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コロナ禍の特例(フレックス、時差出勤、テレワーク)を
「元に戻す」際の法的留意点

弁護士

浅井 隆(第一芙蓉法律事務所)

新型コロナウイルスの影響でテレワークや時差出勤、フレックスタイム制などを導入する企業が増えましたが、収束した際などに「元の制度に戻したい」と考える経営者も少なくないと思われます。しかし、「元に戻す」には、どのようにしたらよいのでしょうか。「元に戻す」方法や、その場合、不利益変更の問題になるか等の検討も必要です。これまでは、まず、新型コロナウイルス対応のために考えて実行してきており、「元に戻す」ことまでは考えていなかった企業も多いでしょう。そこで、本解説では、「元に戻す」方法や不利益変更等の法的問題点について解説します。

1. 新型コロナウイルス対応のための労働時間や勤務形態等の変更手続の法的根拠

「元に戻す」ことの問題を検討するうえでは、今回の新型コロナウイルス対応のために行ってきた措置が、どのような根拠で行われたのかを確認する必要があります。

新型コロナウイルスの影響でテレワークや時差出勤、フレックスタイム制などを導入する企業が増えました。勤務場所を自宅にしたり、所定労働時間を弾力化したり、時差出勤を可能にしたりすることで、従業員の安全で衛生的な環境を整え、労働環境を保全しました。

これらの措置は、労働債務の枠組みを変更するものであり、基本的には使用者の裁量権に基づくものですが、以下で詳しく説明します。これは同時に、今回のテーマである「元に戻す」際の手続きにも直結します。

【1】労働契約の枠組み

まず、労働契約の枠組みを簡単に説明します。労働契約はその締結によって、使用者(企業)が労働者(従業員)に対して労働債権(労働者から見れば労働債務)を取得し、他方、労働者(従業員)がこの対価として賃金債権(使用者から見れば賃金債務)を取得します。労働契約の締結によって発生する労働関係は、このような双務の関係(お互いに債務を負う関係)です。

この労働債権は量と質に分けられます。量が所定労働時間です。質は労働者にどういう仕事をどういうレベルでさせるか、という職務内容です。多くの企業ではこの質を年間単位で管理するため目標管理制度を導入したりします。これを図示すると、図表1の通りです。

図表1:労働契約の枠組み
図表1:労働契約の枠組み

もっとも、「労働債権の量=労働時間」は、労務の提供(労働)というものが労働者の身体活動に直結する性格上、健康に大きな影響を及ぼしますので、労働者が健康を害さないように、つまり予防の観点から労働時間を規律します。これが法定労働時間の概念です。現在の労働法(労働基準法)は、これを週40時間、1日8時間とします(同法32条)。

もっとも、現代の資本主義社会においては、工場労働のような定時の労働は少なく、サービス業が中心の産業構造に変わっていますので、週40時間、1日8時間という法定労働時間は、一定の条件の下で弾力化され、緩和され、あるいは適用除外を認めざるを得ません。これを整理すると、図表2のようになります。

図表2:労働時間規制の整理
図表2:労働時間規制の整理

もっとも、週40時間、1日8時間の原則的規制においても、始業時刻、終業時刻の決定自体は使用者の裁量を認めるものですので(1日8時間以内であれば、労働を何時に始めても、何時に終了するとしてもよい)、使用者には、1日8時間の規制の枠内で始業・終業時刻の決定と変更が認められます。

また、休日の設定も、週1回付与すれば(労基法35条1項)、それが何曜日でもよいわけですので(ただし、週の起算日を何曜日とするのかは、同一週を規定するうえで重要なので、留意が必要)、事前の変更も可能となります(一旦休日と定めても、その後変更すれば、変更した後の日が休日となる)。これを就業規則に反映させると、次のA条2項、B条2項のようになります。

(労働時間および休憩)

第A条
所定労働時間は1週(週の起算日は土曜日とする。以下、本章において同様とする)40時間、1日8時間とし、始業・終業の時刻および休憩時間は次の通りとする。
始業8時30分終業17時30分
休憩12時から13時まで
2
業務上の都合により前項の時刻を臨時に繰り上げ、または繰り下げることがある。この場合においても、1日の労働時間が8時間を超えることはない。

