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「キャリアアドバイザー」を活用することで、
組織の活性化と個人のキャリア自律の統合を図る

慶應義塾大学総合政策学部教授 同大学キャリアリソースラボラトリー代表

花田 光世さん

「キャリアアドバイザー」を選抜・育成していくには

「キャリアアドバイザー」の選抜・育成・資質といったことについてお聞かせいただけますか。

第一世代の方はゼロベースから作っていくことになるので、そのマインドというか、エネルギーがあふれていました。ただ当時は資質・適性といっても、何が必要とされて、どのようなスキルが大事かということが必ずしも見えていませんでした。そういう中で、ゼロベースで役割を作り込んできたのです。このように第一世代にはいろいろな人がいて、さまざまな背景を持っている多様な人たちがキャリアアドバイザー軍団を形成していました。

第二世代になってくると、カウンセリングの知識をはじめ、キャリア自律もキャリア論だけではないリーダーシップ論も含めていろいろな勉強をしなければならない、従来の組織の教育の枠組みも勉強しなければいけない、という形で学ばなければならないものが見えてきました。そうしたところが強く出れば出るほど、第一世代の創業者型というよりもスタッフ化という動きが出てきました。

これが第三世代になると、今までキャリアアドバイザーが持っていなかった領域での知識をベースとした活動が顕著になってきました。例えば、ダイバーシティと人権との統合の中でキャリアアドバイスが出てくるとか、CSRの流れの中で働く権利が出てくるとか、ワーク・ライフ・バランスに近い領域の中でキャリアアドバイスに入っていく人たちも出てくるようになるとか。そういう形で、従来とはバックグラウンドの違うものを持っている人たちが入ってきています。

慶應義塾大学総合政策学部教授 同大学キャリアリソースラボラトリー代表 花田 光世さん

そのため、適性・選抜といっても、どういう人を選ぶのか、どういう知識が必要かということで、確立したものはあまりないと思います。それよりも重要だと考えるのは、キャリアアドバイザーに任命された人たちを、その後どのようにスーパーバイズ(助言・指導)していくかというスーパービジョン、フォローアップの作り込みです。ところが、キャリアアドバイザーの資質をどのように伸ばしていくかということに関してのスーパービジョンが、未だ確立されていないのが現状です。キャリアアドバイザーのスーパービジョンの一つの模範例としていえば、心理カウンセラーや臨床心理士におけるスーパービジョンで、これは臨床的なケース研究です。

しかし、キャリアアドバイザーのスーパービジョンに、臨床的なケース研究だけでは不十分です。臨床ケースは大事なことですが、これは心理カウンセラーの世界の話です。キャリアアドバイザーの活動とは、組織の活性化、いろいろな研修とのドッキング、研修の後のフォローアップ、自分でどのように能動的・主体的に組織の中で自分のポジショニング・節目を作っていくかへの支援などです。こうしたことを組み込んだ内容でないと、キャリアアドバイザーのスーパービジョンとして十分ではないと思います。例えば、私が実践しているスーパービジョンでは、キャリア自律・360度評価・節目研修などの教育研修のカリキュラム構築、インストラクターとしての役割、フォローアップの仕組み、社内公募の組織内位置づけ、ダイバーシティ支援などの多様な領域におけるキャリアアドバイザーの活動役割の広がりなどをカバーするようにしています。臨床的なカウンセリングのケースを超えて、キャリアアドバイザーが現場の業務・仕事に立脚した形で支援・活動ができているかということを組み込むことがこれからのスーパービジョンにおいて必要となってくると考え、実践しています。

そのように考えていくと、キャリアアドバイザーの役割はこれから先、ますます重要になりますね。

多くの方々が自分もなりたい、志したいと考えるようになると思いますが、私がキャリアアドバイザーで大事だと考えるのはマニュアルではなくて「心得」です。単にスキルや知識ではなく、一人ひとりの個の支援を通じて、どのように組織の活性化につなげていくか、そして個人のライフスタイルの構築にどうつなげるか。これをしっかりと理解することが大事なのです。

