MR オフィスの衝撃― デジタルとリアルが高度に融合する場の創造 ―
第一生命経済研究所 主任研究員 柏村 祐氏
コロナウイルス感染拡大をきっかけに、新しい働き方としてテレワークが注目されており、物理的に離れていても顔の表情や声色を共有できるオンライン会議ツールやチャットなどのコミュニケーションツールに対するニーズが高まっている。テレワークのようなニューノーマルが求められる中で、コミュニケーションツールをはじめ、さまざまなデジタルサービスが急速に浸透してきている。
オンライン会議ツールをさらに進化させ、リアルオフィスのように従業員との距離を感じることができるバーチャルオフィスとして、Mixed Realityオフィス(以下 MRオフィス)の開発が進んでいる。MRオフィスとは、リアルな従業員と遠隔からホログラムで参加する従業員が3D空間を共有し、人と人の距離を感じながら会話をしたり、ホログラム化された資料や製品を共有したりすることが可能なバーチャルオフィスである。
MRオフィスに参加するためには専用のウェアラブル眼鏡を装着する必要がある。従来のウェアラブル眼鏡は重く、解像度が低かったが、最新のウェアラブル眼鏡は約300gと軽量になり、1.3Mピクセルの高解像度、120Hzリフレッシュレートの超高速、1,680 万以上の色に対応するなど進化を遂げている。遠隔コミュニケーションツールの現在の主流であるビデオ会議システムでは、PC画面に映し出された2次元の顔画像、音声、ファイルを共有する機能を使うが、MRオフィスは、ホログラム技術を使うことにより、立体的に人物、オフィスの椅子、机、資料などを感じることができるため、リアルなオフィスと同様の雰囲気を創り出すことができる(図表1)。
MRオフィスの活用方法は、リアルオフィスの再現に留まらない。例えば、コロナ禍でリアルな懇親会や慰労会が困難となる中、ホログラムで再現された懇親会場に社員が集合し、3D化されたグラスを持ちながら懇親することが可能となり、社員間のコミュニケーション活性化につながる。また、お客さまへの商品説明会を MRオフィスで行う場合は、ホログラムで再現された試作品を顧客と一緒に見ながら説明することが可能となる。顧客が修正を要望した場合には、リアルタイムで試作品に修正を反映することができ、今より優れた濃密なコミュニケーションが可能となる(図表2)。筆者も実際に MRオフィスを試してみたが、自分の写真に基づいてアバターを作成し、ウェアラブル眼鏡を装着すれば、MRオフィスはすぐに体感できる。
MRオフィスは、Augmented Reality(以下 AR)、Virtual Reality(以下 VR)が融合した技術であり、デジタル空間に現実空間の情報を取り込み、現実空間とデジタル空間が高度に融合した世界を創り出している。ARは、現実空間に CGなどのデジタル情報を重ねあわせることにより、私たちに新たな認識を与えることを可能としている。また、VRは現実空間とは完全に切り離されたデジタル情報で構築された世界を意味し、あたかもそこにいるかのような感覚を体験できる。現在 VRはゲームなどのエンターテインメント分野を中心に活用が進んでいる(図表3)。
リアルオフィスに出勤して働くという従来の就労スタイルを残しつつ、在宅で働くことも一つの選択肢となった今、物理的に離れていても社員同士が業務を円滑に行うために必要となる情報共有、情報交換といったコミュニケーションを、より一層リアルに、インタラクティブに行えるデジタルツールが求められる。MRオフィスは、高度なリアル空間とデジタル空間を融合しており、リアルオフィスと共存可能なコロナ禍に求められるオフィスのニューノーマルとなる可能性を秘めている。
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