(休日、事前振替)

第B条
休日は、次の通りとする。
①土曜日、日曜日(法定休日)
②国民の祝日(振替休日を含む)、年末年始(12月30日から1月3日まで)
③会社創立記念日
2
業務の都合によりやむを得ない場合には、事前に、前項の休日を他の日と振り替えることがある。

他方、就業場所については、労働基準法は特段、規制していません。ただ、原則から考えると、労働基準法は雇用契約における民法の特別法ですので、民法の原則によれば、(労働者から見て)労働債務(使用者から見ると労働債権)の履行場所は、債権者つまり使用者の事業場所です(民法484条)。

もっとも、民法の規定(特に契約法の規定)については、当事者に合意があればそれによることになります(契約自由の原則)。また、労働契約では、就業規則に定めがあればこれによります(労基法93条、労働契約法12条参照)。よって、就業場所を会社の施設(本社とかの事業所)にしていたのを変更するのは、労使の合意または就業規則(ただし、労働契約法7条から合理性が必要)の定めがあれば可能です。

【2】労働債務の枠組みの変更であること

今回のコロナ対応で労働時間の枠組みや就業場所等(以下、まとめて「労働債務の枠組み」という)を変更したのは、以上の考え方を応用したものです。そして、この変更は、対象となる労働者にほぼ有利となることから、労働者が合意しない、就業規則適用の効力を争うといったことにはなりません。

2. 変更した内容を「元に戻す」場合

【1】元に戻したいというニーズ

ところが現在、上記1章で変更した労働債務の枠組みについて、実際、実行してみると、あまり機能していないから元に戻したい、あるいは、コロナ感染リスク下でもリモートをしなくてもある程度の対応が可能なので元に戻したい、という企業も多くあると思います。

その場合、制度がそれを前提にしているのなら、その制度に則ればよいですが、そうではないときは、改めて労働債務の枠組みの変更(元に戻す)をする必要があります。

そこで、このような事情の変化に対応するため、どのような法的問題があり、それらに対しどのように対応したらよいかを解説していきます。

【2】変更した制度を「元に戻す」際の手続き―法的問題

結論を述べれば、あらかじめ「元に戻す」ことが制度上予定されていれば、不利益変更の問題にはなりません。他方、その予定がなかったときは、不利益変更の問題となると考えます。詳しく説明します。

①規定に基づいて「元に戻す」ことができる場合

コロナ対応で、適用する労働時間制や勤務形態等を変更した際に、上記1【1】に基づいて(労働者からみて)労働債務の枠組み(労働時間と就業場所)を変更したわけですから、元に戻すことを予定(想定)していれば、その変更した際の基となる規程の中に、それを前提とした定めがあると思われます。その場合はその規定に則って元に戻すことになり、これは当初から予定されたものですので、不利益変更の問題とはなりません。

ただ、「元に戻す」ということは、上記労働債務の枠組みの変更で、使用者からみれば労働債権の行使です。したがって、かかる権利の行使が権利の濫用になるか(労働契約法3条5項)が問題となり、その判断の中で労使の利害の調整が図られます。

②上記①ができないときは、労働条件の不利益変更の問題となること

他方、労働債務の枠組み(労働時間と就業場所)を変更した際の規程等ルールの中に、「元に戻す」ことを予定するものがなければ、元に戻すことは、新たに規定を設けるか、コロナ対応のために定めた条項を削除することで実行されますので、労働債務の枠組みの不利益変更の問題となります。

この場合、就業規則によって労働条件を不利益変更する場合がこれに近いので、これに近づけて検討します。

企業が就業規則を労働者に不利益に変更した場合(または不利益な規定を新設した場合)、反対の意思を表明する労働者を拘束するかにつき、判例は、「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されない…が、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない」(秋北バス事件最大判昭43.12.25)と、原則として企業による一方的な労働条件の不利益変更の効力を否定しながら、合理性があれば例外的に肯定します。

上記判例法理、すなわち就業規則の不利益変更による労働条件の変更は、

  • 原則…×
  • 例外…(変更の)合理性+周知あれば○

となります。その合理性の内容は、

  • a.変更によって労働者が受ける不利益
  • b.変更を必要とする使用者の利益(必要性と内容の相当性)

