顧客を感動させるサービスは従業員の「内発的動機」から生まれる
マニュアルのないスターバックスは、
なぜエンゲージメントを高められるのか(後編)[前編を読む]
スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社 人事本部 人事部 部長
久保田 美紀さん
「自分の言葉」でアウトプットしてもらうためのマネジメントスキル
「対話」による動機づけを行うには、マネジメントする側の力量も必要になりますね。
内発的動機を引き出すためのマネジメントスキルを伸ばすことも、欠かせないポイントだと思っています。入社してすぐに自分のビジョンやパフォーマンス目標をすらすら書ける人はいませんから、ロールモデルとなるような人を見てもらったり、参考になる考え方を知ってもらったりしながら対話して、自分の思いから出た言葉を引き出していく必要があります。
「スタバのフラペチーノが好き」と言って応募してくれる人はたくさんいます。もちろん、スターバックスのファンであるということはとても大切なことです。さらにそれをパートナーの仕事に生かしてもらうためには、「なぜ好きなのか」「どうして好きになったのか」といった、「好き」の根っこにある思いを対話で引き出していく必要があります。そうするとやがて自分の言葉としてアウトプットできるようになり、思いが醸成されてきます。
今後、スターバックスとパートナーのつながりをさらに強化するため、どのようなことに取り組んでいきますか。
実は現在、スターバックスでは新しいパフォーマンスマネジメントの仕組みを浸透させようとしています。これも「対話」のアプローチによって、これまで以上に一人ひとりのパートナーとしっかり向き合えるようにすることが目的です。スターバックスには「マニュアル」がほとんどありませんが、職務に見合った行動とは何かを定義している「ガイド」はあります。ただ、これまでの人事考課では、このガイドに沿ってふさわしい行動ができたかできなかったかを振り返ることが多かったのが実状でした。今後は、どのようにミッション&バリューに沿って行動していたのか、というプロセスに重きを置き、それを個人目標とつなげて達成できたのかどうかを対話していきます。あくまでも個人の成長を軸としてパフォーマンスをレビューするという新しい取り組みですが、これが内発的動機付けの強化につながることを期待しています。
従業員のエンゲージメント向上に取り組むには、何が重要だと思われますか。
スターバックスがエンゲージメントを向上させる取り組みを行えるのは、個人の成長を応援する企業文化が浸透しているからです。スターバックスでは、個人が「自己受容」「他者信頼」「他者貢献」という三つの条件を満たせるようにサポートを行うことが、スターバックスの経営においても非常に重要なことだと考えています。
「自己受容」とは、自分に存在価値があると気づくこと。自分が必要とされていると感じられれば、それがスターバックスにいる理由になります。「他者信頼」は、自分はもっとできるかもしれないと期待し、行動すること。パートナーたちの自発的な行動も、こうした思いから生まれます。最後の「他者貢献」が、自分も周囲の人へ影響を与えたいと思い、行動すること。その行動が、仲間をつくり、変化をもたらし、誰かの一日に幸せを与えます。
こうした「人を大切にしたい」「感情的な絆を大切にしたい」という価値観があるからこそ、一人ひとりのパートナーとの関わりを深め、内発的動機を引き出し、エンゲージメントを高めていくことができるのです。今後は、これをさらに進化させた、スターバックスの企業文化をより強固なものにしていきたいと考えています。