外部との交流が仕事の意義を見出し自信へとつながる
石坂産業を地域で愛される会社にした“考える”マネジメントとは
石坂産業株式会社 代表取締役
石坂典子さん
会社のビジョンと社会性のリンクに気づく、外からの声
“受け手に認められる”という意味では、施設見学を始めた2008年頃がターニングポイントとなるのでしょうか。
廃棄物を屋外に一切出さないつくりに変えるなど、環境改善を図り、「産廃会社に見えない施設」になったのですが、周囲では、建物の中で何か悪いことでもしているかのような噂が立ちました。多額の投資を行って地域に配慮したはずなのに、私たちの思いは何も伝わっていないことがとてもショックでした。そこで見学用通路を設けて、弊社の取り組みを見てもらおうと考えたのです。
社外の方々が訪れるようになると、社員は「人に見られること」を意識し始めました。いい意味で緊張感を保ちながら、自分の仕事に取り組むようになったんです。すると見学にいらっしゃったお客さまが、「あなたたちはよく頑張っているね」などとほめてくれる。第三者に評価されることで、社員は自分たちの価値を見出すことができました。社内の人間が「あなたたちの仕事は素晴らしい」と何百回言ってもかなわないくらいの力を得ることができたんです。
すると、社員は仕事に対する自負を持ち、会社のことを考えるようになります。自分自身が会社のブランドを築き上げていくことに気づき、プロセスを楽しむようになる。そういう意味でも、弊社の施設見学はPRやCSRというより、自社のブランディングや社員育成につながっている側面があります。
外からの声は、大きな刺激となるのですね。
先ほど「自分の頭で考えよう」と社員に伝えていた頃の話をしましたが、どうすればいいのかが分からないうちは、動きようがありません。しかし外から評価されると、自分たちの強みと弱みが見えてくるようになる。すると、弱みの改善や強みの強化を考えるようになります。私たちのように人材が多様とは言い難い組織では、施設見学に訪れたお客さまや地域の方々の声が、次のアクションを生み出す上で大変貴重です。
三富今昔村も、むやみやたらに里山を公園化しようとしたわけではありません。里山の成り立ちを知り、過去に根づいた文化に気づけたのは、地域の人たちとの交流があったからです。自分たちだけでは、毎日使っている施設なので良いところが見えなくなってしまう。しかし第三者が入ると、意外なところから気づきを得ることができ、次の事業や投資先が生まれてきます。
もしかすると、外部からコンサルタントを招くやり方もあるかもしれません。しかし私たちは、社員が地域の人たちと共に考える方法を選びました。社内を公開することで、大切にしている価値観を可視化することが大切だと社員が気づき、結果として自発性が引き出されることになりました。ビジョンの共有や、社長の声だけではダメなんです。会社の将来像が社会とリンクしていることへの気づきや、社内にないものとのコラボレーションのきっかけを施すのが、経営者の仕事だと考えています。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。