性別を理由とする不利益
~男性は低年齢ほど不利益を感じている
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子氏
要旨
ニッセイ基礎研究所が2023年3月に行ったインターネット調査によると、「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがあるか」全体の15.2%(男性の11.7%、女性の20.2%)が「あてはまる」または「ややあてはまる」と回答をした。
男女それぞれについて年齢別にみると、女性は年齢が低いほど低いのに対し、男性は年齢が低いほど高く、34歳以下では、男女差は小さい。
この30年間、企業等においては、雇用における男女の均等な機会と待遇の確保を図ることや、女性が妊娠中および出産後の健康を確保すること、子育てをしながらも就労できる環境の整備が進められ、特に女性の就労環境を改善しようとしてきた。そういった環境の中で、若年男性が不利益を被っていると感じる状況が生じている可能性があると考えられる。
そこで、本稿では、34歳以下の男性でどういった人が不利益を被っていると感じているかを分析することで、どういった不利益が起きているのか考えたい。
1――はじめに~「性別を理由として不利益を被った」と感じている割合は、女性は低年齢ほど低いが、男性は低年齢ほど高い
ニッセイ基礎研究所が2023年3月に行ったインターネット調査(調査の詳細は後述)によると、「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがあるか」という問にたいして、全体の15.2%(男性の11.7%、女性の20.2%)が「あてはまる」または「ややあてはまる」と回答をした。
男女それぞれについて年齢別にみると、女性は55歳以上では23.6%であるのに対し34歳以下では17.3%と、年齢が低いほど低い(図表1)。一方、男性は55歳以上では6.4%であるのに対し34歳以下では15.4%と、年齢が低いほど高く、34歳以下では、男女差は小さい。
この30年間、企業等においては、雇用における男女の均等な機会と待遇の確保を図ることや、女性が妊娠中および出産後の健康を確保すること、子育てをしながらも就労できる環境の整備が進められ、特に女性の就労環境を改善しようとしてきた。そのため、若年ほど女性が不利益を被っていると感じる割合が低いことは想定どおりと言えるだろう。しかし、今回の結果からは、そういった環境の中で、若年男性が不利益を被っていると感じる状況が生じている可能性があると考えられる。
そこで、本稿では、34歳以下の男性でどういった人が不利益を被っていると感じているかを分析することで、どういった不利益が起きているのか考えたい。
2――分析方法・結果
1|使用したデータ
本稿で使用するデータは、ニッセイ基礎研究所が2019年3月から毎年実施している「被用者の働き方と健康に関する調査」の結果である。調査はインターネットで2023年3月に実施した。対象は、全国の18~64歳の被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)の男女で、回収件数は 5,747件だった。全国6地区、性別、年齢階層別(10歳ごと)の分布を、2020年の国勢調査の分布に合わせて回収した。
2|分析方法
若年男性就労者に生じ得る不利益として、男性という理由で仕事と家事や育児のバランスがとりにくいこと、近年、男性の家事・育児負担への期待が高すぎること、職場の女性の権利や働きやすさばかりが注目されること等が考えられる。
そこで本稿では、まず、必要な質問に回答した4,788人を対象として性・年齢別に働き方や家庭との両立に対する考え方や職場の現状を確認することで34歳以下の男性全体の特徴を把握する。続いて、34歳以下の男性681人に分析対象を絞り、「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」を被説明変数、家族構成や年収、働き方や家庭との両立に対する考え方や職場の現状を説明変数(図表2参照)として重回帰分析を行うことで、不利益を被っていると感じたことがある34歳以下の男性の考え方や職場の特徴をみる。
3|分析結果
1)使用した変数の概要
