人事マネジメント「解体新書」第27回
いま、なぜ「考課者研修」なのか?
~評価結果を人材育成へと結び付ける「面談」の重要性
人事考課を導入している企業は多いが、その制度をスムーズに行うための「考課者研修」を適正かつ効果的に行っている企業はあまり多くない。一見、他者を評価することは簡単そうに思えるが、それはあくまで“結果”としてのこと。実際、被考課者が評価結果に納得し、処遇へと反映され、その先の成長を促すものになっていなければ、人事考課制度が目指す目的を達成しているとは言えないだろう。問題は管理職のマネジメント能力が問われている現在にあって、評価する立場にある人たちが十分なトレーニングを受けず、人事考課の基本となる事項を理解しないまま、評価に当たっていることである。その結果、メンバーのモチベーションや成長への意欲が下がり、組織の活力が失われていく…。そうしたことにならないよう、今回は考課者として身に付けるべき基本的な知識やスキル、人材育成へと結び付けていくための面談の仕方について、ポイントを整理していく。
解説:福田敦之(HRMプランナー/株式会社アール・ティー・エフ代表取締役)
まず、人事考課の「基本」を理解する
■人事考課の「目的」と4つの「機能」
一般的に、他者を評価する「人事考課」とは、以下のように定義されている。
ここでの「処遇」だが、「1.賃金(昇給、賞与)」と「2.昇進・昇格、配置・異動」のあることは周知の通り。人事考課の結果によって、「昇給額を決める」「賞与の支給月数を決める」「新たな役職に就かせる」「違う部署に配置する」などが行われていく。このような報酬やポジションなど、評価対象者の取り扱い(処遇)を決める「機能」を持つのが人事考課である。
忘れてならないのは、これら以外にも考課結果の「活用先」があること。その1つが「3.能力開発・人材育成」である。そもそも人事考課とは社員の働きぶりを評価することであり、その結果を能力開発や人材育成計画に盛り込むことが期待されるのは当然のことであろう。被考課者がどういう長所や特長を持っているのか。一方で、何を改善すべきかなど、人材教育の基礎資料とも言うべき「データ」が、まさに人事考課である。しかし、この点を正しく認識し、実践している企業は少ない。多くは、前述の賃金や昇進・昇格を決めることに費やされているのではないか。
さらにもう1つの重要な機能として、「4.動機付け、モチベーションの向上」が挙げられる。評価結果の良し悪しは被考課者にとって大きな関心であると同時に、「自分はきちんと評価されている」と感じられることで、本人にとって大きなモチベーションとなるからだ。ただし、この点についてもよく理解していない考課者が多いように思う。
いずれにしても、人事考課が単に処遇のみならず、「人材育成」や「動機付け」の源泉となるという認識を持つことが、より良い考課者となるための「第一歩」であることを忘れてはならない。
■評価をする前に、自社の人事制度をよく理解しよう
ゆえに、評価する立場にある者は、自分の会社の人事制度がどのような仕組みとなっているのか、どうしてこのような内容となったのかなど、自社の制度について正しく理解することが求められる。
すると、「別に、人事制度の“歴史”や“詳細”などを知らなくても、自分は部下を評価することができる」と反論する人がいる。しかし、そのように行われた評価結果は、マネジメント上の破たんを招くことになる。目標の設定が一方的だったり、上司の好き嫌いや気分で評価されたりしたら、果たしてメンバーはどう思うだろうか。上司に対する不信感が芽生え、目標達成や成長していくことに対する気力が失われ、組織の活力も低下していく。実際に、そうなってからでは遅い。そのためにも、考課者は被考課者に対して分かりやすく、かつ納得の得られるまで説明できるよう、人事制度を理解することが求められてくるのではないか。これは、必要条件というより、考課者の義務と言えよう。
■人事考課には「限界」があることを知ろう
とはいえ、人が人を評価することには「限界」があることも事実である。それは、人間が感情の生き物でもあるからだ。感情があるから、全てをロジックで貫き通すことは現実的に難しい。自分としては人事制度を理解したつもりでも、間違いや思い違いなどは誰にでも起きる。また人間には、好き嫌いがあって当然である。だから、考課者はそうした限界のあることを十分に認識し、それを最小化していくことが求められる。それには、「人事考課エラー」についての理解を深めることがとても重要である。
