リアリティ・ショックの扱い方がポイントに
新入社員の組織適応を促す要素とは
甲南大学経営学部 教授
尾形 真実哉さん
配置・上司の育成・新人への情報提供が適応を促すカギ
新入社員の組織適応を促すために、人事ができることとは何でしょうか。
まずは、配置の見極めです。最初は、仕事のできる育て上手な上司のチームに配属させるべきです。配置を考えるときは人員補充に目がいきがちですが、若手の場合は育成も重要な課題の一つ。特に新人は人員補充や本人の志望を優先するのではなく、組織社会化に適した配置を考えるといいでしょう。
次に大事なのは、管理職を「育て上手」にすることです。管理職自身に、自分が新人にとって影響力のある存在だと自覚させるのです。人材育成は、「経験:上司への陶酔:研修=7:2:1」の比率で作用すると言われています。つまりOJTも含めると、上司の影響力は9割にも達するのです。また、育て上手な上司は、信頼関係をつくる力にも長けています。活発なコミュニケーション風土を築くトレーニングを実施するのもよいと思います。
新入社員に向けたアプローチも有効です。私の研究では、入社前の事前知識の有無(予期的社会化)が若手ホワイトカラーの組織適応を促進していることがわかりました。それゆえ、採用選考の段階で、会社のネガティブな側面や課題も含めて伝えます。内定者向けにインターンシップを行い、実務体験を取り入れるのも有効でしょう。こうして事前に会社の情報を伝えることをRJP(Realistic Job Preview)といって、過度な期待を抑えて入社後のギャップを最小限にする効果があります。RJPは、適応エージェントの一つでもあります。
また、組織適応のプロセスにリアリティ・ショックが存在すること、ギャップに遭遇した際にどのように向き合い、対応すればよいのかを新入社員に教えることが大切です。新人研修の一環として、ぜひ適応課題の客観的な理解を取り入れてみてください。また、その際、新人にガイドブックのようなマニュアルを配布するという工夫も面白いかもしれません。そのうえで、何でも話せる先輩や上司を見つけるように勧めます。
今年はコロナウイルス感染症の影響で、入社早々テレワークという新入社員も多いはずです。オンライン下で組織社会化や組織適応を促すことは可能なのでしょうか。
残念ながら、期待できないと私は考えています。組織社会化は同僚と共に過ごし、仕事に取り組み、その過程で周囲の振る舞いやコミュニケーションから、また仕事での失敗や成功から学ぶなど、直接的な経験によって促進されるものです。オンラインでは、そのような直接的な経験を体感することは難しいですし、上司や同僚とのコミュニケーションも表層的なものに留まってしまうと思います。オンラインでは業務の知識をインプットさせることはできるかもしれませんが、組織社会化や人材育成には効果的ではないと考えています。
今はこれまで対面一辺倒だった働き方に、リモートワーク熱が高まっている状態です。ただ、オンラインも万能ではありません。しばらくすれば「やっぱり対面での仕事が重要だ」といったような揺り戻しが起こり、オンラインか、オフラインかで振り子のように行き来すると思います。その過程でオンラインかリアルかではなく、両方のよさを活かした日本独自のスタイルを編み出していくのではないでしょうか。
移り変わりを踏まえながら、人事も柔軟な対応が求められますね。
その通りです。経験則だけでは、判断を見誤る時代です。ぜひ人事には、組織行動論などの理論も積極的に学んでほしいですね。また人の育成は、学校と社会とで分断されるものではないと考えています。例えばここ数年、レジリエンス(困難な状況下でもしなやかに適応する力)が注目されていますが、社会に出る手前の段階で培われる要素はかなり大きいはずです。大学と企業が一緒になって社会的ニーズの高い人材を育てるといったコラボレーションがあってもいいと思います。次の時代の人材開発を、共に見出していきましょう。
(取材は2020年5月29日、オンラインにて)
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。