の相関関係である、とまとめられますが、それはそのまま労働契約法9条、10条に反映されています。

すなわち、9条は「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。」として、原則×としながら、10条で「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。」と、例外的に(変更の)合理性があれば○とし、かつ合理性の内容を判例法理と同様の要素で判断する、としています(図表3)。

図表3:(変更の)合理性の判断
図表3:(変更の)合理性の判断

ただし、通常の不利益変更の問題と明らかに異なるのは、元の労働条件に戻る、という不利益であることです。それまでの労働条件に戻るだけなので、労働者への不利益の程度はどれほどあるのか、ということです。

そこでは、「コロナにより変化した生活上の事情(感染リスク)が、元に戻す時点でどのように変化したか」が、労働者の不利益の程度、変更の必要性の評価において重要なポイントとなるでしょう。つまり、「感染リスクが低下した」とか、「感染リスク対応の方法がある程度確立した」などの変化があれば、労働者の不利益の程度は低下します。

また、使用者がコロナ対応で労働債務の枠組みを変更したものの、事業を継続するうえで出勤しての労働提供が必要となった(一旦、在宅勤務としたが、実際させてみると出勤のほうが効率が良かった、という場合も含む)ということも、変更の必要性を検討するうえで、重要なポイントとなるでしょう。

つまり、業務の性質上、出勤して働いてもらったほうが効率的であるという場合、いつまでもリモート勤務をさせると、生産性が低下したままの状態で競争力が低下することから、リモート勤務を解除するという変更の必要性は高くなります。

以下、コロナ対応で行ってきた労働債務の枠組みの主な変更につき、元に戻す際の問題点を具体的に検討していきます。

3. 具体例の検討

【1】テレワークの廃止、条件(人、時間)の厳格化

①コロナ対応としてのテレワーク(在宅勤務)の実施

テレワーク(在宅勤務)の廃止あるいは条件を厳しくすることは、労働債務の枠組みの中でも就業場所を変更する(「元に戻す」)ことになります。前述の通り、本来労働は企業という組織の中で展開されるものであり、労働者は雇用契約を締結したら、使用者の施設で労働債務を履行することが予定されています。そして、実際にそれまではそうしてきたのです。これを、コロナ禍での感染リスク回避の観点から、リモートで勤務させることとしたのです。

テレワーク(在宅勤務)の導入は、筆者の知る限り、すでにある在宅勤務規程を拡大させるか、在宅勤務規程を新設して実施されています。例えば、参考1のような規程です。

参考1:在宅勤務規程

在宅勤務規程

第1章 総  則

(目 的)
第1条 この規程は、従業員が在宅で勤務する場合の必要な事項を定める。

(在宅勤務の定義)
第2条 在宅勤務とは、従業員の自宅、その他自宅に準じる場所(会社が許可する場所に限る)において情報通信機器を利用した業務をいう。

第2章 在宅勤務の許可・利用

(在宅勤務の対象者)
第3条 在宅勤務の対象者は、在宅勤務を希望し、次の各号のすべてに該当する者とする。
(1)業務効率や生産性を高める目的で在宅勤務を希望する者
(2)自宅の執務環境、セキュリティ環境、家族の理解のいずれも適正と認められる者
(3)在宅勤務に伴い必要とする情報通信機器について、在宅勤務者が所有する情報通信機器(パソコン、プリンタ等)を使用することに同意した者
2  在宅勤務を希望する者は、1週間または1カ月単位で、事前に「在宅勤務申請書兼在宅勤務状況報告書」(様式)に基づき、所属上長から許可を受けなければならない。
3 会社は、業務上その他の事由により、前項による在宅勤務の許可を取り消すことがある。
4 前項にかかわらず、会社が在宅勤務を命ずることができる。

(在宅勤務時の服務規律)
第4条 在宅勤務に従事する者(以下、「在宅勤務者」という)は、就業規則に定めるもののほか、次に定める事項を遵守しなければならない。
(1)在宅勤務の際に所定の手続きに従って持ち出した会社の情報および作成した成果物を第三者が閲覧、コピー等しないよう最大の注意を払うこと。
(2)在宅勤務中は業務に専念すること。
(3)在宅勤務中は自宅またはその他自宅に準じる場所(会社が許可する場所に限る)以外の場所で業務を行ってはならないこと。
(4)在宅勤務の実施にあたっては、情報の取扱いに関し、個人情報保護規程および関連規程等を遵守すること。

