ATD 2018 International Conference & Expo 参加報告
~ATD2018に見るグローバルの人材開発の動向~
株式会社ヒューマンバリュー 取締役主任研究員 川口 大輔
充実する学びの場
ATDでは基調講演の場に加えて、数々の学びの場が用意されています。その中心となるのが、「コンカレント・セッション」です。コンカレント・セッションは、毎日四つ程度の時間帯で行われ、一つの時間帯には、60分~75分のセッションが20ほど同時に行われます。今年も300を超えるセッションがラーニング・テクノロジー、リーダーシップ開発、タレント・マネジメント、キャリア開発、グローバルHRD、ラーニングの科学、ラーニングの測定と分析など14のカテゴリーに分けて行われました。日本語の通訳が入るセッションも、一つの時間帯に3セッションくらいありました。
ケン・ブランチャードやボブ・パイク、ビバリー・ケイといった何十年にもわたってATDに貢献してきた「レジェンド・スピーカー」のセッションから、最新のテクノロジーを生かしたラーニング環境について扱うもの、また、参加型でインタラクティブなものや、じっくり探求を深めるものまで、その内容はバラエティに富んでいます。今年はオバマ前大統領やATD側のメッセージの影響もあってか、ヒューマニティやデジタル・トランスフォーメーション、パーパスといったキーワードが多く見受けられました。
圧倒されるほどの情報量の中、どのセッションに参加しようかと考えるのもATDの楽しみの一つ。最近ではATDのアプリも進化していて、スマートフォンで事前にセッションの資料などを確認できます。一つの時間帯に20以上のセッションが同時に進行するため、参加者が一人で出られるセッションの数には限りがあります。そこで、会社の仲間同士で別々のセッションに参加したり、さまざまな団体が行っているツアーに参加して、仲間とそれぞれが参加したセッションの内容を報告し合ったりするなど、参加の仕方も多様になってきています。
会期中はカンファレンスと並行してEXPOも行われますが、色とりどりの438のブースが出展している様子は圧巻です。米国のEXPOらしく、ブースにはさまざまな工夫や仕掛けが施されており、参加型のイベントや抽選会が開催され、いろいろなノベルティが配布されるなど、歩いているだけでも楽しくなります。プロダクトの内容やデザインの質も高まっており、目を引くベンダーのデモを見たり、コミュニケーションを取ったりしながら、自社に取り入れたいサービスの可能性を模索するなど、ここでも多くの学びがあります。近年はテクノロジーを全面に出す企業の出展が増えており、今年は特にマイクロ・ラーニング関連のサービスをプレゼンするブースが多かったように感じました。
そのほかにも、グローバルの参加者が集う「グローバル・ビレッジ」や、タレント開発に関する古典から最新の書籍を取り扱うブックストアなど、さまざまな学びの場があります。ブックストアでは、ブック・サイニングの時間も用意されているので、お気に入りの著者と直接話し、仲良くなるチャンスもあります。
ブックストアが閉店する間際に、私がたまたまタイトルに目が引かれて、ある書籍を手に取ったところ、「その本は私が書いた本よ!」と著者の方が声をかけてくれました。その方は南アフリカでダイバーシティ&インクルージョンの研究や実践を行っている方で、互いの国のダイバーシティ&インクルージョン事情に会話が弾みました。短い時間でしたが、個人的にはこうした瞬間にATDの魅力が凝縮されているように思います。国籍は違っても、共に人と組織の成長を願う者同士が出会い、学びを共有することで新たなインサイトや実践が生まれていく。そうした場をつくり続けていることが、75年の歴史の源泉ではないかと感じました。
以上、ここまで私が参加したセッションを中心に、ATD2018の様子を紹介してきました。主に心理的安全性に関わるところでしたが、カンファレンスではその他にも、「新たなキャリア観の生成」「リスキルとラーニング環境」「マインドフルネス」など多様なテーマが扱われていました。本レポートを通して、グローバルにおける人材開発の潮流が少しでも感じていただけたら幸いです。
※ATD2018の全体の潮流については、ヒューマンバリューのホームページでもご紹介しています。ご興味のある方は、そちらもご参照ください。