【生活型、付合い型、独りよがり型、抱え込み型…etc 】
“タイプ別”残業時間削減のテクニックとその進め方
【2】むしろ一生懸命頑張っているように見えてしまう残業
残業は上記のようにわかりやすいもの、誰もが削減しなければと納得できるものばかりではありません。むしろ一生懸命頑張っているように見えてしまう残業もあるので注意が必要です。
「むしろ一生懸命頑張っているように見えてしまう残業」には、「自己満足残業」「独りよがり残業」「抱え込み残業」の3タイプがあります。
残業のタイプ | 残業の傾向 |
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6. 自己満足残業 | 重要な部分とそうでない部分の見極めがつかず、すべての箇所を完璧に仕上げようとするあまり時間がかかってしまう。すべてが120%の仕上がりでないと気が済まない。 |
7. 独りよがり残業 | 自分一人の思込みで仕事をして、納期間際に出てきたものが当初の狙いからずれてしまっており、結局残業でやり直せざるを得ない。 |
8. 抱え込み残業 | 一部分でも他の社員に仕事を渡すと自分のポジションを奪われてしまうのではないかという強迫観念から、なかなか同僚や後輩に仕事を見せない、渡さない。 |
(1)自己満足残業
毎晩遅くまで真面目に仕事をしており、それなりの評価を得てはいるものの、いま一歩伸び悩んでいる。時間をかけ、一見立派な資料を作って本人は満足 しているが、上司やクライアントは必ずしもその内容に満足していない。仕事ができないわけではないのに、残業や休日出勤ばかりが多い。こうした社員は“自 己満足残業”を疑ってみましょう。
仕事には、重要な部分と必ずしもそうではない部分があります。必ずしも重要ではない部分にいくら時間をかけたとしても、それにより重要な部分の質が 向上しなければ意味がありません。評価されるのは仕事のアウトプットの質であり、それを高めるためには、重要な部分にどのくらいの時間をかけられるかに よって決まってくるのです。アウトプットに関係のない作業に何時間かけても、意味がありません。
例えば、「ある課題の解決策の提案」というアウトプットを求められた場合を考えてみましょう。仕事の流れとしては、まずは現状を把握して問題・課題 を抽出し、そのうえで解決策を提案、最後に実現化に向けてスケジュールと予算を提示する、といったプロセスになるでしょう。このプロセスの中で重要なの は、当然のことながら解決策の提案です。解決策を提案するために、現状を分析し、問題・課題を抽出するのです。
にもかかわらず、ある人は、現状の把握や分析にやたらに時間をかけてしまい、肝心の提案部分を考える時間が取れなくなってしまったと嘆いている。別 の人は、情報収集に力を入れすぎるのが癖になってしまい、常に提案書が事例集のようになってしまっている。こうした人が、あなたの周りにもいないでしょう か? このように仕事の配分や時間配分に問題がありアウトプットの質が上がらないのであれば、早急に仕事の仕方を正していかなければならないのです。
しかし、アウトプット自体の質はそれほど問題がないとしても、ありとあらゆる情報を収集しなければ気が済まず、情報の山に埋もれながら残業や休日出 勤を繰り返してやっと解決策まで持っていくような仕事をしている人が少なくありません。こうした人のほうが、毎回、それなりのアウトプットを出している 分、問題が表に出てきません。だからこそ逆に問題の根が深いのです。
こういう人は、仕事の重要な部分とそうでない部分の見極めがつかず、すべての作業を120%の力でこなさないと気が済まないのです。すべての仕事に 関わる部分を完璧に仕上げようとするあまり、やたらと時間がかかってしまうのです。こうした働き方をしている限り、いつまで経っても残業と休日出勤の罠か ら抜け出すことはできません。そもそも発注者の求めている成果と本人の達成感とは別のものです。仕事を発注した上司やクライアントとしても、あまり重要で ない箇所にやたらに力が入っている資料を読むと、「この仕事のことを本当に理解しているのだろうか?」と不安に思ってしまいます。そうではなく、わかりや すいアウトプットとそのアウトプットを導くために必要となる説明が簡潔にまとめられた資料の場合は、読みやすいだけでなく、読み手に対して「この仕事の重 要な部分をしっかりと理解したうえで仕事をしてくれている」という安心感を与えるのです。
要は、120%の力を出して仕事をこなしたという達成感に満足してしまうのではなく、アウトプットの質の向上のために必要なことは何か、例えば、 「この情報は本当に必要なのか、この作業は本当に必要なのか」を常に考えながら仕事を進めていかなければならないのです。枝葉は気にせず、まずは幹を太く することに全力を挙げるような仕事のスタイルを身に付けなければなりません。“自己満足残業”が癖になっている社員に対しては、仕事の重要なポイントを見 抜き、重要な部分のみ120%の力を発揮してアウトプットを導き出すことが質の高い成果につながること、これが「プロの仕事」、「お金をもらってする仕 事」であることを理解させなければなりません。
