有賀 誠のHRシャウト! 人事部長は“Rock & Roll”【第49回】
人事ケーススタディ(その6)
第二創業とパーパスの策定
株式会社日本M&Aセンターホールディングス CHRO/株式会社日本M&Aセンター 取締役 常務執行役員 人材本部長 人材ファースト管掌
有賀 誠さん
人事部長の悩みは尽きません。経営陣からの無理難題、多様化する労務トラブル、バラバラに進んでしまったグループの人事制度……。障壁(Rock)にぶち当たり、揺さぶられる(Roll)日々を生きているのです。しかし、人事部長が悩んでいるようでは、人事部さらには会社全体が元気をなくしてしまいます。常に明るく元気に突き進んでいくにはどうすればいいのか? さまざまな企業で人事の要職を務めてきた有賀誠氏が、日本の人事部長に立ちはだかる悩みを克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。
みんなで前を向いて進もう! 人事部長の毎日はRock & Roll だぜ!――有賀 誠
今回は、パーパスの策定プロセスをご紹介したいと思います。
日本M&Aセンターには、「M&A業務を通じて企業の『存続と発展』に貢献する」という創業以来の企業理念が存在します。
日本には、後継者不在により廃業の危機に直面している企業が多数あります。そのうち約60万社は、黒字の優良企業です。一方で、自社単独での事業展開に限界を感じ、次の成長戦略を模索している企業も数多く存在します。
当社の使命は、この両者をM&Aでつなぎ、企業の存続と発展に貢献すること。目指しているのは、老舗のブランドや固有の技術を守り、成長を支援し、地方を、そして日本を創生することです。
このように日本M&Aセンターには、社員の精神的支柱になっている立派な理念があるにもかかわらず、なぜパーパスが必要だったのでしょうか――。2022年に創業30周年を迎え、70歳となった社長の三宅が次世代にバトンを渡さなければならない必然性、そしてコンプライアンス問題からの再起の思いも込めて、当社は「第二創業」を掲げました。その旗頭として、新たに会社のパーパスを策定することにしたのです。
理念とパーパスの関係性
日本M&Aセンターでは、「理念」を「企業としての目標(永遠に変わらないもの)」、そして「パーパス」を「現時点での企業としての存在意義(時代や環境により変わりうるもの)」と定義しました。理念と比較すると、パーパスはより近いところに視点があります。
パーパスを策定するにあたり考えたのは、社員が大切にしている志や価値観、そして未来に向けた希望を吸い上げ、集めて、紡ぐことでした。
大切なもの
当社には、分林会長(当時)と三宅社長という、二人の実質的な創業者による語録が存在します。三宅の指示は、思想としてそれらの一部を残してもよいが、現役社員によって現代の言葉にせよ、というものでした。また、あえて会長・社長・専務を外し、8名の若手幹部による議論を命じたのです。そこに私が事務局として入りました。
全社に向けて、二つの質問を投げかけました。一つ目は、「日本M&Aセンター・グループが大切にしてきたものの中から、あなたが残したいと思う言葉を教えてください」というもの。二つ目は、「あなたが新たに加えたいと思う言葉」です。全社から、約1,200のキーワードが寄せられました。それらをテキストマイニングし、カテゴリー別にまとめて分析を行いました。
これらを眺めながら、指名された8名の若手幹部社員と私は議論を始めたのです。
最高のM&Aをより身近に
それぞれのメンバーが強く意見を述べたため、話はなかなかまとまりませんでした。6週間ほど議論を続けることになり、最終的に以下のパーパスが完成しました。広告代理店などは一切使わず、完全な内製です。
今の日本では、M&Aという手法への理解や信頼は、まだ高いとは言えません。リーマン・ショックの頃のテレビドラマが、M&Aに「乗っ取り」といったネガティブなイメージを植え付けたこともあるでしょう。
だからこそ私たちは、M&Aに安心して取り組める社会を実現することが、今の当社の存在意義であると定義しました。もっと多くの経営者や、働く人たちとその家族の想いをつなぎ、成約から成功、そして成長まで伴走することで、最高のM&Aをより身近なものにしていこうと。
そのため、当社のサービス品質向上はもちろんのこと、中小企業庁と連携してM&A仲介協会を設立。活動を強化し、業界全体のサービス品質を高めることに努力しています。また、神戸大学や早稲田大学における講座をスポンサーして共同研究を推進しており、近い将来、M&A学会を立ち上げることも目指しています。いつかM&Aが一般的なものとなって、高校の教科に入っていたとき、日本M&Aセンターは新たなパーパス(=存在意義)を模索しているはずです。パーパスは、時代や環境により変わりうるもの、変わるべきものなのですから。
有賀誠の“Rock & Roll”な一言
自分の存在意義を考えたことはあるかい?
パーパスを策定してみては?
- 有賀 誠
- 株式会社日本M&Aセンターホールディングス CHRO/株式会社日本M&Aセンター 取締役 常務執行役員 人材本部長 人材ファースト管掌
(ありが・まこと)81年 日本鋼管入社。97年 日本GM入社。部品部門デルファイの取締役副社長兼AP人事本部長。03年 三菱自動車常務執行役員人事本部長。ユニクロ執行役員を経て06年 エディー・バウアー・ジャパン代表取締役社長。その後、日本IBM理事、日本HP取締役人事統括本部長、ミスミ統括執行役員人材開発センター長。23年4月より現職。ミシガン大学MBA。
HR領域のオピニオンリーダーによる金言・名言。人事部に立ちはだかる悩みや課題を克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。