第3章 在宅勤務時の労働時間等

(労働時間等)
第5条 労働時間、所定休日等については、就業規則の定めによる。

(欠勤等)
第6条 在宅勤務者が、欠勤をし、または勤務時間中に私用のために勤務を一部中断する場合は、事前に申し出て許可を得なくてはならない。

第4章 在宅勤務時の勤務等

(業務の開始および終了の報告)
第7条 在宅勤務者は、勤務の開始および終了を次のいずれかの方法で所属上長に報告しなければならない。
(1)勤怠管理システム
(2)イントラネット
(3)電子メール

(業務報告)
第8条 在宅勤務者は、「在宅勤務申請書兼在宅勤務状況報告書」を所属上長に提出し、報告しなくてはならない。
2 所属上長は、「在宅勤務申請書兼在宅勤務状況報告書」に基づき、総務部に報告をしなくてはならない。

(在宅勤務時の連絡体制)
第9条 在宅勤務時における連絡体制は、次の通りとする。
(1)事故・トラブル発生時には所属上長に連絡すること。
(2)前号の所属上長に連絡がとれない場合は、総務部まで連絡すること。
(3)従業員等への緊急連絡事項が生じた場合、在宅勤務者には所属上長が連絡をすること。
なお、在宅勤務者は不測の事態が生じた場合に確実に連絡がとれる方法をあらかじめ所属上長に連絡しておくこと。
(4)前各号以外の緊急連絡の必要が生じた場合は、前各号に準じて判断し対応すること。
2 部署内回覧物など重要と思われるものは電子メール等で在宅勤務者に連絡すること。なお、情報連絡の担当者はあらかじめ部署内で決めておくこと。

第5章 在宅勤務時の費用負担等

(費用の負担)
第10条 在宅勤務にあたり業務を遂行するうえで生じた通信費、郵送費、事務用品費、消耗品費その他会社が認めた費用は、会社負担とする。ただし、通信費について、在宅勤務者が負担することに同意した場合は、この限りではない。
2 在宅勤務に伴って発生する水道光熱費は、在宅勤務者の負担とする。
3 その他の費用は、在宅勤務者の負担とする。

(情報通信機器)
第11条 在宅勤務に伴い情報通信機器を必要とする場合は、原則として、在宅勤務者が所有する情報通信機器を使用することとする。

第6章 その他

(災害補償)
第12条 在宅勤務者が自宅での業務中に災害に遭ったときは、就業規則の定めるところによる。

(安全衛生)
第13条 会社は、在宅勤務者の安全衛生の確保および改善を図るため必要な措置を講ずる。
2 在宅勤務者は、安全衛生に関する法令等を守り、会社と協力して労働災害の防止に努めなければならない。

②廃止または条件の厳格化

(ア)変更できる根拠となる規定がある場合
上記①のテレワーク(在宅勤務)実施にあたって在宅勤務規程を新設(拡大も含む)したとすれば、その規程に則って、廃止または対象者を限定したり、その日数等を限定したりする等の条件の厳格化をするのは、基本的には可能です。

ただし、「元に戻す」業務上の必要性がないと、適用を受けていた従業員から権利濫用と主張されることがありますので、その必要性は確認しておく必要があります。

上記①に掲げた規程に則ると、業務効率化のためには、リモートよりも会社施設での勤務のほうがよい、と判断すれば、今後の申請者に対しては、3条1項(1)に該当しないとして同条2項の許可をしなければよく、現在リモート勤務している従業員には、同条3項で許可を取り消せばよいのです。

もっとも、この制度は、3条2項の通り、1週間または1ヵ月単位で許可する運用としているため、そのような短い期間で運用する中でその途中で取り消す必要もないと思われ、許可した期間の到来後の申請時に上記不許可の対応をすればよいのです。

この場合、上記2【2】①で述べた通り、その許可・不許可(人事権の行使)が権利濫用(労働契約法3条5項)と争われる余地がありますが、その場合、リモート勤務従業員の利益(リモートのため感染リスクが低いという利益)と出勤して効率良く業務を遂行してもらう企業の利益の衡量で権利濫用が判断されます。