使用した働き方や家庭との両立に対する考え方や職場の現状に関する変数の概要は図表2のとおりである。「仕事に満足だ」と「家庭生活に満足だ」は4段階、それ以外の10項目と被説明変数の「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」は5段階で尋ね、図表2では上位2つの合計割合を示した。また、「仕事をしていると活力がみなぎる気がする」「職場での自分の役割に誇りを感じる」「仕事にのめり込んでいる・夢中になってしまう」について、5段階で尋ねた結果に5~1点を配点し3つの合計得点をワークエンゲージメント得点とし 1、図表2では平均点を示した。
34歳以下の男性について、全体と比較した場合の特徴をみると、「家族との時間を多少犠牲にせざるをえなくても、仕事で成功したい」「女性は子どもができたら、家庭を優先するのが望ましい」「男女に関係なく、業績で公平に評価されている」「仕事が原因で家族と一緒にすごす時間が十分とれないでいる」「家族のあれやこれやで思うように仕事に時間を配分できない」が高く、「女性が高い地位や管理職についてもかまわない」が低い。
男性全体と比較すると、「男性も少なくとも数週間~数か月は育児休暇を取るべき」が高く、「女性が高い地位や管理職についてもかまわない」が低い。ワークエンゲージメント得点は、全体よりも高い傾向があった。男性全体と比較してもやや高かった。
34歳以下の女性と比べると、「仕事と育児や介護を両立するための制度があり、必要な人はおおむね利用できる」が8ポイント近く低く、女性と比べると両立支援制度が利用できていないようだ。同年代の女性と共通するのは、「家族との時間を多少犠牲にせざるをえなくても、仕事で成功したい」「女性は子どもができたら、家庭を優先するのが望ましい」「仕事が原因で家族と一緒にすごす時間が十分とれないでいる」「家族のあれやこれやで思うように仕事に時間を配分できない」「男女に関係なく、業績で公平に評価されている」が、それぞれ上の年代より高い傾向があることと、「女性が高い地位や管理職についてもかまわない」が、それぞれ上の年代より低いことである。
34歳以下の男性の特徴として、仕事で成功したいといった思いが強く、時間に余裕がないことがあげられる。昔ながらの男女の役割分担意識があるようだが、「男性も少なくとも数週間~数か月は育児休暇を取るべき」は35歳以上と比べて高いことや、「仕事をするなら、やりがいよりも家庭や日常生活との両立のしやすさを重視する」が35~54歳よりも高い傾向があることから、家庭生活も大切にしたいといった気持ちも少し上の世代よりはあるようだ。
1 詳細は、村松容子「ワーク・エンゲイジメントと生産性の単年分析~ワーク・エンゲイジメントと生産性(2)」ニッセイ基礎研究所 保険・年金フォーカス(2022年07月26日)を参照のこと(https://www.nli-research.co.jp/files/topics/71893_ext_18_0.pdf?site=nli)
2)重回帰分析の結果
続いて、34歳以下の男性681人に対象を絞り、「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」を被説明変数、家族構成や年収、働き方や家庭との両立に対する考え方や職場の現状を説明変数として重回帰分析を行った。
説明変数として使用した変数は、家族状況(独身/既婚・子どもなし/既婚・子どもあり)、本人年収(300万円未満/300~700万円未満/700~1,000万円未満/1,000~1,500万円未満/1,500万円以上/収入はない/わからない・答えたくない)、図表2で示した働き方に対する考え方や職場の現状、およびワークエンゲージメントである。「仕事に満足だ」と「家庭生活に満足だ」は4段階(満足/まあ満足/やや不満足/不満足)で尋ね、順に4~1点を配点し、それ以外の10項目と被説明変数の「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」は5段階(あてはまる/ややあてはまる/どちらとも言えない/あまりあてはまらない/あてはまらない)で尋ね、順に5~1点を配点した。
結果は図表3のとおりである。
「家庭生活に満足だ」「家族との時間を多少犠牲にせざるをえなくても、仕事で成功したい」「女性は子どもができたら、家庭を優先するのが望ましい」「家族のあれやこれやで思うように仕事に時間を配分できない」「セクハラ・パワハラを見聞きする」にあてはまるほど、また、「女性が高い地位や管理職についてもかまわない」にあてはまらないほど「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」と回答していた。また、ワークエンゲージメントが高いほど「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」と回答していた。
