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タナケン教授の「プロティアン・キャリア」ゼミ【第23回】
「組織内エンゲージメントの向上」と「主体的なキャリア形成」の両立は可能!その根拠とは?

法政大学 キャリアデザイン学部 教授

田中 研之輔さん

タナケン教授の「プロティアン・キャリア」ゼミ

令和という新時代。かつてないほどに変化が求められる時代に、私たちはどこに向かって、いかに歩んでいけばいいのでしょうか。これからの<私>のキャリア形成と、人事という仕事で関わる<同僚たち>へのキャリア開発支援。このゼミでは、プロティアン・キャリア論をベースに、人生100年時代の「生き方と働き方」をインタラクティブなダイアローグを通じて、戦略的にデザインしていきます。

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「社員のエンゲージメントを高めたい!」と感じている人事の方は、少なくないでしょう。また、コロナ禍の社会変化の中で、社員の主体的なキャリア形成を支援する人事施策の運用に向けてチャレンジされている方もいるでしょう。

一方で今のところ、下記の二つの両立に取り組む声を耳にする機会は多くありません。

  • 組織内エンゲージメントを向上させながら、主体的なキャリア形成を支援する
  • 主体的なキャリア形成を支援しながら、組織内エンゲージメントを向上させる

なぜなら、組織内エンゲージメントを高めることと、主体的なキャリア形成を支援していくことはそもそも両立が難しい、と認識されてきたからです。

はたして、そうでしょうか?
 
なぜ、両立が難しいと認識されているのか。私は、この点について人事担当者の方々にヒアリングを続けてきました。すると、あることがわかってきました。

「組織内エンゲージメントの向上」と「主体的なキャリア形成」との両立が難しいと感じるのは、「アンコンシャス・バイアス」にすぎない。

その根拠となるエビデンスは存在しない、ということです。

アンコンシャス・バイアスというのは、何らかの認知の継続によって形成されるものです。
そのことを考えるなら、これまでの日本型雇用の組織内キャリア形成がその認知の震源であると推察されます。

たとえば、新卒入社→社内研修→組織内キャリアの形成プロセスで、主体的に働くことよりも、組織にエンゲージして結果を出すことが昇進や昇格につながるとされてきました。

より突っ込んだ表現にするなら、組織が求めている人材に自らをフィットさせ、没個性化することのほうが、生産性の高い人材だと認識されてきたのです。

しかし、このような日本型雇用による没個性化した働き方では、グローバルな社会変化に対して十分な結果を出すことができません。そのことがこのコロナ禍で、業種をこえて私たちに突きつけられています。

組織が変化に適応するよりも、個人が変化に適合しながら、主体的にキャリア形成をしていくことが求められているのです。

社員の組織内エンゲージメントを把握するときに用いる調査を思い浮かべてください。おそらくその大半が、エンゲージメントサーベイとよばれるものではないでしょうか?

私は企業の社内調査のプログラム設計や診断開発を行っています。診断開発の視点からエンゲージメントサーベイの特徴をまとめると、次のようになります。

エンゲージメントサーベイの特徴

1)個人と企業の関係性の可視化
2)個人のモチベーションの把握
3)生産性の向上に向けた把握
4)年に1回の実施
5)20分〜40分程度の回答時間で設問数は、100問程度

これらの診断特性をもつエンゲージメントサーベイを用いて、組織内エンゲージメントの状態を把握することができます。また、サーベイを実施し、同一設問群によってスコア化することで、他社・他部署・他職種・勤続年数別・性別などの「比較分析」も可能になります。

「目標達成のためのリーダー層のアプローチを信頼している」
「この会社でのキャリアに関して、次のステップが明確にわかっている」
「自分に期待されていることを知っている」

これらの質問群に回答することで、エンゲージメントの深度が把握できるのです。しかし、年に一回程度実施されるエンゲージメントサーベイでは、個人の主体的なキャリア形成の「機微」を把握することはできません。