(イ)変更できる根拠となる規定がない場合
他方、新設した在宅勤務規程に特段の定めがない、同規程の新設をせずに業務命令(許可)をするなどの運用で行っている場合、廃止または条件の厳格化は運用で行うことになるでしょう。すなわち、廃止または条件の厳格化を業務命令(指示)等で行うのです。この場合、就業場所の変更が労働条件の不利益変更の問題となると考えます。そこで、業務命令(指示)で行うときは、その必要性、内容の相当性と従業員に与える不利益がどの程度かによって有効性が判断されます。

就業規則で就業場所を「会社施設」とわざわざ明記するものは多くありません。この場合、一時的なことと考えて、在宅勤務規程を設けず、業務命令でテレワーク(在宅勤務)を命じたり許可したりする企業も多いのではないでしょうか。

これを元に戻す、つまり会社施設に勤務場所を戻す場合、労働債務の履行場所が自宅になったのを会社施設に戻すわけですので、従業員から見れば労働債務の枠組みを不利益に変更することになります。ここでは、企業には、元に戻す規定上の権利はありません。確かに服務規律で事業場で働くことが予定されているとの解釈もできますが、上記(ア)のように在宅勤務規程を使って実行するような手掛かりはありません。よって、改めて会社施設で勤務することを内容とする業務命令を発令するほかないと考えます。

これは、使用者の一方的な命令であり、(使用者が一方的に変更できる)就業規則を使っての変更と同様の構造です。そのため、労働債務の枠組み(場所)を一方的に変更するうえで、a.労働者にどれだけの不利益が生ずるのか、他方、b.労働債務の枠組み(場所)を一方的に変更する業務上の必要性があり内容も相当か、を相関的に考えて判断します。

就業場所の変更といっても、元に戻るだけですので、形式的には労働条件の不利益変更となっても、実質的には不利益にはなりません。結局のところ、「元の就業場所に戻ることでコロナ感染リスクにさらされるのか」がその不利益の内容となります。

他方、就業場所の変更の業務上の必要性が、業務の効率化によるものであるとすると、当該従業員が従事していた仕事が、リモートではなく、会社施設で行うことで、どれだけ効率性が高まるのかの問題となります。

このように考えたとき、就業場所という労働条件(労働債務を履行する場所)の不利益変更問題の実質的判断は、上記(ア)の労働債権行使における権利濫用判断と判断(衡量)する対象利益は変わらないと考えます。

【2】時差出勤の廃止、条件(人、時間)の厳格化

①コロナ対応としての時差出勤の実施

時差出勤は、労働義務の始業時刻と終業時刻を、基本の形態(前掲労働時間および休憩の規定A条1項)より早くしたり、遅くしたりするものです(同条2項)。つまり、労働義務の始まりと終わりを変えるものです。これを利用して、特にコロナ対応においては、通勤が三密の状態にならないよう、通勤手段の利用時間帯を自由に選べるようにするため、本来使用者が決定してきた出退勤の時刻を労働者に委ねることにしたのだと推測します。

②適用対象者を限定する、時差の差を小さくする

通常の就業規則では、前掲労働時間および休憩の規定A条2項のような規定があるはずですので、ある従業員には同項の適用を止め、1項を適用する(適用対象者の限定)、あるいは時差の時間をそれまで前後2時間認めていたのを前後1時間にするということは、規程に則った運用、つまり労務管理に基づく人事権(労働債権)の行使です。よって、業務上の必要性があれば、権利濫用とはならず、可能と考えます。

この場合の業務上の必要性の内容は、認める時差が大き過ぎて業務上支障があった、効率性が低下した、という場合です。確かに、認める時差が大きければ大きいほど、会議の時間の設定等は難しくなりますし、業務に影響を及ぼします。このように、業務上の必要性は具体的に考える必要があります。他方、労働者の時差出勤の時差が小さくなることで、どれだけ三密のリスクにさらされる危険があるかも具体的に検討します。それらを考慮して変更の可否を判断します。

