株式会社リクルートキャリア:
ビジョン・ミッション実現につながるバリューに
「社会起点」を掲げ、社員一人一人の進化に取り組む
渡邉紘太さん
(株式会社リクルートキャリア コーポレート戦略統括部 人事総務部 CDC推進グループ マネジャー)
古阪里葉さん
(株式会社リクルートキャリア コーポレート戦略統括部 人事総務部 CDC推進グループ)
「社会接点」を実現する制度「Dive!」
人材育成の基本はCDCによって、上司とメンバーで回していくサイクルにあるわけですね。
渡邉:その通りです。それをさらに支援する形で「iキャリア制度」があります。年に1回、一人一人が自身のキャリアに向き合い、自ら手を上げて、RCA内や関連会社の新しいポジションにチャレンジできる機会を提供する公募制度です。社員自らが自身の希望を出すことによって持ち味を発揮してほしいのと同時に、人事やマネジャーが気づかなかったマッチングが実現するかもしれないという期待もあります。上司に報告することなく応募でき、合否が出るまでの選考も全て水面下で行われます。
同じような種類の公募制度として、「海外トレイニー制度」もあります。毎年一定数の社員に海外でチャレンジできる機会を提供するものです。海外における勤務経験を生かして、RCAの国内組織に良い刺激を与えられる人材の創出を目的とした、1年間限定の海外現地法人への出向制度です。日本とは異なる職場・生活環境の中に身を置き、多様な人材と働く。日本とは異なる環境で「壁」にぶち当たって考え、行動する。最終的には、自分の「壁」を乗り越えて、何かを得る――それをもとに、組織に刺激を与えてもらいたいと思っています。
「海外トレイニー制度」に対して、社員の皆さんの反応はいかがですか。
古阪:「海外で勤務してみたい」と、毎年、多くの応募があります。これまで、10名以上の派遣実績がありますが、具体的な行き先としては、リクルートグループの現地法人(RGF)のある中国、インド、インドネシア、ベトナム、香港、シンガポールなどです。「次は私が行きたい」と言うメンバーもとても多く、社員にとって非常に魅力的に映っている制度だと思います。
渡邉:さまざまな経験した後の芽の出方は人それぞれで、時間がかかるケースとそうでないケースがあります。海外勤務の結果が本人のキャリアにとって、また組織への刺激という観点でどのような効果があるかを測ることはなかなか難しいところではありますが、少し長い時間軸を持って対応していきたいと考えています。
リクルートキャリアで特徴的なのは、「社会起点」を実現するための制度にあると思います。代表的な「Dive!」は、どのような経緯からできたのでしょうか。
古阪:「Dive!」は、2014年からスタートさせた制度です。「Dive into the real society」という意味を込めていて、既存ビジネスの枠組みを超えて社会の現状、さまざまな社会問題に対峙し(ダイブし)、バリューを体現する原体験をするというものです。
リクルートキャリアは2012年10月に誕生しましたが、事業内容は明確に決まっていたものの、これからどういう「社会」にしていきたいのかなどに関しては、その時点では発表していませんでした。経営層が議論し尽くした翌年1月になって初めて、私たちが目指したい未来「ビジョン」と、それに向けて私たちが果たす社会的使命「ミッション」を掲げました。
「ビジョン」は遠い先の未来を指していて、世の中で働く喜びをうたったものです。一方で、現在の日本社会は少子高齢化が進んで、経済的にも低成長が続いています。また国内の雇用が縮小していく中で、有効な施策を講じないと働くことをあきらめてしまう人が激増するとも言われています。それでも、「ビジョン」を実現すると決めたからには、一人一人が行動を変えていかなければなりません。これが非常に大きな課題でした。一人一人が何にこだわっていけば「ビジョン」にたどり着くことができるのかをずっと議論していく中で、ようやく2014年4月に「3つのバリュー」として、発表することができたのです。
「3つのバリュー」を実践していく時に、特に「社会起点」が難しいテーマでした。日常の仕事の中でどうこだわっていけばいいのかが、よく分からなかったのです。「顧客」というのはイメージがわきやすいですが、「社会」というのは少し遠い感覚がありました。その時に、人事として一つの制度を導入することによって、「社会起点」が社内に浸透していくことができないかと考え、導入したのが「Dive!」なのです。
日常の場面からいったん非日常へと出て、社会の課題と立ち向かっているNPO法人や一般企業に飛び込んで(ダイブして)、実際にどんなことをやっているのか、社会的な課題とは何なのか、ということを本質的に捉える事が不可欠だと考えました。「Dive!」に参加した社員には、体感したことや得たことを、日常のビジネスの中で生かし、部署内のメンバーに刺激・影響を与えていってほしいと考えています。
渡邉:「Dive!」は「留職」と「ワークショップ」の二つで構成されています。「留職」とは現在の職場をいったん離れ、一定期間、別の場所で働く制度です。弊社では、「留職」の派遣先を国内としています。「留職」から帰ってきた社員と会って受ける印象は、行く前と会話の内容が大きく違っていることです。これも、現地で社会課題に取り組むリーダーから受ける刺激や、行った先で腹をくくって取り組み、少しでも何かを実現できたという体験(自己効力感)が大きいように思います。社会的な課題の難しさを肌で感じることができたからでしょう。何より会話が“太く”なった印象があります。
古阪:最初に「留職」に行ったメンバーは、愛媛県松山市出身でした。現在、帰ってきて1ヵ月以上経っていますが、お客様との会話の仕方、内容が以前とは違っています。採用のお手伝いをしていると、どうしてもお客さまの採用だけを考えがちになります。それが今では、愛媛県の雇用、松山市の雇用のために何が必要で、何ができるのかという問題意識を持つようになり、社会的な視点が広がっているんです。
まさに、「社会起点」の実践ができるようになってきた兆しを感じますね。
渡邉:「Dive!」には「留職」の他に、「ワークショップ」の制度があります。社会課題を熟知するNPO法人等のリーダーをゲストに迎え、社会起点でビジネスアイデアを創出するというもので、2015年1月から実施します。
古阪:NPO法人など、社会課題に取り組まれている2名の方にゲストに来てもらい、その方々が取り組んでいる内容を知ることから始めます。最初のテーマは「東北地方の社会的課題」。東北地方は震災によって、より高齢化が進みました。日本が今後迎える社会的課題の「縮図」と言われています。そこで、東北地方における社会的課題を調査し、リクルートの力を使って何ができるのかというビジネスプランを作ってもらいます。それをゲスト講師とディスカッションし、ブラッシュアップしていく。最後はそのビジネスプランを提出する、という内容を考えています。ビジネスプランを事業化するかどうかよりも、そのプロセスを通じて社会起点を身に付けてもらおう、というのが大きな趣旨です。
社会起点に取り組む「Dive!」は、御社が掲げた「RCAバリュー」をまさに体現したもののように思います。
渡邉:社会状況が大きく変化する中で、人と雇用の問題にどう対峙し、どんなソリューションを提供していくのか。これは私たちにとって、大きな課題です。採用・育成という「人と雇用」の問題の裏側には、お客様が抱える経営課題、そしてそれに大きく影響を与える社会の変化などの問題があります。「留職」や「ワークショップ」は1つのきっかけにすぎませんが、これらの経験から、日々の意識の持ち方や、行動の起こし方も変わってくるはず。「働く喜びに溢れた豊かな社会」というビジョンを掲げている企業として、私たちも進化していかなければならないと思っています。