他者や他組織との分析は可能でも、個人のキャリア形成の変化を分析することがタイムスパン的にも見てもできないのです。

エンゲージメントサーベイは、リテンション施策としても用いられています。しかし、社員の転職活動の平均期間は、3ヵ月から長くても半年。つまり、4月にエンゲージメント調査を実施しても、1年後の調査に至るまでに新たな職場へ転職してしまうケースが往々にしてあるのです。これが実態です。

実際に、「この企業で働き続けていても、これからの先のキャリアがみえない」と確信したときに、転職=流出していきます。転職先も、同業種×同職種→ 異業種×異職種へと傾向が変わってきています(*この傾向に関しては、調査データがすでに複数公開されています。【転職決定者テータから見る】2020 中途採用市場 中途採用においては「越境採用力」もカギに(PDF))。

コロナ・パンデミックを誰もが経験し、これからのキャリアについて内省する時間を得たことで、転職への意識も高まってきています。

そうした中で、エンゲージメントサーベイの結果は、組織の人事施策の方向性を設計する素材としては活かせるものの、個人のキャリア形成に寄り添う形でのフィードバック施策には、なりえていないのです。

今求められているのは、主体的なキャリア開発を支援していくことが組織内エンゲージメントの向上につながるのかを分析する「組織内行動変容に関するパルスサーベイ」(定期的な簡易診断)です。

エンゲージメントサーベイが、組織への関わり度を把握する一時的なコンディションチェック(状態診断)であるのに対して、「組織内行動変容に関するパルスサーベイ」は、主体的なキャリア形成と組織内エンゲージメントの関係性を把握する通時的なパフォーマンスチェック(行動診断)なのです。

前提として大切にしているのは、各業界でDXが進展したとしても、経営の最大のリソースは「社員」であり、企業がいま向き合う最大の挑戦は「人的資本の最大化」にあるという考えです。業界、職種、職位を問わず、「社員のキャリアに寄り添い、開発・支援していくことなくして、経営や組織のグロースは見込めません。

人事は、社員一人ひとりの「心の動き」に、できるだけ近づいていきたいものです。これまでは、とても無理だと考えられてきたことでも、テクノロジーが可能にしてくれます。

組織における主体的なキャリア形成とは、個人の利益だけを追求する身勝手な働き方ではありません。主体的なキャリア形成とは、目の前の業務に対して、自ら考え、最善のアウトプットにつなげていく働き方です。つまり、個人と組織の関係性をより良くしていこうとするワーキングスタイルなのです。

  • 主体的にキャリア形成すると、組織なエンゲージメントがさがる
  • 主体的にキャリア形成すると、離職率が高まる

上記のような根拠のない「アンコンシャス・バイアス」から私たち自身が抜け出し、今こそ「人的資本の最大化」に向けて、次なる命題を組織内キャリア開発のスタンダードにしていくことにしましょう。

組織内エンゲージメントを向上させるには、社員の主体的なキャリア形成を促進させる
社員の主体的なキャリア形成を促進させると、組織内エンゲージメントが向上する

個人と組織の関係性が鍵を握ります。組織主導でも、個人主導でも、この関係性はより良いものになっていきます。できることから取り組んでみることにしましょう。

私は「組織内行動変容に関するパルスサーベイ」の診断開発に取り組みます。

それでは、また次回!


田中 研之輔さん(法政大学 教授)
田中 研之輔
法政大学 キャリアデザイン学部 教授

たなか・けんのすけ/博士:社会学。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。専門はキャリア論、組織論。一般社団法人 プロティアン・キャリア協会代表理事。UC. Berkeley元客員研究員、University of Melbourne元客員研究員、日本学術振興会特別研究員SPD 東京大学。社外取締役・社外顧問を23社歴任。著書25冊。『辞める研修 辞めない研修 新人育成の組織エスノグラフィー』『先生は教えてくれない就活のトリセツ』『ルポ不法移民』『丼家の経営』『都市に刻む軌跡』『走らないトヨタ』、訳書に『ボディ&ソウル』『ストリートのコード』など。ソフトバンクアカデミア外部一期生。専門社会調査士。新刊『プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』。最新刊に『ビジトレ 今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』。日経ビジネス、日経STYLEほかメディア多数連載。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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この記事ジャンル エンゲージメント

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組織コミットメント
プロティアン・キャリア
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