【3】フレックスタイム制の廃止、コアタイムを長くする・フレキシブルタイムを短くする

①コロナ対応としてのフレックスタイム制の緩和の実施

フレックスタイム制自体、労働義務の始業時刻と終業時刻を労働者の裁量に委ねる制度です。労働者の三密状態回避のため、その裁量をより広げて、コアタイムを短くしたり、なくしたりしていたのだと推測します(参考2)。

参考2:フレックスタイム制の協定例

フレックスタイム制に関する協定書

 B株式会社と労働者代表とは、労働基準法32条の3に基づき、フレックスタイム制について、次の通り協定する。

(対象社員の範囲)
第1条 フレックスタイム制は、全社員に適用する。ただし、次の者を除く。
1 出向社員
2 研修期間中の新入社員

(清算期間)
第2条 清算期間は、毎月1日から月末までの1カ月とする。

(清算期間における所定総労働時間)
第3条 清算期間における所定総労働時間は、7時間30分に当該清算期間における所定労働日数を乗じた時間とする。

(標準となる1日の労働時間)
第4条 標準となる1日の労働時間は7時間30分とし、休暇、出張等についてはこの時間の労働とみなす。

(コアタイム)
第5条 コアタイムは、午後1時から午後4時までとする。

(フレキシブルタイム)
第6条 フレキシブルタイムは、次の通りとする。
(1)始業時間帯は、午前7時から午後1時まで
(2)終業時間帯は、午後4時から午後10時まで
2 始業および終業は社員の自主的選択に委ねる。

(休  憩)
第7条 省  略

(遅刻、早退、欠勤)
第8条 省  略

(時間外勤務の取扱い)
第9条 省  略

(不足時間の取扱い)
第10条 省  略

(フレックスタイム制適用の除外)
第11条 業務上やむを得ない場合およびフレックスタイム制の適用が望ましくないと判断される社員に対しては、これを適用除外し、就業規則第○条による就業を命令できるものとする。

(有効期間)
第12条 省  略

②フレックスタイム制の廃止等「元に戻す」場合

コロナ対応で導入したフレックスタイム制を廃止して、原則の週40時間、1日8時間以内の労働時間に戻すこと、あるいはコロナ対応で既存のフレックスタイム制のコアタイムを廃止したり縮小したりしていたものを元に戻すことは、どのような法的問題があるでしょうか。

上記1【1】の図表2「労働時間規制の整理」の通り、週40時間、1日8時間の労働時間規制は労働法の大原則であり、この大原則に戻るだけであれば、一般的には不利益変更の問題ではありません。

コアタイムの復活等も、それによってまさにフレキシブル性は減少しますが、それは同時に生活の不規則性が減少することにもなりますので、身体的にはより健全になる以上、一般的には不利益変更の問題ではありません。

ただ、個別でみると、通勤に不安を抱えている(三密状態のリスクがある路線の利用等)労働者にとって個別に大きな不利益が生じる、ということであれば、「元に戻し」てその「元の」労働時間制を当該労働者に適用することが権利濫用となり得る可能性があります。

したがって、フレックスタイム制の廃止もしくは縮小等「元に戻す」際には、「元に戻す」前のフレックスタイム制を適用していた労働者に個別に大きな不利益が生じていないかを確認しておくことをお勧めします。大きな不利益がなければ、元に戻してよいと考えます。

4. 制度を元に戻す際の従業員への対応の留意点等

【1】上司と部下の関係

組織(ピラミッド)である企業においては、労働契約(関係)は労働者の数だけありますが、組織化されます。つまり、直属の上司、その上の上司という関係が構築され、上司は、企業が部下に持つ労働債権を代わりに行使する立場にあります。

図表4:上司部下の枠組み
図表4:上司部下の枠組み

そこで、上記3の「元に戻す」場合に企業がどういう点に留意すべきかは上司の部下に対する留意点ともなります。以下、主な留意点を確認します。

【2】上司として労働債務の枠組みを「元に戻す」際の部下への留意点

①テレワークの廃止、条件(人、時間)を厳しくする場合

(ア)在宅勤務制度に基づいてコロナ対応のためにテレワーク(在宅勤務)を実行した場合では、そのテレワークを廃止したり、その条件(人、時間)を厳しくしたりすることは、在宅勤務規程の運用の中で実施することになり(上記3【1】②(ア))、上司は許可・不許可で関与することになります。人事部と情報を共有して、テレワークの廃止、条件(人、時間)を厳しくする業務上の必要性に基づき、運用する必要があります。その場合、個別に、部下のテレワークの必要性が高ければ、やはり人事部と相談して利益衡量し、権利濫用とならないようにします。

