労働力不足を乗り越え、人材の活性化を実現
「ミドル・シニアの躍進」を実現するために人事が行うべきこととは
立教大学 経営学部 助教/パーソル総合研究所 フェロー
田中 聡さん
ミドル・シニアの「躍進」に欠かせない五つの行動特性
大手企業などでは、ミドル・シニアの中に十分に力を発揮できていないローパフォーマーが存在するとも聞きます。「実態調査」で明らかになったことをお聞かせいただけますか。
私たちはミドル・シニアが仕事で成果をあげ、いきいきと働いている状態を「躍進」と呼び、躍進に必要な行動特性を明らかにしました。調査の結果、ミドル・シニアの躍進には五つの行動特性が欠かせないことがわかったのです。第一は「仕事を意味づける」。役割定義や課題設定を自らできる行動特性です。自分の仕事を今後のキャリアや会社の経営、また社会の視点から捉え直して、どのような意味があるかを理解することです。第二は「まずやってみる」。失敗を恐れずに一歩踏み出すというプロアクティブな行動特性です。第三は「学びを活かす」。行動しっぱなしにせず、経験から何を学んだのかを振り返り、次に活かす行動です。第四に「自ら人と関わる」。積極的にコミュニケーションのハブになるような行動特性です。第五が「年下とうまくやる」。ミドル・シニアの場合、年下の上司や同僚がいることも多く、彼らといかに関わるかは躍進に影響を与える重要な行動特性です。
ミドル・シニアの躍進に欠かせない五つの行動特性
- ①仕事を意味づける
- …自分にとってのやりがいや社会的意義という観点から仕事の意味を捉え直すこと
- ②まずやってみる
- …失敗を恐れずに、新しい仕事や役割に積極的にチャレンジしようとすること
- ③学びを活かす
- …仕事経験を振り返り、そこで得た教訓を自論化して次の場面でも適応しようとすること
- ④自ら人と関わる
- …関わる人の範囲を限定せず、積極的に多様な人と関わり、異なる主張や意見を引き出す役割を果たすこと
- ⑤年下とうまくやる
- …年下の仕事相手とも年齢差を気にすることなく、対等なパートナーとして仕事を進めようとすること
以上を踏まえてミドル・シニアのパフォーマンスを見ていくと、会社が求めている仕事上の成果を上げられていない、いわゆるローパフォーマーと言われる層にも大きく三つのタイプあることがわかりました。まず、仕事にも会社にも満足度が低く、何事にも関心を示さない「不活性層」が4%弱。ただし、こうした層は20代、30代でも存在します。次に、私たちが「事なかれ安住層」と名づけた層が10%弱。五つの行動特性を見ると「年下とうまくやる」以外は平均を下回ります。あまり仕事はしないけれど、面倒見がよく後輩には慕われ、社内恒例行事などでは率先垂範するタイプですね。ただ、ここまではそれほどのボリュームゾーンではありません。
最大勢力は「伸び悩み層」で、40%近く存在することがわかりました。行動特性は全体にやや低い程度で、年下とうまくやれない傾向が若干あるくらいです。課長層や一般社員層に多く、先ほどの「事なかれ安住層」とくらべると日々の仕事も忙しくこなしています。ミドル・シニアの中で最も多い割合を占めるこの伸び悩み層は、世間が揶揄する「働かないおじさん」ではありません。では、彼らの躍進を阻んでいる問題とは何か。調査の結果、彼らのキャリア意識にあることがわかりました。つまり、社内での昇進・昇格がキャリアの重要な軸になっている、ということです。社内での昇進・昇格に対する見通しのことを「昇進可能性認知」といいますが、それが著しく高いことが伸び悩み層の特徴です。年齢は50代前半が中心なので、現実的に考えれば、ごく限られた人しかその後の昇進を期待することはできません。しかし、そうした状況を本人たちは客観的に認識することができていないようです。そのため、上司や会社に対して、「こんなにがんばっているのに、なぜこのような評価なのか」という不信感が募ります。自分だけは対象外だと信じ込んでいた役職定年の辞令を受けることで、その不満はピークを迎え、先ほど紹介したような虚無感に至るのです。とはいえ、転職意向も独立志向も強くないので、もやもやしたまま会社に居続けることになります。
3タイプを合計すると、ミドル・シニアの50%以上が「躍進」できていないことになりますね。
よく組織内では、成果を出せる層・中間層・出せない層の割合が「2・6・2」になると言われますが、私たちの調査の結果、ミドル・シニアではそれが「2・5・3」になることがわかりました。他の世代と比べて、やや成果を出せない層の割合が高いことが特徴です。実際、企業にヒアリングにうかがうと、特に経営陣・人事責任者クラスから「うちのミドル・シニアは元気がない」「給料に見合うパフォーマンスを上げられていない」という不満の声を耳にします。ただ、興味深いことに、これまで会社として何か具体的な対策を講じてきたのかとうかがうと「なかなか手が着けられなかった」という本音を口にする企業も多い。
人事部長など経営に近い層にとって、対象となる相手は自分と同期やその前後の人たちです。なかにはかつてお世話になった先輩もいることでしょう。人事上の課題だとは感じていながらも、自分が人事の職にある間は直接手を下したくないと考え、後回しにしてきたケースもあるのではないでしょうか。言い換えると、これまでは先送りできていたミドル・シニアの生産性という課題がいよいよ差し迫った経営課題へとシフトしてきた、ということもできるでしょう。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。