キーパーソンが語る“人と組織”

社員の「学ぶ力」を劇的に変える方法

羽根 拓也さん

株式会社アクティブラーニング 代表取締役社長

何かを身につけたいと思っても、ついつい途中で挫折してしまう――。そんな時、「自分は根性がないから駄目なんだ」と思っていませんか? 企業の研修講師として活躍する羽根さんは、学ぶことは「根性」や「頑張り」で解決すべき問題ではなく、純粋なスキルなのだ、と言います。羽根さんが提唱されるアクティブラーニングとは何なのか、そして、それによって個人や組織がどう変わるのか、を伺いました。


Profile
はね・たくや●同志社大学卒業。塾や予備校、語学学校などで人気講師として活躍する。90年、文化国際交流センターの試験に合格し、91年、アメリカペンシルバニア州のサスクェハナ大学に日本語客員講師として派遣される。その後、ペンシルバニア大学、ハーバード大学等で講師をしながらアクティブラーニングの手法を研究。94年、ハーバード大学より「優秀指導証書」(Certificate of Distinction in Teaching)を受賞。97年、株式会社アクティブラーニングを設立。企業や官公庁などから依頼を受け、研修や人事コンサルティングなどを手がける。著書に『限界を突破する「学ぶ技術」』などがある。 (株式会社アクティブラーニング ホームページ http://www.als.co.jp/ )
限界を突破する「学ぶ技術」



ハーバード大から優秀指導証書を受賞

―― 企業の研修講師として活躍されている羽根さんですが、大変ユニークな指導経験をお持ちですね。

日本とアメリカで、下は0歳児から上は80歳代まで、教えた方の国籍も30ヵ国以上にはなると思います。

最初は、学生時代のアルバイトで塾や予備校の講師をしていたんです。同時に、語学学校で外国人の方たちに日本語も教えていました。そうこうしているうちに、同じように教えても、吸収のスピードが早い子もいれば、そうでない子もいる。この違いは何なんだろう、と。それでどうも、人が成長するには教える側の力量だけではなく、学習者側の力量も大きく関係しているんじゃないか、と思い始めたんです。

そのことを、たまたまお会いする機会があったアメリカ人の教授に話したら、「そういう研究をしたければ、アメリカの大学に行くといい」とアドバイスされ、最初は日本語教師としてアメリカの大学へ派遣されました。

アメリカで日本語教師として働きながら、同時に「学ぶ力」についての研究も進めていきました。私が提唱している「アクティブラーニング」は、この時の経験がベースになっています。

実際、研究で得られた成果を生かして日本語を教えてみたところ、生徒の成績はぐんぐん伸びて、94年、ハーバード大学から優秀指導証書もいただきました。

―― それで、97年に帰国し、アクティブラーニングを立ち上げられたわけですね。

はい。最初は幼児コース・小中高コース、大学社会人コース、という塾のような形式で教えていました。今のようにビジネスパーソン中心に変わったのは、スタートして2、3年ほどしてからですね。大前研一さんのビジネススクールで声をかけていただき、ビジネス系の方々にアクティブラーニングの手法を試してみたら、予想以上に好評だったんです。それからどんどん企業から引き合いがくるようになり、現在は、企業に向けての研修・コンサルティング業が中心になっています。

「開脳」を意図的に作り出す「3W」

―― アクティブラーニングとは、どのような手法なのでしょうか?

すごく興味のあること、好きな対象に向かっていると、放っておいても自然と脳が活性化して、自分でも驚くほどの記憶力を発揮する時がありますよね? 私たちはこの状態を、「開脳している」という言い方をします。つまり、開脳状態にあれば、人は自動的に学習を開始して、驚異的な成果を上げることができる、ということです。

この状態を自然任せではなく、常に意図的に作り出すことができれば、どんな人でも効果的な学習ができるはず。つまり、どういう背景要素が揃うと、人間は自動的に学習を開始するかということを長年研究し、一つの手法にしました。それがアクティブラーニングです。

企業研修でよく失敗する例としては、受講者に対してこの開脳がなされていない状態で、研修を行ってしまうケースがあります。その状態で研修を行っても受講者の頭には研修内容はほとんど残らないのです。