人事考課エラーとは、さまざまな原因によって生じる人事考課上の「誤差」のこと。エラーが起こる原因としては、以下の2つが考えられる。
- 考課者による“意図的”なエラー:自分の嫌いな部下や友好的でない(反抗的な)部下に対して、わざと厳しい評価を下してしまう
- 考課者の“無意識の行為”によるエラー:考課者の癖や判断の歪みによって起こる
(1)については考課者としてあるまじきものであり、問題外である。何よりも、考課者失格であろう。問題は(2)である。図表1に示したように、人事考課エラーにはさまざまな種類がある。まずは、こうしたことが評価をする際に起こり得るエラーである、との認識を持つことが重要だ。実際問題として、エラーの存在を知っているのと知らないのとでは、評価の精度に大きな格差が生じてくるからである。また、エラーを完璧に取り除くことができないとしても、例えば、自分が「先入観エラー」を起こしやすいタイプかもしれない、「寛大化傾向」があるなど、事前に自分自身の評価に際しての行動傾向を知ることにより、エラーの発生を少なくすることは十分に可能である。
図表1:「人事考課エラー」の種類名称 | 内容・特徴 |
---|---|
ハロー効果 | 特定の評価項目において「印象」が強かったような場合に、その事項に影響を受けてしまい、その他の項目についても同じように評価してしまうこと |
先入観エラー | 女性は男性より劣るなど、「性別」や「学歴」「年齢」などに対する先入観に基づいて、評価をしてしまうこと |
親近感エラー | 被考課者に対して、考課者が仕事とは関係のない部分(学校や出身地、趣味や価値観が同じなど)について親近感を持ち、それによって甘い評価をしてしまうこと |
帰属要因エラー | 景気の動向や上司の支援など、被考課者以外の外部要因を過大(あるいは過小)にとらえ、被考課者を実際よりも厳しい(甘い)評価をしてしまうこと |
近時点効果エラー | 被考課者の最近の働きぶりが印象強く残り、それだけで期間全体を評価してしまうこと |
厳格化傾向 | 他人に厳しい、または管理職としての役割などから、どの人にも必要以上に厳しい評価をしてしまうこと |
中央化傾向 | 自分の下す評価に自信がない、目立つことを避けたいなどの理由により、どの人に対しても当たり障りのない評価をしてしまうこと。評価が中央値に集まり、高い評価・低い評価を敬遠すること |
寛大化傾向 | 被考課者への配慮で、どの人にも甘い評価をしてしまうこと |
対比誤差 | 定められた「評価基準」ではなく、考課者が自分と比べて被考課者を評価すること |
論理的誤謬 | 考課者が自ら作った理屈で、評価してしまうこと |
第一印象効果 | 必ずしも正しくない「第一印象」に引きずられて、評価をしてしまうこと。ハロー効果に似たエラー |
考課者研修の「現状」と「対応策」
◆考課者研修を行う「理由」
人は、自分の能力がアップし、それが評価され他人に認められることでモラールアップし、さらなる成長が図られていく。考課者が人事考課を行う理由というのも、それが考課者の「役割」であるからだ。別に、考課者が被考課者よりも偉いから評価するわけではない。当然のことだが、人を評価することが自分の「特権」であるかのような考えを持ったり、振る舞いをしたりしてはならない。自分の役割として評価を全うすること、そのために正しい知識やスキルが必要であることを、考課者は十分に理解しておいてほしい。
また、成果主義が浸透し、自立型人材が求められる中、企業が社員の“個別管理”を進めていけば、考課者にもメンバーを従来以上に個別に管理し、指導・支援していくことが求められる。考課者研修はそのような点からも、考課者のマネジメント能力に磨きをかけ、レベルアップを図ることが期待されている。
と同時に、人を評価することは評価する自分自身も問われてくることを知ってほしい。また、そのことを強く自覚することである。そう考えていくことで、評価する立場にある考課者自身も大きく成長していくことだろう。
