職場のモヤモヤ解決図鑑【第46回】
ベテラン社員のノウハウを共有したい!
暗黙知の言語化の手順[前編を読む]
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!
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志田 徹(しだ とおる)
都内メーカー勤務の35才。営業主任で夏樹の上司。頼りないが根は真面目。
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児玉 夏樹(こだま なつき)
社会人3年目の25才。志田の部下。ネットとサブカルが好き。
友人がベテラン社員のノウハウ伝承に取り組んでいると聞いた児玉さん。自分のチームでも、営業部のエースのノウハウを言語化し、チームで共有したいと考えました。個々の社員が持つ経験やスキルを、他の社員とシェアして業績につなげていくには、暗黙知を形式知に変えるプロセスの理解が欠かせません。ノウハウを共有する手順を考えてみましょう。
共有したいノウハウとは何か?
「暗黙知」と「形式知」
人が持っている情報やノウハウは、「暗黙知」と「形式知」に分けられます。ノウハウを共有する際、それが共有しやすいものかどうかを考える必要があります。
暗黙知とは、経験によって取得できるスキルや知識のことです。属人的に存在し、言語化を経て共有されます。「各営業プロセスでやるべきこと」のように、比較的容易に言語化が可能なものもあれば、「潜在顧客の見分け方」のように長年の経験で培われる、複雑な暗黙知もあります。
一方、形式知とは提案資料や分析資料など、すでに言語化されているものを指します。また、「顧客のクレーム履歴」のように、暗黙知が文章化された場合は形式知として扱われ、他者と共有しやすくなります。
「暗黙知」と「形式知」の違い
暗黙知と形式知の違いに、教育材料としての向き不向きがあります。
たとえば、マニュアルは形式知です。業務フローが言語化されているため、マニュアルに沿えば誰でも同じ工程を担うことができ、教育資料として優れています。
一方、暗黙知を言語化した場合はどうなるでしょう。優秀な営業社員の商談ポイントをマニュアルに落とし込んだとしても、それを読んだ全員が同じ成果を発揮できるとは限りません。商談相手と話すときの相づちの仕方、合いの手の入れ方やタイミング、目線や声の強弱など、成果につなげるにはさまざまな要素が入り混じります。
このように暗黙知は、形式知に姿を変えても、習得に時間がかかる可能性があります。
暗黙知を言語化させる手法
人々の頭の中にある暗黙知を、言語化させるための手法を「SECI(セキ)モデル」といいます。日本の経営学者である野中郁次郎氏が唱えた手法で、以下の四つのプロセスに基づき、暗黙知を形式知に変換します。
共同化(Socialization) | 経験を共有することにより、言葉ではなく体験で暗黙知を獲得・伝達するプロセス。 |
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表出化(Externalization) | 個人や組織が体得した暗黙知を共有・統合できるように言語などの形式知に変換し明確化するプロセス。 |
連結化(Combination) | 明確化した形式知を組み合わせて新たな形式知を創造するプロセス。 |
内面化(Internalization) | 得られた形式知に基づいて、個人が行動・実践を行い、新たな知識を体得するプロセス。 |
- 【参考】
- ナレッジマネジメント|日本の人事部
SECIモデルのポイントは、場を通じた他者との意見交換や対話により、形式知となった暗黙知の吸収を促し、さらに個人の暗黙知へと再変換している点です。
暗黙知を言語化しただけでは、ノウハウの伝達・習得はかないません。他者がノウハウを吸収し、自分のものにするサイクルが必要となります。その手法例を見ていきます。
手法例①:活躍する社員のストーリーを記事化
「活躍する社員のストーリー」は、暗黙知を共有する手法の一つです。個人の経験を「物語」にすることで、聞き手・読み手が追体験できるようになります。「記事を読むこと=学びのプロセス」を実現できます。
手法例②:プロジェクト後の振り返り
経験から得たノウハウを体系化してまとめるには、プロジェクト後の振り返りが有効です。失敗要因・成功要因ともにメンバーで洗い出し、頭のなかで考えていたことをより深く分析します。
振り返りにより一般化された要素は、次のアクションの精度を高めてくれるでしょう。
手法例③:メンバーの自発的なアウトプット
メンバー独自の言語化を促す仕組みも、暗黙知の共有に貢献します。
たとえば近年、企業や行政がアカウントを開設するブログ共有プラットフォームでは、その企業のメンバーが、個人アカウントで自発的なアウトプットを行っている例があります。業務ノウハウや成功体験を言語化し、社内メンバーとシェアするケースが見受けられます。
ノウハウの言語化の効果:
三州製菓株式会社の「一人三役」制度
最後に、ノウハウの言語化を行った企業の事例を紹介します。
三州製菓株式会社は、ノウハウの言語化と共有を現場レベルで行い、社員のスキルアップ、業績向上につなげています。社員がメイン業務に加え、別の二つの業務をマスターし、必要に応じて他部署の応援を行う「一人三役」制度を創設。「助け合い」が可能になる体制づくりを進め、残業の削減、育児・介護休業の取得促進、コミュニケーションの促進を狙いました。
業務を兼任するだけでなく、各業務の習熟度レベルを六段階で表し、誰にどんな業務を頼めるかを可視化しました。自身のケガや子どもの急病など、社員に何かあったときでもすぐに代わりを頼める体制ができ、社員同士の助け合いが当たり前となりました。同社では、一つの業務に限定しない体制が、社員のキャリアアップにもつながっています。
【まとめ】
- 言語化や数値化しやすい形式知は、暗黙知と比較して教育資料として適している
- 暗黙知を共有するには、「なんのために」共有するのか目的を明確にする
- 暗黙知は、ただ言語化するだけではなく、体験の共有や連結化といったプロセスが必要
エース社員に聞いた事例をマニュアル化しようと思ったけれど、それだけじゃ不十分なんだな……
まずは体験を共有する場から設けるのがいいかもしれないね
『エースから学ぶ営業術』みたいな研修も暗黙知を共有する一つですよね
営業資料の情報整理と一緒に進めれば、部署の成績アップも間違いなしだ!
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!