―― アクティブラーニングについて具体的に教えて下さい。

羽根 拓也さん Photo

典型的なものには、3W(スリーダブリュー)――「What」「Why」「Wording」――と呼んでいる方法があります。

まずWhatから説明しますと、これは日常生活の中で無意識に見ているものを意識化する訓練です。例えば、人気のカフェに入ったとしましょう。ある人は「いい雰囲気の店だな」とその雰囲気に注目するかもしれないし、ある人は「あの店員さんはいい接客をするな」と人に着目するかもしれない。要するに、同じモノを見ても、人によってその認知のしかたは違うわけです。

ただし、こうした認識は日頃、あまりにも無意識に行われているため、自覚することがほとんどありません。アクティブラーニングではまず、学習者が無意識に見ていたものを意識に上らせましょうという訓練をするのです。

大切なのは、差異に着目することです。仮に、A店よりB店の方が、どうもおしゃれな気がするという人がいたとします。そしたら、それに対して「なぜおしゃれなのか?」と問い、分析してもらいます。この段階が「Why」です。

「音楽が流れているから」とか「かわいい小物が置いてあるから」とか、その人なりの理由が見えてきたら、最後にそれを「Wording」、つまり言語化してもらいます。例えば、「音楽を流せば、おしゃれな雰囲気を作れるんだ」というように、です。

―― それをすることで、何がどう変わりますか?

日常的にこの3Wを繰り返していくと、自分で自分の「能動スイッチ」を「オン」にすることができるようになるんです。自分の周りにあるいろんな人、モノ、事象に対して好奇心の窓が開かれ、自然と学ぶ力が身についてくるわけです。

3Wが身につくと、今度は4つめのW、「Workout」(実践)しながら「Development」(発展)させていく段階に移ります。私たちはこれらを全てあわせて、自動車の4輪駆動になぞらえて「4WD」と呼んでいます。この段階にまで至れば、ギアチェンジした自動車が急な坂道を上っていくように、人は勝手に学習して、苦しい坂も楽に乗り越えていけるようになります。

これを企業のプロジェクトに当てはめて考えると、Wordingとは一つの仮説です。それが固まったら、仮説が正しいかどうかを実践で試します。試してみると、今度はお客さんの反応などがデータとして返ってきます。結果が悪かったら、「どうして悪かったんだろう」と考えて、修正していきますね? こうして初めて、それは経験となって個人や組織に蓄積されます。

すなわち、個人も組織も、こうした仮説→実践→検証→修正を繰り返すことによって成長していきます。ただし、最初の仮説を立てる訓練ができていないと、次には進めない。私たちはこれを、「学ぶ力」と呼び、すべての知識を吸収し、成長していく上での土台になる力だと位置づけています。

企業がこぞって「学ぶ力」に着目

―― 実際には、どんな企業でこうしたアクティブラーニングの手法が導入されているのでしょうか?

有名企業や、自治体や官公庁などからも声をかけていただきますし、デジタルハリウッド大学院では、04年からアクティブラーニングの手法を全面導入していただいています。独立行政法人国際協力機構(JICA)でも、海外に専門家を派遣される場合、アクティブラーニングを必須科目として受講するという形で利用していただいています。

アクティブラーニングの手法というのは、優れたビジネスパーソンであれば、自然に身につけているはずのものです。私たちはそれを理論化し、体感させていく。その上で、例えば、先ほどの3Wの研修であれば、個々人が3Wのどこが苦手でできていないかを見抜き、それに合ったアドバイスと訓練をしていく、ということをしています。

―― 企業がこぞって、「学ぶ力」に着目する理由は何でしょう?

羽根 拓也さん Photo

それは非常に簡単です。「学ぶ力」の上に乗るべき専門知識があまりに速い速度で廃れていくので、専門知識を身につけさせるだけでは、時代の変化に対応できなくなっているからです。

昭和の時代であれば、ある一つのやり方を確立すれば、それが10年、20年はもったでしょう。それがインターネットの発達やグローバル化で、3年になり、1年になり、場合によっては1年持たない、ということも起こりうるようになっています。

そういう時代に、新しい知識を注入しようと思っても、すぐに古くなってしまう。ならば、企業が人を育てようとする場合、何を鍛えればいいのかというと、どんな環境変化にも対応できる「人間力」、つまり「学ぶ力」を育てることしかないんだと思います。

私たちは採用のお手伝いもしていますが、それを理解している企業はどこも、そうした力に注目して人を採りたいとおっしゃいます。

―― 採用の段階で、その人が「人間力」を持っているかどうかを見抜くことはできるんでしょうか?