(イ)在宅勤務規程がなく業務命令でテレワーク(在宅勤務)を発令(許可)していた場合は、「元に戻す」のは、会社施設で勤務することを命令することで行います。その際、実質的には上記(ア)と同様の利益衡量をします。ただ、出勤(会社施設への勤務=就業場所変更)の業務命令は、上司からというより、部門長ないし人事部長、あるいは代表取締役から発令するでしょうから、上司は、その出勤の業務命令により部下に実質的不利益が生じないよう、部下に関連する情報を、業務命令発令者に事前に提出する必要があります。

②時差出勤の廃止、条件(人、時間)を厳しくする場合

就業規則の前掲規程でいうと、A条2項を用いて行いますが、これも権利濫用とならないよう、部下の時差出勤の必要性等に関する情報を、労務管理権者(部門長か人事部長でしょう)に提供する必要があります。

③フレックスタイム制の廃止、コアタイムを長くする・フレキシブルタイムを短くする場合

上記3【3】の通り、コロナ対応のために導入されたフレックスタイム制の下で享受した利益が個別に大きい部下については、その適用から「元に戻る」ことによって発生する不利益の程度をよく見極め、これをやはり会社の労働時間制の適用権者(人事部長か代表取締役)に情報提供する必要があります。

『ビジネスガイド』は、昭和40年5月創刊の労働・社会保険の官庁手続、人事労務の法律実務を中心とした月刊誌(毎月10日発売)です。企業の総務・人事・労務担当者や社会保険労務士等を読者対象とし、労基法・労災保険・雇用保険・健康保険・公的年金にまつわる手続実務、助成金の改正内容と申請手続、法改正に対応した就業規則の見直し方、労働関係裁判例の実務への影響、人事・賃金制度の構築等について、最新かつ正確な情報を基に解説しています。ここでは、同誌のご協力により、2021年1月号の記事「コロナ禍の特例(フレックス、時差出勤、テレワーク)を「元に戻す」際の法的留意点」を掲載します。『ビジネスガイド』の詳細は、日本法令ホームページへ。

【執筆者略歴】
●浅井 隆(あさい たかし)
1990年弁護士登録、2001年4月武蔵野女子大学講師(非常勤)、2002年4月~2008年3月慶應義塾大学法学部講師(民法演習・非常勤)、2005年4月~2009年3月慶應義塾大学大学院法務研究科(法科大学院)講師(労働法実務・非常勤)、2009年4月~ 2014年3月同教授、現在は非常勤講師。主な著書に「就業規則の変更による労働条件不利益変更の手法と実務」(共著)「問題社員・余剰人員への法的実務対応」「労使トラブル和解の実務」(以上、日本法令)、「労働契約の実務」「Q&A 管理職のための労働法の使い方」(以上、日本経済新聞出版社)、「戦略的人事制度の設計と運用方法」「有期労働者の雇用管理実務」(以上、労働開発研究会)、「Q&A 休職・休業・職場復帰の実務と書式」(新日本法規)など多数。

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・第三者の名誉または信用を毀損するもの
・第三者を誹謗・中傷するもの
・第三者の名誉、信用、プライバシーを侵害するもの
・第三者の著作権等の知的財産権を侵害するもの
・第三者の権利または利益を侵害するもの
・公序良俗に反する内容を含んだもの
・政治活動、宗教、思想に関する記載があるもの
・法令に違反する、または違反のおそれがある記載のあるもの
・差別につながるもの
・事実に反する情報を記載するもの
・営利目的の宣伝・広告を含んだもの
・その他、内容が不適切と判断されるもの
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掲載されたコメントにより発生したトラブルに関しては、いかなる場合も『日本の人事部』事務局では責任を負いかねますので、ご了承ください。
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ご投稿いただきましたコメントは、『日本の人事部』や、当社が運営するウェブサイト、発行物(メールマガジン、印刷物)などに転載させていただく場合がございますので、ご了承下さい。

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