味の素のグローバル化に向けた
“トランスフォーメーション”による
人財マネジメント変革(前編)
味の素株式会社 理事 グローバル人事部 次長
髙倉 千春さん
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伝統的な日本企業・味の素に感じた「課題」とは
外資系企業を中心に、これだけのグローバル人事としてのキャリアを持った方は、あまりいらっしゃらないように思います。だからこそ、これまで日本的経営を進めて来た味の素がグローバル化に向けた「人財マネジメント変革」を進める際、髙倉さんのような方が必要だったのでしょうね。では、味の素に入社されて気付いたこと、課題だと感じたことは何だったのでしょうか。また、どのような方向に改革していこうとお考えになりましたか。
長く外資系企業の人事責任者を担当していたこともあり、日本企業の今後の成長に貢献したい、という強い思いがありました。ノバルティスファーマの頃、採用担当として1年間に400人もの採用を行っていましたが、経営トップを担う人材の採用もリードしました。その時に感じたのが、日本における外資系企業の社長となる人材のプールが年々、縮小していたことです。グローバル経営を展開する際、トップを任せることのできる人材は本当に限られていました。このままグローバル経営を任せることのできる経営人材が育たないと、日本企業の地盤沈下は避けられないと思ったんです。
例えば外資系企業にいた頃、私の上司はほとんど本社の人事担当役員だったのですが、それが徐々に中国やシンガポールへ移っていきました。日本法人のポジションがどんどんと下がっていく実態を目の当たりにし、非常に悔しい思いをしました。
このような問題意識を持って味の素に入ったわけですが、まず感じたのは、グローバル競争の上での改革のスピードに課題があることです。
では一方で、なぜファイザーが製薬会社の売上ランキングで世界一になれたかというと、自ら積極的にリスクテイクしたからです。当時の社長が言っていたのは、「60%OKならば、チャレンジする」。経営としてビジネスが成功する確率が50%ではダメですが、行けそうな確率が10%高い60%なら、素早くチャレンジすることが重要だということです。
というのも、ビジネスの世界では最初にチャレンジしたファーストランナーの得る利益が大きく、またファーストランナーだからこそ、何か問題があった時に引き返すこともできます。しかし、2番手、3番手ではそうした経験や余裕がなく、戻ることが難しい。ファイザーは、リスクを取るファーストランナーをよしとする考え方でビジネスを捉え、常にリスクを取っていろいろなことにチャレンジしたからこそ、世界一になれたのだと思います。
私はファイザーの経営姿勢と具体的な行動を経営トップの傍らで見て、強くそのインパクトを実感しました。外資系企業は「これでいいな」と思ったら、まずチャレンジします。例えば米国のベンチャー企業は、「いかに失敗を早くやったか、度々やったか」を評価の対象としています。チャレンジしないと、失敗はありません。もちろん失敗したままではダメですが、その後、失敗を糧にしていかにレジリエンス(回復)で、生まれ変わっていくことができるか。これができなければ、会社は成長しないのではないでしょうか。そのことの持つ意味を、もう一度考える必要があると思いました。日本企業では、最終判断や実行する前に、あまりにも確認が多いのかもしれません。