「仕事に満足だ」「仕事をするなら、やりがいよりも家庭や日常生活との両立のしやすさを重視する」「男性も少なくとも数週間~数か月は育児休暇を取るべき」といった考え方については不利益を被ったと感じていない人との差はなく、「男女に関係なく、業績で公平に評価されている」「仕事と育児や介護を両立するための制度があり、必要な人はおおむね利用できる」「仕事が原因で家族と一緒にすごす時間が十分にとれないでいる」といった現状についても不利益を被ったと感じていない人との差はない。
3――おわりに
以上のとおり、「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」割合は、女性では低年齢ほど低いのに対し、男性では低年齢ほど高い。この30年、企業等では、雇用における男女の均等な機会と待遇の確保を図ることや、女性が妊娠中および出産後の健康を確保すること、子育てをしながらも就労できる環境の整備が進められており、若年ほど女性が不利益を被っていると感じる割合が低いことは想定どおりと言えるだろう。一方、そういった環境変化の中、若年男性が不利益を被っていると感じる状況が生じていた。
34歳以下の男性全体の働き方に対する考え方と職場の現状の特徴として、他の世代の男性と比べて、仕事で成功したい気持ちや、男女の役割分担意識は強い可能性があったが、同時に「男性も少なくとも数週間~数か月は育児休暇を取るべき」や、「仕事をするなら、やりがいよりも家庭や日常生活との両立のしやすさを重視する」が少し上の世代より高い傾向があり、世代全体とすれば、上の世代と比べて両立に対して積極的であり、仕事も家庭も大切にしたい意向があるようだ。
34歳以下の男性で、「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」と回答した人の働き方等に対する考え方の特徴としては、仕事で成功したいという気持ちが同年代の中でも強く、ワークエンゲージメントが高いことと、昔ながらの男女の役割分担意識も、同年代の中で強いことがあげられた。本人は家庭生活に満足している傾向があった。こういった人は仕事への熱意があり、家庭への満足も高く、大黒柱として仕事に集中し、ひと昔前であれば、職場における評価も高かった可能性がある。しかし、男性に家庭と仕事の両立を求めることや、女性の管理職割合を上げること等、これまでの男女の役割分担を見直す議論が強まる中では、必ずしも心地よく働けておらず、これまでだったらもっと評価されたはずだ、といった意識があるのかもしれない。
また、34歳以下の男性で、「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」と回答した人では、セクハラ・パワハラを見聞きすることがあると回答していることが特徴となっていた。男性に対するハラスメントかどうかは不明であるが、職場にハラスメントが横行している等、課題がある可能性が考えられる。
今回、男性では若年ほど「不利益を被ったと感じる」と回答した割合が高かったことから、どういった不利益が生じている可能性があるか分析を行った。しかし、男性の中でもっとも割合が高かった34歳以下であっても、女性の同年代と比べると、今なお女性の方が「不利益を被ったと感じる」と回答した割合が高い。男女それぞれが上の世代と比較して、回答している可能性もある。今後も、男女それぞれどういった人にどのような不利益が生じているか、注意していく必要があるだろう。
現在、就労している人には、男女雇用機会均等法成立前から働く人もいるが、今回分析した34歳以下は、成立後に生まれた世代であり、考え方も年齢や育った環境、職場によってかなり差があると考えられ、職場環境の変化と同じスピードで意識は変化していない可能性がある。各就労者が、自分の仕事と家庭を両立しながら、周囲の考え方を尊重し、職場で安心して働けるよう、また、職場でも働く意欲が高い従業員を評価できるよう意識のすり合わせをしていく必要もあるだろう。
ニッセイ基礎研究所は、年金・介護等の社会保障、ヘルスケア、ジェロントロジー、国内外の経済・金融問題等を、中立公正な立場で基礎的かつ問題解決型の調査・研究を実施しているシンクタンクです。現在をとりまく問題を解明し、未来のあるべき姿を探求しています。
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