言うまでもなく、キャリアコンサルタント1級、2級の試験を受けてパスするには、相応の知識が必要です。しかし、多くの知識があるからといって、現場で仕事ができるということではありません。やはり、心得がとても大事なのです。現場の中で多くの方とコミュニケーションを取りながら、多様な一人ひとりの人たちの成長に向き合う経験をいろいろと積んでいくことが欠かせません。そういう状況がない、頭でっかちのキャリアアドバイザーやキャリアコンサルタントは、あまり役に立たないでしょう。

ですから、人と接する、あるいは修羅場に直面している人に寄り添いながら、多様なニーズや状況にある人たちの支援にはどういったものがあるのかを、メンター的な立場でもいいし、仲間的な立場でもいいし、自分の経験値を増やしていくことです。このような経験の蓄積はとても重要ですね。

ありがとうございました。それでは、最後に11月12日の「HRカンファレンス2013-秋-」の講演に参加される方々へメッセージをお願いします。

キャリア自律と聞くと多くの方は、一人ひとりの多様な「個」を大事にすることだと考えます。ところが従来のライフキャリア論やダイバーシティでは、「個」といってもその属性を見ていたのではないでしょうか。女性、若者、シニア、中堅、ポストオフ対象者などであり、一人ひとりの「個」ではありません。

つまり、従来のライフキャリア論からいうと、30代、40代、50代それぞれで、こういう発想があるのだと。ダイバーシティにしても「男性対女性」、あるいは「育児中の女性」といったような特定のパターンに押し込んだ形で、そこでの特色を見ようとします。しかし、本当のライフキャリアやダイバーシティはその「属性」をどのように超えていくかだと思います。注目すべきは、一人ひとりの「個」なのです。ですから、私たちは30代はこうなるかもしれない、40代はこうなるかもしれない、イクメンになったらこうなるかもしれない、という属性的な部分は参考にするかもしれないけれど、それを通じた「個性化」、ユングを引用するまでもなく、一人ひとりの自分らしさの追求という視点での「個性化」を捉え直すことが重要だと考えます。

図表

少し言い過ぎになるかもしれませんが、いま一生懸命キャリア自律を推進している人たちでも、実は「個」の属性を見てしまい、一人ひとりの「個」を見ていない方が多いように思います。特に人事部門の方々にはその傾向があるかと思います。そうではなく、ぜひ、一人ひとりの「個」をみていただきたい。それから安易に生きがいを語らないことも重要だと思います。最近のケースを見ると、あまりに単純に「私の素敵な生き方」を重視し、それに共感を持ってくれる人とつるんで、これがキャリア自律の生き方という意識を持たれている方々が増えているように思います。それは、仲間とつるむキャリア自律です。フェイスブックの「いいね!」に似たような集団で、価値観を共有し、お互いをほめ合うようなことになって、それに満足してしまうようなキャリア自律です。そうではなく、キャリア自律のためにはもっと「個」が強くなければいけません。自分らしさを発揮しようとする「個」がぶつかり合うことで、そこから新たな成長やチャンスをつかみ取るキャリア自律、相互啓発型のキャリア自律が生まれてきます。つまり、同じ仲間に閉じた狭い意味でのナルシズムをベースとしたキャリア自律ではなく、多様な人たちの相互啓発を通したキャリア自律に対する支援がとても重要となってくるのです。このことを、人事担当者の方は心にとめておいて欲しいと思っています。

慶應義塾大学総合政策学部教授 同大学キャリアリソースラボラトリー代表 花田 光世さん

(2013年8月27日 東京都千代田区 慶應丸の内シティキャンパスにて)

「キャリア開発」は対象範囲が広く、その手法もさまざま。「何から取り組めばいいのかわからない」という声は少なくありません。他社の具体的な施策や、実践のポイントを学ぶことで、自社のキャリア開発支援に活かせます!

キャリア開発 ヒントがみつかる 企業事例6選│無料ダウンロード - 『日本の人事部』

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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