キャリアアップに資する教育訓練について
正社員に派遣先にてプログラマーとして就業してもらっています。
(登録型社員でもなく、有期契約社員でもなく、正社員です)
未経験の方には、2~3ヶ月研修を受けて頂き、プログラムが組めるようになって頂いています。基本は社内の開発業務に就業して頂くのですが、お客様から人の応援依頼があれば、適任の方に派遣先に就業してもらっています。この時、経験3年目未満の方にも就業してもらう場合があります。
この派遣先に就業してもらっている経験3年目未満の正社員への「キャリアアップに資する教育訓練」は必要でしょうか。
山梨の労働局が出している以下の資料には、『キャリアアップに資する』とはの説明で、「派遣労働者から正社員として雇用されること」とあります。
https://jsite.mhlw.go.jp/yamanashi-roudoukyoku/content/contents/000399896.pdf
”正社員として雇用されること”が目的でしたら、既に正社員となっている者への「キャリアアップに資する教育訓練」は不要ではと理解しています。
また
服部賃金労務サポートオフィス代表の服部 康一さまの投稿日:2019/05/24 13:46 ID:QA-0084582では、「正社員として何らかの教育を受けているはずですので、そうであれば改めてこのような教育訓練を実施する必要性はございません。」
と回答があります。
しかし、同じく服部賃金労務サポートオフィス代表の服部 康一さまの投稿日:2024/02/08 23:32 ID:QA-0135260では、「社員であっても派遣労働をされていれば当該教育の対象になるものといえます。」との回答があります。
どちらが正しいのでしょうか?
この回答の差は、派遣法の改定のよるものでしょうか。
お忙しいところ申訳ありません。ご教示願います。
投稿日:2025/10/27 21:02 ID:QA-0159982
- H55さん
- 兵庫県/情報処理・ソフトウェア(企業規模 31~50人)
この相談に関連するQ&A
プロフェッショナル・人事会員からの回答
プロフェッショナルからの回答
ご回答申し上げます。
ご質問いただきまして、ありがとうございます。
次の通り、ご回答申し上げます。
1. 「キャリアアップに資する教育訓練」とは何か
まず法的根拠です。
労働者派遣法第30条の2第1項では、派遣元事業主に対して次の義務を課しています。
派遣元事業主は、派遣労働者の職業の能力の開発及び向上を図るために、
「派遣労働者に対し、段階的かつ体系的な教育訓練を実施するよう努めなければならない。」
そして、厚生労働省告示「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する指針」(平成27年改正)で、
教育訓練の内容として「キャリアアップに資する教育訓練」が明示されました。
2. 対象者の範囲 ―「派遣労働者」とは誰か
派遣法における「派遣労働者」は、雇用形態を問わず 「派遣元に雇用され、派遣先の指揮命令下で労務を提供する者」 を指します(派遣法第2条第1号)。
つまり、
登録型派遣(有期雇用)
常用型派遣(無期雇用・正社員)
のいずれも派遣労働者に該当します。
したがって、正社員であっても派遣先で業務をしている限り、「派遣労働者」として教育訓練義務の対象です。
3.混乱の原因:服部氏の2つの回答の違い
ご指摘の服部賃金労務サポートオフィス代表・服部康一氏の回答には、時期と法解釈の違いがあります。
投稿日回答内容背景2019/05/24「正社員なら改めて教育訓練不要」当時は多くの実務者が“登録型派遣のキャリアアップ”を中心に理解していた時期。常用型派遣への適用が曖昧。2024/02/08「社員であっても派遣労働をしていれば対象」2020年代以降、厚労省が常用型派遣も教育訓練対象であると明確化。指導強化が進んだ後の見解。
→したがって、2024年時点の見解が現行法上「正しい」と言えます。
(法改正そのものではなく、行政指導・運用解釈の明確化が背景です。)
4. 厚生労働省・労働局の公式見解
