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コラボメタバースの衝撃
~オフィス分野や産業分野への活用が期待される仮想空間の可能性~

第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 主席研究員 柏村 祐氏

コラボメタバースの衝撃

1.メタバースの3類型

メタバースは、meta(超越した)とuniverse(世界)を組み合わせた造語であり、インターネット上に創られた仮想空間を意味する。筆者は、以前執筆したレポートで、現時点で世界に存在するメタバースは、その活用目的に応じて「社会関係形成メタバース」、「デジタル資産取引メタバース」、「リモート協業支援メタバース」の3つに分類されることを紹介した(注1)。

その1つである「リモート協業支援メタバース」は、現実を仮想化してコラボレーションを行えるメタバースである。本稿では、現実世界では考えることもできなかった仮想化した世界となる「リモート協業支援メタバース」(以下、筆者はこれを「コラボメタバース」と呼ぶ)に注目し、具体例をみながら、その可能性について論じる(図表1)。

図表 1 メタバースの 3 類型

2.コラボメタバースの事例

2022年1月20日に韓国政府が発表した「メタバース新産業先導戦略報告書」の中では、2つの「コラボメタバース」の具体例が挙げられており、メッシュはオフィス分野での活用、オムニバースは産業分野での活用が見込まれるメタバースである(図表2)。

図表 2 「コラボメタバース」の具体例

最初にオフィス分野での活用が見込まれるメッシュを確認してみよう。その特徴は、「どこからでも接続」でき、「お互いの存在」を感じながら、「一緒に体験を共有」できる3点に集約される。

インターネット環境があれば「どこからでも接続」することができ、専用の眼鏡型機器、または普段使っているスマートフォン、タブレット、パソコンを通じて、メッシュの世界を体験できる。専用の眼鏡型機器を利用すればメッシュの世界は立体的に表現されるため、そこで感じられる没入感は、スマートフォン、タブレット、パソコン利用時の平面的な世界に較べて高い。ただ、専用の眼鏡型機器は高額なため、当面は、普段使いのスマートフォン、タブレット、パソコンの利用が中心となるだろう。

またメッシュでは、「お互いの存在」を感じるための仕組みとして、自分自身の写実的なアバターが活用される。そのアバターを通じてお互いに目を合わせたり、顔の表情を変化させたり、身振り手振りを使い、物理的なオフィスと変わらない意思疎通が可能となる

そして、メッシュでは「一緒に体験を共有」することを通じて、住んでいる場所が異なったり、海外に住んでいて時差があっても空間を共有し共同作業を行うことができる。

メッシュを利用することにより、オフィス分野では、どのような新たな価値の創出につながるだろうか。例えばグローバル企業では、物理的な拠点が世界に点在しており、一か所に集まり働くことは困難であるが、メッシュを利用すれば、空間や時間の制約を受けない多様な働き方が可能となるだろう。また、国内においても拠点が複数ある場合には同様の効果が見込める。

加えて、自分自身の写実的なアバターの投影を通じたコミュニケーションは、現実と変わらない感覚が再現されるため、対面会議の代替も可能だ。オンライン会議システムでは、上半身の2次元表現しかできないが、自分自身の写実的なアバターが再現されるメッシュを通じて、ちょっとした雑談や、社員の様子を確認できる現実のオフィス空間の代替となりうる。

今後、メッシュは、世界中で利用者が拡大しているオンラインビデオ会議の拡張機能として展開されることが大手ソフトウェア企業から発表されている(注2)。

次に、産業分野での活用が見込まれるメタバースとして、オムニバースを見ていこう。オムニバースを活用することにより、事業運営者は、自社製品の生産製造工程、設備をメタバース上に再現できる。現実空間と同期される「デジタル複製」を操作することにより、メタバース上で作業効率の最適化、生産性向上、品質改善の管理を行える。