昔から、採用面接で何となく、「田中君より鈴木君がいいね」という時は、たいていこの「人間力」を見ていたわけです。「人間力」とは、その人が持つ「可能性」と言い換えてもいいかもしれません。

ビジネスをしていく上でこうした力が必要なんじゃないかということは、2年くらい前から政府も言い出していて、「社会人基礎力」という言葉で定義されています。具体的には、前に踏み出す力やコミュニケーション力などがそれにあたると言われています。ただし、そうした力を育てたいと思っても、これまでは確固とした方法論がありませんでした。私たちは、それを明確な方法論として提示しています。

―― 「人間力」や「学ぶ力」を鍛えるというと、時間がかかりそうなイメージがあります。

スポーツをするために、筋肉をつけなければならないのと一緒だと考えてください。一週間トレーニングすれば変化は見えますが、それで「変わった」とは言いきれない部分はあります。

私がイメージするのは、いわゆる伝統芸能の世界です。茶道にしても武道にしても、何年もかけて、その根っこの部分を教え込んでいきます。いわゆる「型」を覚えるというのは、「学ぶ姿勢」を整えているのと同じ。時間はかかりますが、いったん身に付けてしまえば、学ぶ対象が何であれ、応用が効きます。

―― アクティブラーニングで、組織も変わりますか?

変わります。先ほど説明した3Wをチーム全体で意識させて、自分たちが作ったフレームワークが絶対ではないと気づかせてあげればいい。そのためには、お互いが何を見て、どう感じているかをアウトプット&フィードバックさせることから始めます。

自分は「こう思っていた」ということをお互いにアウトプットし、「なぜそうなのか」を明らかにして行くと、自分自身がある一つのフレームワークにとらわれた思考をしていたことに気づきます。場合によっては、それを異なる組織や企業同士で組み合わせて実施するんです。そうすると、それまで見えていなかった「差異」が見えてきて、それがある一定まで達すると、個人が成長をはじめ、組織が自動的に変化していくんです。

実はこうしたことを、すでに文化として持っている企業もあります。典型的なのは、トヨタの「カイゼン」です。

カイゼンのいいところは、商品開発や売上を伸ばすことが目標ではなく、自分たちが成長し続けることが目標になっている点です。つまり、社員全員が「学ぶ力」を持つことが、トヨタの強みであるという共通認識ができている。これは非常に強いです。こうした人材育成を、ある会社ではリーダーシップ研修という言い方をしてみたり、グローバル人材育成といっているんですが、やっていることは何かというと、学び続けることができる人材を作っているのだ、ということに尽きると思います。

「なぜ?」を常に問い続ける

―― これからどんな社員研修をしていくべきか、悩む人事部へアドバイスをお願いします。

人も組織も、成長を続けるのは、しんどいものです。今ある状態よりもより良くしようというのですから、当然、負荷もかかります。負荷がかからないと、人は成長できません。

ただし、その時にむやみやたらに「努力」や「根性」で乗り越えようとしても限界があります。それを、先ほどの3Wのような、思考回路や行動特性を意識することによって、方法論として実践できるのです。

人も組織も、一つのフレームワークにはまってしまうと、それを自ら壊すことは難しくなります。長い間培った伝統と技を持つ企業でも、業界を超えた変革の波がやってきた時に、それに固執していたら対応できません。

人事部の方々も、去年行った研修はどういう効果があったかを、具体的に思い浮かべてみてください。変わったと思うなら、それでどのくらい、業務が改善されたでしょうか? もしも、思ったほど業務が改善されていないとしたら、それは「なぜ?」でしょうか。その「なぜ?」を問うことが、次に研修が成功するために必要なのです。

羽根 拓也さん Photo

(取材・構成=曲沼美恵、写真=中岡秀人)
取材は2008年2月14日、東京・港区にて


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