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熟達・参加型から新たな学びのアプローチへ!
~今、求められる「アンラーニング」とは何か?

法政大学 経営学部 経営学科 教授

長岡 健さん

今後、「アンラーニング」を実現していくために

職場以外での学び、ネットワーク(越境学習)が必要となってくる

では、アンラーニングを実現していくために、何が必要なのでしょうか。

個人としては、外に出ることです。自分の考え方や価値観を揺さぶるような職場以外での学び、ネットワークがとても重要になってきます。それを「越境学習」と呼んでいます。単に職場を越えることも必要ですが、違う自分の側面、アイデンティティについての学びを促進して、仕事の場での価値観を相対化していくという活動が、とても重要だと考えます。例えば、地域のボランティアという側面の学びを促進することで、自分の職場における価値観、考え方を改めて見つめ直す機会が出てきます。また、会社とは違うネットワークを築くこともできます。

また、ビジネスにおいては専門領域を究めるというよりも、状況の変化を読み取っていくような能力が重要になってくると思います。例えば、世の中のいろいろな領域で「プロデューサー」といわれる仕事をしている人たちがいます。これからのビジネスでは、自分自身が特定分野の専門家になるのではなく、「プロデューサー」と呼ばれる人たちのように、状況変化を敏感に読み取りながら、さまざまな分野の専門家とのコラボレーションをデザインしていくような活動スタイルに可能性を感じます。特定分野の専門家になることだけが、「大人の学び」のゴールではない時代を私たちは生きています。

その際、人事部は何をすべきでしょうか。

長岡 健さん Photo

まず、これからの人材育成モデルを単純化するのは難しいことですが、多くの企業が納得するモデルとしては、一人前になるまでは熟達化を図ることも重要です。その後は、世の中を見るような力や、批判的に物事を見る力といったアンラーニングしていく力を高めていくことが相対的に重要になってきます。ざっくりと言ってしまえば、一人前になるまでが「熟達化」で、一人前になった以降は「アンラーニング」が中心の図式になるということかもしれません。

ただし、アンラーニングをどのように進めるかについては、企業主導でという意見もありますが、私は、個人による学び、個人のキャリア実現に向けた学習の力を期待したいです。

人事部は余計な手を出さないことです。越境学習を行っている人たちを何人か知っていますが、この人たちに聞くと、企業にはお金を出してほしくない、自腹でやることに価値があると言っています。というのも、主体的に外部の人たちと交わることが、自分にとって大切だと強く認識しているからです。ですから、このような人たちに対しては、特別な支援プログラムを会社が用意することはあまり意味のあることではありません。むしろ、越境学習者が周囲の視線を気にすることなく振る舞えるような雰囲気、風土づくりを推進してもらうことを、人事部には期待します。

人事部や上司が評価してくれるわけでもないのに、なぜ、彼らは外に出ていくのでしょうか。

それは、「個」の強さです。自分が本当に学びたいと思っているからこそ、積極的に動けるのだと思います。今までの知識・スキルや経験が通用しなくなってきた時代には、結果的に、そういう人たちがこれからの会社を救ってくれるのです。こうした人たちが存在することの意味を考えていくことが、社会学者としての私の役割だと思っています。

アンラーニングの重要性について、とてもよく分かりました。問題は、それをどうやって進めていくかだと思います。

アンラーニングが難しいのは組織の中だからです。フリーで仕事をしている人は、もっと自由に動いています。ですから、組織で生きている人も一人前になった後については、そうした動きを人事部として認めていく方向になってほしいと思っています。

現場は、どうしても直接的な利益に反応してしまいます。ゆくゆくは会社のためになるという施策は、現場ではなかなか打つことができません。人事部には、この点を踏まえた上で、過度に現場主義な状況を変革することが求められると思います。アンラーニングの支援というのは、直接的な利益が現場に還元される可能性が大きいわけではありませんが、そういったことを支援していけるのは、人事部だけではないでしょうか。

その点からも、人事部はこれ以上「現場寄りにならないこと」が大切だと思っています。現場での熟達・参加型の学びの重要性は、今では人事部が積極的に広報しなくてもいいほど浸透しています。必要なのは、より長期的なビジョンであり、また越境学習のように、現場の人たちがもろ手を挙げて歓迎することがないような施策をいかに浸透させていくかです。それがこれからの人事部、人事責任者には求められています。個人的には、大人が本当の意味で主体的に学び・成長するための組織外の場、「学びのサードプレイス(第三の場所)」が日本にも出てくることを期待しています。

本当にそうですね。外で個人が学ぶための「場」がこれからどんどんと出てくることを、私たちも期待しています。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

長岡 健さん Photo

(取材は2011年7月21日、東京・千代田区の法政大学にて)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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この記事ジャンル 能力開発関連制度

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越境学習
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交換留職
21世紀型スキル
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リバースメンタリング
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