山梨労働局の資料にある「キャリアアップに資するとは“派遣労働者から正社員として雇用されること”を指す」という記述は、
「言葉の定義説明」にすぎません。
つまり、教育訓練の目的例として「将来、派遣から直接雇用への転換も視野に入れる」という趣旨であり、
“正社員には不要”という意味ではありません。
実際、以下のように明確化されています。
(厚生労働省:派遣元指導指針Q&A)
派遣元で常用雇用されている者(常用型派遣労働者)についても、
「派遣労働者」である以上、派遣法第30条の2の教育訓練の対象となる。
雇用形態に関係なく、派遣先で就労している間は教育訓練義務を負う。
5.実務上の対応ポイント
したがって、御社のように
正社員として雇用しているが
派遣先でプログラマーとして就業している
社員についても、派遣法上は「派遣労働者」であり、教育訓練義務の対象です。
ただし、内容は既存の研修をもって代替可能です。
例えば以下のように整理します:
教育訓練区分実施例対応可能な扱い入職時訓練2〜3か月のプログラミング研修派遣教育訓練として計上可能キャリアアップ教育OJT、新言語・開発手法研修、情報セキュリティ教育など年間計画に位置付ければ可階層別訓練リーダー育成・プロジェクト管理派遣法上の体系的訓練として可
→つまり「別途特別に教育を設ける必要はない」ものの、教育実績として明示的に整理・記録しておく必要があります。
6. まとめ
観点現行解釈教育訓練の法的対象雇用形態を問わず「派遣労働者」全員正社員型派遣(常用型派遣)対象に含まれる目的職業能力の維持・向上(「正社員化」限定ではない)実施内容社内研修・外部研修・OJTを体系的に整理すれば充足可法改正の影響明文化の強化はあるが、条文上の変更はなし。運用明確化。
7.実務上の提案
御社のように「正社員を派遣先へ派遣」されている場合は、次の形が望ましいです:
年1回、「教育訓練計画表(派遣法第30条の2対応)」を作成
入職時研修・技術研修・安全衛生教育などを「キャリアアップに資する教育訓練」として整理
派遣元管理台帳に「教育訓練実施記録」を添付
労働局調査時に提示可能にしておく。
以上です。宜しくお願い致します。
投稿日:2025/10/28 14:39 ID:QA-0160002
相談者より
分かりやすいご回答ありがとうございました。
1.まとめのご回答や実務上のご提案も頂き、大変参考になりました。
ご提案頂いたもので運用をするように見直します。
2.服部賃金労務サポートオフィス代表・服部康一さまの2つの回答は、時期と法解釈によるものこと。
ありがとうございました。すっきりしました。
投稿日:2025/10/31 13:33 ID:QA-0160143大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
お答えいたします
ご利用頂き有難うございます。
ご相談の件ですが、ご指摘の相違につきましては、回答時期によるものです。
つまり、キャリアアップに関わる教育訓練につきましては、今日では正社員も含めた派遣労働者全てに適用するものとされていますので、正社員であっても派遣労働をされている以上実施される必要性がございます。
示された労働局の説明は当該訓練制度が2015年に制定された当初の説明と見受けられますので、現在は全ての派遣労働者に対して行われる事が求められます。
投稿日:2025/10/30 13:59 ID:QA-0160099
相談者より
ご回答ありがとうございます。
回答時期による違いだったのですね。
過去のQ&Aの質問内容とご回答のみで鵜呑みにせず、その時の法令、解釈、厚労省の指導方針も理解した上で、ご回答を参考にするように気を付けます。
投稿日:2025/10/31 13:36 ID:QA-0160144大変参考になった
回答に記載されている情報は、念のため、各専門機関などでご確認の上、実践してください。
回答通りに実践して損害などを受けた場合も、『日本の人事部』事務局では一切の責任を負いません。
ご自身の責任により判断し、情報をご利用いただけますようお願いいたします。
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