前述したように、人事考課の結果は「賃金(昇給、賞与)」「昇進・昇格、配置・異動」などの処遇を決定する材料として使われるのをはじめ、「能力開発・人材育成」や「動機付け」などにも、大きく寄与していく。さらに近年、賃金制度の改定が行われてきたことで、考課結果がよりダイレクトに賃金に反映されるケースが増えてきた。
以上、述べたような理由からみても、人事考課は慎重、かつ正確に行わなければならない。そして、考課者にはそれを行うために必要な知識やスキルが求められることになる。だからこそ、考課者の評価能力・技術を高める取り組みである考課者研修が不可欠となってくるのである。では、考課者研修はどのように実施されているのか、その実態を見ていくことにしよう。
■考課者研修の「現状」~約7割が「実施している」。「役立っている」が85%近くに達する
労務行政研究所が2006年に実施した調査「考課者研修の実態と問題点、その対応策」(人事・総務担当者を対象)によると、考課者研修を「実施している」が68.6%と7割近くに上り、「実施していない」31.4%の2倍以上となっている。従業員規模別では、規模が大きいほど実施割合が高く、1000人以上では88.1%に及ぶのに対し、300人未満では45.8%と半数を下回っており、規模による格差が見られている。
図表2:考課者研修の実施状況(%)合計 | 1000人以上 | 300~999人 | 300人未満 | |
実施している | 68.6 | 88.1 | 61.5 | 45.8 |
実施していない | 31.4 | 11.9 | 38.5 | 54.2 |
※以下、図表3から5まで、出典元同じ
次に、考課者研修をどのタイミングで実施しているかを聞くと、「あらかじめ決めた特定の時期に実施」が76.4%に上り、「随時実施」26.4%を大きく上回った。また、「あらかじめ決めた特定の時期」の内容としては、考課者研修を管理職就任時研修の中に組み込んで実施するケースなどに代表されるよう、「新たに管理職(層)に就任したとき」69.1%が7割近くを占めている。一方、「毎年実施」は45.5%と半数に満たない。必ずしも、管理職の評価能力・技術を高めるために、定期的に行われているわけではないと推測される。私としては、この点を問題視したい。理由は後述する。
図表3:考課者研修の実施時期(%)あらかじめ決めた特定の時期に実施 | 76.4 | |
(上記の内訳:複数回答) | 毎年実施 | 45.5 |
新たに管理職(層)に就任したとき | 69.1 | |
上記以外 | 5.5 | |
随時実施 | 26.4 | |
その他 | 8.3 |
考課者研修を行う際、どのようなプログラムを盛り込んでいるのか―。最も多かったのは「評価制度の仕組み」94.4%であり、評価のノウハウやテクニックといったスキルの習得も重要だが、まずは制度自体の確認・把握が大前提と考えているようだ。次いで、「評価エラーの基礎知識」71.8%、「ケーススタディによる演習」71.8%と続き、以下、「フィードバックの方法」63.4%、「評価面接の実習(ロールプレイング)」39.4%など、評価スキルの向上に関するプログラムが挙げられている。
図表4:考課者研修の内容(複数回答)(%)評価制度の仕組み | 94.4 |
評価エラーの基礎知識 | 71.8 |
ケーススタディによる演習 | 71.8 |
フィードバックの方法 | 63.4 |
評価面接の実習(ロールプレイング) | 39.4 |
その他 | 11.3 |
同調査で注目されるのは、自社で実施している考課者研修が、制度の運用において役立っているかどうかを聞いている点。その結果をみると、「大いに役立っている」は8.5%にとどまったものの、「ある程度役立っている」は76.1%に上り、合わせると「役立っている」は84.6%に達しており、その効果を肯定的に評価していると言えよう。ちなみに、「あまり役立っていない」は11.3%、「まったく役に立っていない」は皆無だった。
図表5:考課者研修の効果(%)大いに役立っている | 8.5 |
ある程度役立っている | 76.1 |
あまり役立っていない | 11.3 |
まったく役に立っていない | - |
その他 | 4.2 |
■考課者研修が不十分だと、考課者と制度に対する信頼性が低下する
