動の初期はキャリアカウンセラー育成の体制を取っていたと思います。「キャリア論」という理論をベースに、ライフキャリア、ワーク・ライフ・バランス、それからキャリアカウンセリングという世界の中での支援役割作りを行っていました。
しかし、その役割と企業組織のニーズとはミスマッチだったと思います。キャリアカウンセラーは「キャリア理論」中心で、組織の活性化を含む現場のダイナミズムへの対応は弱かったと思います。しかもそのライフキャリアやキャリア理論は、30年以上前の理論をベースにしていて、変化や技術の陳腐化などが激しい現在の組織のキャリア観にはつながらないものが多かったのではないでしょうか。また、個人の傾聴といっても、時間のかかることをいつまでもされると困るといった、現場からのニーズに適していないという、キャリア支援者に対する不満も出てきました。
現場のニーズは、激しくダイナミックに動く組織環境の中で、自律的に仕事をしている人たちへの支援を、現場活動を利用しながら行うことのできるキャリアアドバイザーだったのだと思います。それに対して、キャリアカウンセラー中心のキャリアコンサルタントの役割は、十分に企業の現場のニーズには応えることができていなかった。その状態が平成18年(2006年)頃まで続き、そのミスマッチに対する対応として、キャリアアドバイザーが対象とするサービスが徐々にキャリアコンサルタントの役割の中に入ってくるようになってきたのです。具体的には、上司へのアドバイス、職場へのアドバイス、組織の活性化などです。厚生労働省のアプローチの中でも、徐々に、介入、コーディネーション(調整)、情報提供という流れが出てくるようになりました。
そして平成20年(2008年)くらいから、徐々にキャリアコンサルタントの活動の中にカウンセラーにとどまらない組織の視点、現場の活性化といった視点が入り込んできました。傾聴重視のカウンセリングからいえば、介入、コーディネーションの導入は抵抗があったかと思います。それは組織の視点であり、個を超えた視点で入ってくるわけですから当然のことでしょう。しかし、徐々にキャリアコンサルタントの活動の中に、カウンセラーにとどまらない組織の視点、現場の活性化といったような視点が入り込んできたのです。
こうした動きが出てきた中で私たちは、1999年(平成11年)から「キャリアアドバイザーコース」を提供し、一貫してキャリアアドバイザーを重視するという立場を取っています。この活動は、キャリアアドバイザーとキャリア自律のワークショップを連動させる形で動かし始めました。慶應義塾大学SFC研究所の中に「キャリアリソースラボ」を1999年に設立し、キャリア自律の提唱とその支援者としてのキャリアアドバイザーの育成プログラムを開発してきました。
「キャリア開発」は対象範囲が広く、その手法もさまざま。「大切なことだとは認識しているが、何から取り組めばいいのかわからない」という声は少なくありません。他社の具体的な施策や、実践のポイントを学ぶことで、自社の今後のキャリア開発支援に活かせます
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