「社員改革」を実現するリーダーシップのあり方
吉越事務所 代表
吉越 浩一郎さん
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なぜ、「トップダウン」なのか
吉越さんは、「トップダウン」のマネジメントを標榜しています。
言うまでもなく、現場で起きていることについては、現場が一番詳しいはずです。しかし、会社全体としてはどうかという判断を、経営者である私はしなければならない。だから、他の現場で起きていることと総合的に考え合わせ、会社としてのベストの判断を「トップダウン」で下していきます。早朝会議では、各自がそれぞれの立場で真剣になって説明し、それに対して私が判断していくという図式です。厳しくても、皆でオープンに話し合いができる「場」を持つことが重要だと考えます。
こうしたやり方について、現場の意見を聞き入れるから、一種の「ボトムアップ」だと言うこともできるかと思いますが、何をおいても会社にとってベストだと判断したものを選択するだけ。意思決定は、あくまでトップである私自身の判断で行います。これが、私の言う「トップダウン」です。
正しい判断をするためには、現場に近いところにいないとダメということですか。
その通りです。早朝会議の中で現場と握った部分について、速やかに実行していきます。ただ、スピードに付いていけないという人も出てきます。しかし、常にベストと判断したものをやり切ることが、会社として最も大切だと思っています。
トップが辞めた後、改革の火を消さないためには何が必要でしょうか。
私の作った仕組みにこだわらず、上に立つ人が良いと判断したものをどんどん取り入れて、それを「自分たちのもの」だと思うこと。自分自身の考え、アイデアで行ったものだという自負を持つことです。自分自身がベストと信じているわけですから、揺るがないで進んでいけるのです。それが、改革を続けていく原動力となります。
ところで、「人材を育成することはできない」が持論だと聞きました。
確かに、マニュアル化できる部分はありますが、仕事には教えられない部分があります。この部分がとても重要なのです。「暗黙知」と呼ばれるものです。優秀な人というのは皆、努力によって自分なりの仕事のやり方を身に付けてきたわけです。これは言葉ではなかなか説明できません。また、マニュアル化ができないので、教えることも難しい。その意味で、社員教育はムダだということです。結局、自分で努力して考え、学び取るしか方法はありません。
継続して学習していく姿勢、態度が重要なのですね。
「三角形」を意識した、現場におけるマネジメントのあり方
現場の管理職、管理部門の人事部には何を期待しますか。
よく中間管理職や人事部は「調整役」などと言われますが、これは大きな間違い。そもそも会社で調整が必要になったら、おしまいです。組織というのは「三角形」で、上から下に仕事が流れていきます。それぞれの段階でやるべきことが明確になっていなければなりません。そうでなければ、三角形が機能しません。
会社では社長の存在が非常に大きい。トップダウンで物事が進んでいきます。言い方を変えれば、リーダーという立場はトップダウンでしかありえません。とはいえ、これは別に社長だけに限ったことではありません。各部門の長である人は、それぞれの三角形の上に立っているわけですから、そこで正しい判断をし、トップダウンをしていくという構造は、社長とまったく同じです。
そう考えれば、現場の管理職や人事部は調整役ではないことがお分かりでしょう。すべからく、戦略的であるべきなのです。常に現場の近くにいて、判断をしていく。実行に移した際には、多少問題が生じても、自信をもってやり切っていくと。こうしたリーダーシップが、社員改革を実現していくのです。
先にも述べたように、組織は三角形の構造です。三角形をいかに意識できるか、これがとても大切なのです。
採用難・人材難を乗り切る方法
昨今では少子化が進展し、採用難・人材難と言われています。このような状況下、経営層や人事部はどんな戦略を持つべきでしょうか。
日本の労働市場を見ると、中途採用市場がまだ十分に形成されているとは言えませんから、新卒の採用はとても大切です。また、採用が難しい現在では、その人材をいかに育てていくかが大きな課題となっています。
ポイントになるのは、良い人材に来てもらうために、会社そのものが機能的に動けているかどうか、ということだと思います。なぜなら、そういう部分を若い人は敏感に感じているからです。言い方を変えれば、若い人たちにどんどん仕事を任せていける会社でなくてはダメだということ。
それなのに、能力のある若い人たちが活躍できる仕組みができていない会社がいかに多いことか。例えば、人事の仕組みが「資格等級制度」であることが、その原因の一つかもしれません。
実態として、一定の年齢にならないと課長や部長になれない仕組みですね。
人材格差が会社格差になると言われる現在、仮に10年に一人という逸材がいたとしても、この仕組みでは若い人たちは悶々と20代を過ごすことになってしまう。それが果たして正解なのでしょうか。優秀な人を抜擢できる仕組みがなくては、良い人材は育っていかないし、集まってこないのではないでしょうか。
若い人は、任されるとちゃんとやりますよ。また、そういう「枠」が人を育てると言ってもいいでしょう。事実、外国では若くても能力があればどんどんポストを与えていきます。人を育てるには、当たり前のことだと考えているからです。しかし、資格等級制度に縛られていると、なかなかうまくいきません。上のポストに就いた時には、すでにかなりの年齢になって体力・気力とも失せてしまっている。これでは本来持っている能力を発揮できません。
もちろん仕事には経験も必要です。しかし、年齢ではなく優秀な人が三角形の上に立てるような仕組みを作ることが、これからの会社経営、何より人事部には求められるように思います。
企業社会は厳しい「戦場」に置かれているのと同じです。勝ち残るためには、当然、社内においてもチャレンジと同時に、厳しさが必要になってくるでしょう。
吉越さん自身、最初から厳しさが求められる職場で社会人生活をスタートし、経験してきたことが、その後の吉越流改革を進めてきた原動力となったような気がします。
人間は環境の動物ですから、ぬくぬくとした場にいると、それが基準になってしまいます。「時間内に終わらなければ、残業すればいい」なんていうのは、その典型でしょう。やはり、成長するためには自他共に、厳しさがなくてはいけないでしょうね。
取材は2008年5月30日、東京・港区にて
(取材・構成=福田敦之、写真=中岡秀人)
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さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。