考課者研修は約7割が実施しており、「役立っている」が85%近くに達するという結果をみると、一応の評価はできるだろう。ただし、人事考課を受ける側に立ってみれば、必要な知識や技術を身に付けた人に評価されたいと思うのは当然のこと。何より、自分を評価する上司が、きちんとしたトレーニングを受けていない場合には、そもそも上司を信頼することができなくなる。さらには、考課者に必要なトレーニングを受けさせていなければ、会社に対する不満も生じてくる。
このように考課者研修が不十分だと考課者だけでなく、人事考課制度そのものへの信頼が揺らぐ危険性があることを忘れてはならない。たかが考課者研修、されど考課者研修なのである。
■考課者と被考課者のモラール低下を防ぐ
ところで、組織において人事考課制度がうまく機能しているかどうかを判断する場合、「考課者研修の実施状況」と「考課結果の処遇への反映度」の2点から分析することができる。
図表6にその関係性を記したが、まず、考課結果の処遇への反映度が高く、研修も十分に行われている場合には、制度のスムーズな運用が可能となる。スキルの高い考課者によってメンバーが評価され、それが処遇へと反映されれば、考課者も被考課者もモラールが高まるからだ。
一方、考課結果の処遇への反映度が高いのにも関わらず、考課者研修が不十分な場合は、考課者や制度に対する信頼が薄れていき、被考課者のやる気は失われてしまう。このパターンは急激な制度変更を行う場合によく見られるもので、仕組みは変えたものの、それを運用していくためのスキルが追い付かないという状況を表している。
また、考課者研修は十分に行われているが、人事考課の結果があまり処遇に反映されていない場合では、考課者のモラール低下に注意すべきである。せっかく考課スキルを磨いても、それが処遇の決定に活用されなければ、人事考課という役割そのものに対する意欲を考課者が失ってしまうだろう。
なお、考課者研修が不十分で、加えて処遇に対する考課結果の反映度も低い場合というのは、これは人事考課制度がまったく機能していない状態である。こんなことは、あってほしくないが…。
■考課者研修の「プログラム」をどう組むか
考課者研修のプログラムは、社内で作成する場合もあれば、社外の専門機関に依頼する場合もある。前述の調査では、外部機関を利用するケースと独自で行うケースがほぼ半々だったが、外部機関を利用する場合でも、できるだけ自社独自の課題や目標に即したコンテンツを盛り込むべきである。プログラム内容については、下記のようなものが一般的である。
【一般的な考課者研修のプログラム例】- オリエンテーション
- 管理者の役割、仕事と行動、部下育成の計画と行動(講義)
- 人事考課制度の理解度診断【事前】(テスト)
- 人事考課の目的と基本的仕組み(講義)
- ケーススタディA(個別研究、グループ討議、全体討議)
- 考課者に必要な知識と技術(講義)
- ケーススタディB(個別研究、グループ討議、全体討議)
- 人事考課制度の理解度診断【事後】(テスト)
- 研修のまとめと質疑応答
- オリエンテーション
- 評価実習A:業績評価(個別研究、グループ討議)
- 業績評価のグループ発表・全体討議
- 評価実習B:能力評価(個別研究、グループ討議)
- 能力評価のグループ発表・全体討議
- 評価実習C:プロセス・執務態度評価(個別研究、グループ討議)
- プロセス・執務態度評価のグループ発表・全体討議
- フィードバック面接の実習・ロールプレイング
- 研修のまとめと質疑応答
■自社独自のプログラムを作成しよう
考課者研修において、自社独自のものを作成するには手間暇がかかるという理由により、他社のケースや汎用のもので済ませてしまう傾向がある。しかし、貴重な時間を使って行う研修であること、何よりその意味を考えれば、自社独自のものを作成する意義は大きいと考える。
実際、自社で作成したものならば、単に評価実習のみに使われるだけではなく、能力開発や人材育成計画書を作成したり、フィードバック面接を行う際など、一連の教育訓練の中で有機的に活用できる。さらには、仕事の割り当てや目標設定にもつなげていくことができるだろう。外部機関などの力を借りてもいいから、とにかく自社の人材の評価・育成の中で効果的に活用できるものを、独自に作成していくことが大切である。