(2)独りよがり残業
最近の若手社員は優秀であると言われます。不景気の中で就職活動をしてきたせいか、自己主張がうまく、実際に仕事もできる人が多いようです。ただ し、その分、自信過剰な人も多く、それが仕事にマイナスに働いてしまっているという人事担当者からの嘆きの声を聞くことも少なくありません。
要は、自分一人の思い込みで仕事をしてしまうのです。仕事の目的や内容を、上司やクライアントなどの発注者とよく確認し擦り合わせるという工程を経 ないまま、自分なりの解釈で最後まで進めてしまい、締切り間際に出てきたものが発注者の意向に沿わないので、残業や休日出勤をしてやり直しせざるを得ない のです。本人は良いものができたと意気揚々なのに、発注者からダメ出しされて不満顔でやり直していたり、中には、クライアントに対してこちらのほうが良い と意見する者もいたりして、上司がお詫びに伺わなければならないケースに発展することもあるのです。
こうした“独りよがり残業”を繰り返す社員に対しては、第一に、「仕事は趣味とは違って発注者の意向に沿わなければならない」という当たり前のこと をかみ砕いて説明することから始めなければなりません。そのうえで、仕事を請けた段階で仕事のゴールとアウトプットのイメージや方向性、押さえるべきポイ ントを発注者と擦り合わせたうえで、仕事に取りかからせるのです。その際、ゴールやアウトプットに至るまでの道筋、中間報告の日程を組み込んだ「段取り」 も併せて描き、この道筋に沿って仕事を進めていく習慣を身に付けさせるのです。
“独りよがり残業”を繰り返す社員というのは、元々は優秀な社員が多いのです。だからこそ、「優秀な社員は発注者を不安にさせない」「様々な段階で 発注者の狙い通りの報告をしてイニシアティブを握ることが自身の価値を高めることにつながる」という意識を持たせることで、こうした社員の誇りをくすぐり ましょう。それができれば、“独りよがり残業”は自ずとなくなっていくものです。
(3)抱え込み残業
“抱え込み残業”とは、まさしく仕事を抱え込んでしまい、残業をしないでは仕事が片付かないことが常態化していることを言います。これには、二つのパターンがあります。
(ア)自分しかできない仕事と思い込み、仕事を抱え込んでしまうケース
その人しかできない仕事に就いている人は、素直に称賛すべきです。そこに至るまでの努力はよほどのものであると想像できるからです。ただし、こうした個人 の存在を認めたからといって、会社や組織としてこういう事態を放置してよいということにはなりません。リスクが大きすぎるからです。
例えば、こうした人があと5年で定 年退職など、残りの期間が決まっている場合であれば比較的対応は可能でしょう。その間に、その仕事のやり方を若手社員に時間をかけて伝えていけばよいから です。ところが、時間的余裕がない場合はどうでしょうか。例えば、事故に遭って突然出社できなくなった、親が倒れて介護をしなければならなくなった、と いった突発的な事態が起こったときに、「担当者不在で仕事ができず滞っています」では済まないのです。だからこそ、日頃からチームの中で仕事の「見える 化」「共有化」を図り、万が一のときのフォロー体制を構築していかなければなりません。最初からすべてを引き継ぐことは無理でしょうが、仕事を切り分け、 易しいところから徐々に教えていくことで仕事の継承を進めていかなければなりません。
(イ)一部分でも他の社員に仕事を渡すと自分のポジションを奪われてしまうのではないかという強迫観念から、なかなか同僚や後輩に渡さないケース
この“抱え込み残業”は、ある意味で社員の努力の結果として“抱え込み残業”をせざるを得なくなってしまった場合にだけ起こるのではありません。残念なこ とに、仕事を一つでも他の社員に渡すと自分のポジションを奪われてしまうのではないかという強迫観念から、必要もないのにあえてなかなか手放さず、抱え込 んでいる社員も存在します。こうした社員には、仕事をしていくうえでの本当のリスクを早めに突きつけたほうがよいでしょう。
それは、「個人のできる仕事には限界がある。今ある仕事を抱え込んでいると、それだけに精いっぱいで新しい仕事にチャレンジする時間が取れない。結 果として視野を広げるチャンスを失ってしまう」ということです。若い頃には会社のエースとして第一線で働いていたにもかかわらず、それに甘んじて新しいこ とを取り入れなかったがゆえに窓際社員に成り下がってしまう、そんな社員になってもよいのか、といったことを語りかけ、こうした行動が長い職業人生の中で どのくらい大きなリスクなのかを認識させるのです。そのうえで、「仕事の抱え込み」という行動を今後どのように改めていけばよいのか、一度、じっくり時間 を取って考えてもらいましょう。
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