丸紅株式会社:
仕事と介護の両立にマネジメントスキルを活かす
総合商社ならではの“先進的”介護支援とは
丸紅株式会社(人事部 ダイバーシティ・マネジメントチーム チーム長補佐)
許斐理恵さん
介護をマネジメントするという発想、でもそれだけでは…
なるほど。コミュニケーションやマネジメントといったスキルが介護にも活用できるという視点は、ビジネスパーソンの意識を変えるきっかけとして有効でしょうね。
そうなんです。そういう時こそ、力の見せどころです。逆に、できるだけ人に任せていかないと、両立どころか、介護も仕事も共倒れになりかねません。毎日毎日の話ですからね。マネジメントという点では支援制度についても、これ以上拡充するより、上手な制度の使い方の理解を促進していきたいと考えています。例えば、介護休業。本人が介護に専念するための期間と誤解されがちですが、そうではありません。先ほどご案内した弊社のハンドブックでは、介護休業は、介護と仕事の両立体制を整える目的でまとまった休みが必要なときに使うのだと説明しています。居宅介護の体制を整えたり、介護施設の手続きをしたり、あくまでも両立体制の準備期間という位置づけですね。介護の平均期間は5年弱。本人が介護休業の間に介護に専念してしまうと、復職が難しくなる恐れもありますから。
「情報提供」を補完する介護支援のもう一つの柱、「個別相談・支援体制の強化」についても具体的な内容を教えてください。
10年度に海外駐在中の介護支援策として、介護サポートを専門とするNPO法人「海を越えるケアの手」と法人契約を締結しました。同団体は、全国に有資格者のネットワークをもち、遠隔地に住む高齢者の介護相談や見守り、入退院時の立ち会い、申請の代行などさまざまなサービスを提供しています。12年からは同団体のサービス利用対象を海外駐在者だけでなく、全社員にまで拡大。「海を越えるケアの手」の介護専門職による「介護個別相談会」も東京、大阪で定期開催しています。
また、介護には至っていないけれど、離れて暮らす親や日中独りで過ごす親が心配という“予備軍”のためにセコム(株)とも法人契約を結び、親の自宅にオンライン・セキュリティを設置。24時間見守るとともに、救急通報にも対応する「高齢者見守りサービス」を利用できるようにしています。
「仕事と介護の両立支援」は喫緊の課題でありながら、まだ対応できていない企業は多いと思われます。今後、この課題に取り組もうという企業に対して、何かアドバイスや注意すべき点がありましたら、ぜひご教示ください。
制度や施策を拡充していくことも大切ですが、既存の制度のうち、どの制度をどういう時にどう使えばよいか、わかりやすく解説するだけでも、社員にとってはかなり役に立ちますし、そのほうがコストも少なくてすむと思います。
ただ、「介護をマネジメントする」と言っても、現実にそうした事態に直面すると、もちろんひと筋縄ではいきません。生身の家族を相手にする難しさもあるでしょう。他人から見れば、こうしたら両立できるのにと思っても、理屈だけでは進められないケースが実際には少なくありません。そういう事例を目の当たりにすると、それぞれが思いや不安を抱えているんだなあと改めて思い知らされますし、人事部としての立ち入り方に悩むこともあります。まして私のような、まだ介護に直面していない者は、そこを自戒したうえで支援にあたらなければいけません。他の部署や社外の専門家の力も借りながら、「介護は特別なことじゃない」「仕事と介護は両立できる」という職場の共通認識を醸成していきたいですね。
(取材は2013年7月8日、東京・千代田区の丸紅本社にて)