具体的な日程だが、1泊2日程度の時間をかけて、じっくりと学ぶことが必要である。また、管理職への昇進時などに、1度だけ受けるというのではなく、定期的に受講できるような仕組みがあれば、さらに考課者のスキルは高まっていく。それが、組織全体の底上げにつながっていく。
考課者研修の終了時には、アンケート調査を行うといい。受講者の研修効果や意見を聞くことにより、以降の計画立案の参考となるからだ。また、研修時に出た質問やアンケートの意見などをQ&Aの形でまとめておき、管理者全体の人事考課への理解へとつなげていくことも合わせて行っていきたい。
なお、講師については、人事部や教育研修部などのメンバーが担当することもあれば、外部講師を招くこともある。内容によっては、各職場のマネジャーやベテラン社員を講師とするケースもいいだろう。
評価結果をどう伝えるか~「面談」の進め方
■評価結果を「フィードバック」することの意味
考課者研修でさまざまな知識やスキルを学ぶのも、部下に対して評価結果を正しく伝え、そこから能力開発、そして人材育成を図っていくことが大きな目的としてあるからだ。だからこそ、考課結果に対する納得性を高め、本人の気付きを促し、さらなる成長を図っていくために、考課結果の「フィードバック」が非常に重要となってくる。
事実、労務行政研究所の別の調査でも、何らかの形でフィードバックを行っている企業は87.3%と9割近くに上っている。これも、フィードバックの有用性を各企業が強く感じているからこそであろう。結果を本人にフィードバックするということは、評価制度においては必要不可欠なものであり、それがなければ評価する意味がないということだ。問題は、フィードバックしたとしても、その結果をいかに伝えるか、納得してもらえるかという面談の「内実」「充実度合い」がどうか、である。
考えてほしい。評価結果についての説明が適切に行われなければ、被考課者は「自分は組織にどのくらい貢献しているのかが分からない」ため、「自分の強みや組織内におけるポジションが分からない」といった不満を持つことになる。さらに「自分の問題点や課題、弱みが分からない」ことにより、「今後、どのような点を改善したり、努力すればいいのかが分からない」と先々に不安を覚えることになってしまう。
また、考課者にとっても、問題が残る。面談がNGということは、結果の説明責任を免れているということになるからだ。その結果、評価することに対するモチベーションや責任感が薄れる危険性がある。挙句の果てには、マネジメント放棄につながりかねない。考課者には、面談を十分に機能させることに力を入れてほしい。
このように人事考課制度においては、評価を正しく行うことと、その結果を本人へと的確に伝えることを、必ずセットで考えなければならないのだ。この点を考課者研修においては、最初に明確に伝えることが肝心である。
■「面談」をどう効果的に進めていくか
評価結果を本人に伝える際、最も有効な方法はやはり直接本人に会って、話をすることである。結果をオープンにするといっても、それが単に考課表を返却しているというだけでは、本当の意味でのフィードバックにはならない。ペーパーコミュニケーションでは、たとえ詳細が記してあっても、そこから醸し出す力には自ずと限度がある。やはり、考課者と被考課者がフェイス・トゥ・フェイスの関係に立ち、きちんと話し合う時間を持つことが、その後の人材育成や動機付けを図る上でも欠かせない。
だからこそ、評価結果を伝える際には、考課者と被考課者による一対一の「面談」を行う必要がある。考課者研修でも面談の“実効性”を高めていくことに、より力を入れるべきであり、以下、その具体的な方法についてまとめていく。
一般的に、「目標管理制度」を導入している組織では、「目標設定面談」「中間面談」「評価面談」といった3種類の面談が行われている。ただし、実際は期末に「評価面談」と「目標設定面談」を同時に行うことが多いので、年2回の面談が標準的な回数と言える。
そして、評価結果について話し合う「評価面談」は、以下のような流れで実施される。
【評価面談の流れ】- 被考課者、考課者はそれぞれ評価を済ませておく
- 被考課者は自己評価を、事前(面談前)に考課者に渡しておく
