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社員の才能と情熱を解き放つ、
ヤフー「人材育成関連の施策」の
プロデューサー(前編)
圧倒的なスピードで人事改革を実現した「秘訣」とは何か?

ヤフー株式会社 執行役員 ピープル・デベロップメント統括本部長

本間浩輔さん

異業種チームによる「地域課題解決プロジェクト」が目指すものとは

 美瑛町での地域課題解決プロジェクトが、「HRアワード2014」企業人事部門優秀賞を受賞しました。プロジェクトを実施することになった経緯や目的、どのように運営し、どんな効果があったのかなどについてお聞かせください。

実施する背景には二つの理由がありました。ヤフーは「課題解決」をバリューとして掲げています。本社のある六本木のオフィスで課題解決に取り組むわけですが、私自身、本当にどこまでできているのかがよく分かりませんでした。これが一つ目の理由です。

二つ目の理由は、異業種のチームで課題解決に当たることの重要性です。当時私は、研修で重要な要素は仲間が5割、プログラムが3割、教師が2割だと言っていました。一方、世の中では講師こそが重要であるという意見が多かったように思います。良い研修は良い講師、良いベンダーを決めれば達成できるというような考えです。しかし、仲間がビジネス教育の成果の多くを決めるということは私自身、神戸大学の大学院でMBA取得した時の強い原体験がありました。ここの授業では、学生の学力はあまり見ません。それよりもこの学生が70人いるクラスに加わった時に、残りの69人にどういう相互作用を及ぼすかどうかを見ているように感じました。

社内でいくらリーダーシップ研修を行っていても限界があります。だからこそ、複数の企業が集まって、何を学ぶかよりも誰と学ぶかが重要だと考えました。多様な人たちが集まり一つのアウトプットを出していく過程が、意味のあることだと思ったわけです。

美瑛町とは研修拠点を作るという別の理由で親しくする機会を得ていたので、美瑛町という場で、複数の企業が集まって課題解決を行おうと考えました。そして、東京大学准教授の中原淳先生を監修役として招き、美瑛町の地域課題解決プロジェクトがスタートしました。

 この時に集まった異業種の企業は、どのような顔ぶれだったのでしょうか。

民間企業はヤフーの他に、アサヒビール、インテリジェンス、電通北海道、日本郵便の5社、そして地元の北海道上川郡美瑛町が加わりました。異業種コラボレーション研修ということで出したテーマは、美瑛町を舞台に地域に入り込んで課題を発見し、解決策を提示するというケースワークです。異業種で五つのチームを作り、5月にスタート。半年後の10月に町長の前でプレゼンテーションを行い、町長に「やりましょう」と言ってもらうようなプロジェクトを作ることをゴールとしました。また、各チームは参画した5社それぞれの人材のほか、フィールドワーカーとして各社の人事担当者が付き、美瑛町の同世代の役人が加わるというチーム構成です。毎月1回、2泊3日のワークショップを行いながら、10月のプレゼンテーションに向かって活動を進めていきました。

今回のテーマでは、農業をやればいいのか、観光業をやればいいのかが、まずよく分かりません。判断がつかないことに対して、こうしなさいと言ってくれる人がいないのです。こういうことは、民間企業の現場では起こりません。このような状態で、10月まで何の指示や方向付けもなく、期待と不安が入り混じる中、皆で議論しながらアイデアを作り上げていきました。

 日本人が一番苦手なことですね。

このプロジェクトでは私と中原先生が共同プランナーのような立場で、事務局役を担当していたのですが、途中で事務局は、何度となくダメ出しをします。すると、メンバーは右往左往するわけです。当然、言い争いも起こります。一人、二人とやらない人が出てきて、内部分裂も起こり始めます。でも、こうした“どん底”に堕ちることが重要なのです。なぜなら、ここにいる人たちが将来、企業の経営者になった時に、常に自分で考えて判断していかなくてはならないからです。例えば、私が人事トップに就任した時に、人事制度でどういうモノを作ればいいのか、誰も答は出してくれませんでした。社長に聞いても、「本間はどうしたいの」と聞き返してくるだけ。それと同じです。

それぞれのチームには、各社の人事がフィールドワーカーとして入り、エスノグラフィー(行動様式を詳細に記述すること)的な活動を行います。そして夜、各チームのフィールドワーカーが事務局に戻ってきて、状況の説明を行います。それを2時間くらいかけて、集約するという作業を行っていました。その後、場合によっては、フィールドワーカーが夜中に再びチームの話し合いに参入する、ということが行われたりもしました。そういう意味で、成長したのはフィールドワーカーと言えるかもしれません。

 このようなカオスのプロジェクトでは、参加メンバーだけでなく、関係する周囲の人たちも育っていくわけですね。

本間浩輔さん Photo

ある時、ヤフーの社員が私のところに来て、「本間さん、プロジェクトが盛り上がって土日も作業することになり、体力的にきついです。本間さんから全員に号令をかけて、土日は休むようにと言ってもらえませんか」と言うのです。私は「あなたが経営幹部となって、家族で海外旅行に行った時のちょうど帰国日に、大きなM&Aの決定をしなければならないとします。さあ、どうしますか」と切り返しました。「経営者はそういう状況の中でも何とか時間調整をして、経営判断を行います。1週間にやらなくてはならない重要案件が四つあったら、全てをこなして、プロジェクトに参加するのがあなたの仕事なのですよ」と諭しました。

休みがなくて大変だと思ったら、今度のミーティングの時に全員の前で「申し訳ありませんが、土日は作業をしないルールにしませんか」と言えばいいんです。しかし、「それを言うと、角が立ちます」と言います。いまの若い人たちは優秀だけれど、こういう部分があります。ヒエラルキーのない混成チームの中で、どういう風に新しいナレッジを出していくのか、言葉を合わせていくのか、良いものを作るのか、といったことに能動的に関われないのです。だから私は、嫌なら止めていいとも言いました。全員の前で「申し訳ありません。私はここで止めますので、後はよろしく頼みます」と言えばいいのです。これも大きな決断で、意味のある「アウトプット」なのです。

 10月に終了した際、結果はどうだったのでしょうか。

十分とは言えませんでした(笑)。まだ30歳前後の違う会社の若い社員が月に1回集まっただけで、地域課題を解決して町長がOKを出すような企画が簡単に出せるわけがありません。しかし、半年間、喧々諤々の議論を徹底的にしてきたことで、本当の意味での人間関係、ネットッワークができました。そして、議論し行動していく中で、良い意味でも悪い意味で自分の「癖」を知り、理解できたことが大きいと思います。

ここでの半年間の中で人間関係に何が起きて、自分がそこにどう関わって、何を学んだのか。そして、将来自分がリーダーシップを取る立場になった時にその経験をどう生かしていくかということの方が、私は重要だと思います。単なる異業種交流会ではなく、こういう状況下で厳しい経験を共にして信頼関係を築いた人たちは、この先、何年経ってもきっとどこかでつながっていくでしょう。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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この記事ジャンル 能力開発関連制度

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