権限、役職、カリスマ性がなくても発揮できる
職場と学校をつなぐ「リーダーシップ教育」の新しい潮流(前編)
早稲田大学 大学総合研究センター 教授
日向野 幹也さん
リーダーシップ・スキルを獲得する時期は早いに越したことはない
実際に、学生たちがどのようにしてリーダーシップの意義を学び、最小3行動を身につけていくのか。日向野先生がBLPで開発されたリーダーシップ教育の仕組みについて、その特色をご紹介ください。
まず一つは、産学連携の取り組みが挙げられます。BLPを新設するにあたって、学生たちに真のリーダーシップを実感してもらうためには、消費者としての姿勢を脱して提案者に変わってもらうこと、そしてその提案に対して教員以外の評価者を巻き込むことが重要だと考えました。そこで、企業や官庁など学外のクライアントから問題解決プロジェクトを出題していただき、学生がアイデアを提案するという形の産学連携をプログラムの中核に組み込んだのです。多数科目積み上げ方式のBLPは、1年次春学期の「リーダーシップ入門」(BLO)から始まり、3年次春学期のBL4まで、5学期2年半にわたるプログラムですが、プロジェクト実行は各学年の春学期に行われます。
産学連携と並んでもう一つ、BLPが評価されるポイントになったのが「アクティブ・ラーニング」の充実です。授業では、プレゼンテーションやグループワークを多用、学生アシスタントを導入するなどして深い学びを促すことを重視してきました。そもそもアクティブ・ラーニングとは、受講生本人の能動的な参加による学習のことであり、言いかえれば、教室の中で「学ぶ側がリーダーシップを発揮する」ということにほかなりません。リーダーシップ開発を目的とした授業や研修が、ほぼ例外なくアクティブ・ラーニングの形をとっているのは、そのためです。じつは現在、全国各地の高校で、授業へのアクティブ・ラーニングの導入が進められています。それは、授業の一手法としてだけでなく、職場で必要とされるリーダーシップ・スキルを学生のうちに学ぶ、いわゆるキャリア教育としても期待されているからではないでしょうか。
日向野先生はご著書の中で「リーダーシップ・スキルを獲得する時期は早いに越したことはない」と述べていらっしゃいます。あらためて、学生にリーダーシップ教育を行う意義についてご教示ください。
先ほどもお話ししたように、権限もカリスマもいらないリーダーシップは、訓練によって獲得可能なスキルです。そうしたスキルを身につけることなしに社会へ出た人が、役職についたり、権限を与えられたりすると、本人も周りも悲惨としか言いようがありません。なぜなら、組織を率いるのに権限や立場を振りかざすしかなく、部下のモチベーションに悪い影響を与えてしまうからです。リーダーシップのスキルは、組織の中で権限を与えられるより前に獲得しておいたほうがいい。従来の管理者研修のように権限を持ってしまってからでは、むしろ遅いのです。その意味では、大学時代は社会へ出る前のラストチャンスと言えるかもしれません。企業でリーダーシップ研修を行う場合も入社前か、せめて入社直後など、できるだけ若いうちから始めて、権限のないリーダーシップの経験をより多く積み重ねるべきでしょう。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。