- 被考課者が、「自己評価」について説明する
→考課者はまず、被考課者の話を聞くことから始める - 考課者が、「評価結果」について説明する
→被考課者の良かった点、努力が認められた点から話を始める。その後で、問題点や課題についての話をしていく - 「評価結果」について、両者で話し合う
→考課者による評価結果と、被考課者の自己評価との間にギャップがある場合には、考課者はその理由(自己評価と異なる評価を付けた理由)をきちんと説明する - 「評価結果」を確定する
→両者の間で評価結果に対する合意を得る。なお、2次評価や3次評価がある場合は、それについても説明し、この結果が最終結果でないことを被考課者に伝えておく
■「面談力」を高めるために~面談を行う際の留意点
当然のことながら、面談では評価結果が話の中心となるが、それだけではない。評価結果を“材料”として、被考課者の能力開発、育成を図っていくことが何よりも重要である。そのためにも考課者は以下の点に留意して、面談を進めていく必要がある。
●良い「聞き手」になること
まずは、良い「聞き手」になることを心がけたい。評価結果やその理由について、被考課者に分かりやすく伝えることはもちろん大切だが、考課者が一方的に話すのではなく、むしろできるだけ「聞き役」に回り、被考課者の意見や感想、思いをなるべく多く引き出していくことに注力していくことだ。その際には、傾聴や共感を中心とした「コーチング」スキルが有効となる。
●意見の押し付け、答えの誘導はしない
自分の意見を押し付けたり、欲しい答えを誘導したりしないよう十分に気を付けること。何が課題なのか、今後どうしたいのかなどについて、まずは時間をかけて被考課者の意見を聞き、それを理解しようと務めることである。何より、その意見を「理解すること」とそれを「受け入れること」は全く別物であることを知ることである。特に、被考課者の話を途中で遮ったり、即断して否定的なコメントをしたりすることのないように気を付けたい。
●態度・姿勢に配慮する
話すときや聞くときの態度・姿勢にも配慮する。決して横柄な態度を取ったり、面談を仕方なくやっているという態度を取ってはならない。仮に、自分ではそういうつもりはなくても、考課者の座る姿勢によっては(椅子に踏ん反り返る、腕組みをする、上から見下す、など)、被考課者が誤解する場合があるので、注意する必要がある。目線や相槌などにも気を配り、被考課者の話をきちんと聞いていることを示すよう心がける。
●感情をコントロールする
一対一の場合においては、考課者には自分の感情をコントロールすることが求められる。面談は被考課者を育成し、動機付けるために行うものであることを強く認識し、感情的な言動を取らないよう注意することである。なお、被考課者が感情的になってきたと感じたときには、面談は一端ストップする。気持ちを落ち着かせ、別の日に改めて行うほうがいい。
■継続して行うことで、管理職・メンバー双方の絶えざる成長を促していく
先の調査結果にもあったように、多くの企業では考課者研修を管理職昇進時の1回で終わらせてしまっている。くどいようだが、これには異を唱えたい。それは、1回の研修で全てを理解でき、正しい評価がその後ずっと行われるはずはないからだ。実際、人は時間が経てば、かなりのことを忘れる。多くは、自己流の評価スタイルに戻ってしまうように思う。もちろん、予算や時間の問題はあるかもしれない。しかし、評価する立場にある人に人事考課を真に理解し身に付けてもらおうとするならば、1回で終わりとするのではなく、考課者研修を“定期的”に継続して実施していくことが望ましい。
何よりも自社にとって正しく、あるべき評価の仕方を身に付け実践していくことにより、考課者にとっての深い内省効果をもたらし、必ずやマネジメント能力は向上していく。そして、そのような管理職の行うフィードバックの面談によってこそ、メンバーは動機付けされ、自立が促され、人材育成が組織的に図られていくのではないか。
企業間における競争の一段と激しくなるこの先、人材戦略として、管理職とメンバー双方の成長を図っていくためにも、こうした考課者研修を継続して行う意味があるように思う。その結果、人と組織が絶えず成長していくラーニング・オーガニゼーションとしての「企業風土」が、きっと醸成されていくことだろう。