実際にどのような活用方法が想定されているのだろうか。ある自動車メーカーでは、未来の自動車工場にオムニバースを活用し、自社製品の生産製造工程、設備を仮想空間に構築することを計画している。未来の自動車工場では、メタバース上で行われる自動車生産に関わる一連の操作が、完全に現実世界の製造工場と同期されるため、オムニバース上で作られた車が現実の自動車になる。

更に驚きなのは、メタバース上で行われる生産に関わる操作を、リアルな人間ではなく、デジタルヒューマンと呼ばれるAIが担当し、現実の工場ではその指令を受けた自律型ロボットが組み立てを行うことも計画されている(注3)。

また、産業用発電所を運営するエネルギー事業者では、オムニバースを活用して、排熱回収ボイラーをメタバースに再現している。再現されたメタバース上で水や蒸気の圧力、温度、および速度について綿密なシミュレーションを行うことが可能となり、安全性を維持しながら排熱回収ボイラーの停止・中断時間の7割削減に成功している(注4)。

産業分野での活用が見込まれる現実空間と同期される「デジタル複製」といえるオムニバースは、上述した未来の自動車工場や製造分野、産業用発電所シミュレーションの分野にとどまらず、自動運転車、ロボット工学、気候シミュレーション、5G信号伝搬、山火事の研究と抑制、地球の可視化など幅広い産業分野への活用が模索されている(注5)(図表3)。

図表 3 産業用コラボメタバースの分野と活用内容

3.拡大する「コラボメタバース」の可能性

以上、みてきたように、オフィス分野や産業分野への活用が期待される「コラボメタバース」の価値は、「時間や空間の制約を超えてコラボレーションできること」と考える。現実空間と仮想空間のデータが高度に同期される「コラボメタバース」が普及することにより、柔軟な業務展開、コミュニケーションが拡大するだろう。

例えば遠隔業務環境となる「コラボメタバース」では、現実空間と遜色ないコミュニケーションと資料共有のためのコラボレーションツールや可視化技術(現象や知識が目にみえるようにする技術)が進化し、業務効率性の向上が期待される(図表4)。更に、人が現実空間に集まることを前提とした集約型企業は、地理的に分散した労働者からなる分散型企業に変貌することも考えられる。

「コラボメタバース」によるリモートワークの拡大は、地理的限界の問題を克服し、雇用機会の提供につながる。また、都心の住宅事情や交通渋滞などの都市部の過密化問題、地方の人口減少問題を解決する対応策の1つとして貢献できるのではないか。

「コラボメタバース」は、オフィス分野や産業分野における時間や空間の制約のないコラボレーションの価値を超えて、新たな雇用機会を創出する。地球規模の人口分散効果につながる「超越世界」を積極的に活用することは、企業の生産性を高めると同時に、いつでもどこからでも仕事ができる環境を整えることにつながり、働く人に寄り添った社会を創ることになるであろう。

図表 4 コラボレーションツールや可視化技術の進化

【注釈】
1)仮想空間「メタバース」の衝撃~あなたが知らない3つの「超越世界」~「https://www.dlri.co.jp/report/ld/181857.html
2)Microsoftより「https://news.microsoft.com/innovation-stories/mesh-for-microsoft-teams/
3)NVIDIAより「https://blogs.nvidia.com/blog/2021/04/13/nvidia-bmw-factory-future/
4)NVIDIAより「https://www.nvidia.com/en-us/omniverse/?activetab=explore-omniverse-3
5)NVIDIAより「https://www.nvidia.com/en-us/omniverse/?activetab=explore-omniverse-3

株式会社 第一生命経済研究所

第一生命経済研究所は、第一生命グループの総合シンクタンクです。社名に冠する経済分野にとどまらず、金融・財政、保険・年金・社会保障から、家族・就労・消費などライフデザインに関することまで、さまざまな分野を研究領域としています。生保系シンクタンクとしての特長を生かし、長期的な視野に立って、お客さまの今と未来に寄り添う羅針盤となるよう情報発信を行っています。
https://www.dlri.co.jp

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