労働関係・社会保険の改正項目を一元整理
社会保険労務士
安部敏志
3.65歳以上を対象にした在職定時改定の導入
そして、在職老齢年金制度の施行日と同じ令和4年4月1日から、65歳以上を対象に在職中から年金額改定を毎年行い、早期に年金額を増額させる「在職定時改定制度」が導入されます。
現在の退職改定制度では、老齢厚生年金の受給権を取得した後に就労した場合、資格喪失時(退職時・70歳到達時)に、受給権取得後の被保険者であった期間を加えて老齢厚生年金の額が改定されますが、この場合、就労したことによる年金額の改定の効果が資格喪失時にしか見えない、という問題点があります。
在職定時改定制度では、在職中から年金額の改定が毎年行われるため、働いている間に年金額の増加を実感でき、高年齢者の働くモチベーションの向上が期待されます。
4.高年齢雇用継続給付の改正
さらに、令和7年4月1日から、企業の高年齢者雇用の賃金額の決定に影響を及ぼす「高年齢雇用継続給付」の改正が施行されます。
高年齢雇用継続給付には、以下の高年齢雇用継続基本給付金と高年齢再就職給付金の2種類があり、現在の支給額は、各支給対象月に支払われた賃金の額に、100分の15を上限として賃金の低下率に応じて変わる支給率を乗じた額ですが、令和7年4月1日からは支給率の上限が100分の10になります。
●高年齢雇用継続基本給付金
基本手当(再就職手当など基本手当を支給したとみなされる給付を含む)を受給しておらず、原則として60歳時点の賃金と比較して、60歳以後の賃金(みなし賃金を含む)が60歳時点の75%未満となっている人を対象とする給付金
●高年齢再就職給付金
基本手当を受給した後、60歳以後に再就職して、再就職後の各月に支払われる賃金が基本手当の基準となった賃金日額を30倍した額の75%未満となった人を対象とする給付金
5.企業実務上のポイント
「高年齢労働者、特に定年後の再雇用労働者のモチベーションが低くて困る」という相談は多いのですが、定年前より賃金が低く、評価されず昇給も見込めないという状態でそれを求めるのは酷です。
60歳定年の企業の場合、高年齢者雇用確保措置であれば5年間モチベーションが低い状態のままということであり、企業にとっては大きな損失ですが、これが70歳まで10年間続き、さらに労働力人口の変化により社内の高年齢労働者の割合が高くなってくることを考えると、企業は真剣に高年齢労働者の活用を考える必要があります。
そのため、令和3年4月1日施行の70歳までの高年齢者就業確保措置を見据え、企業は、正社員と同様に、等級制度や人事評価制度の導入・運用を早急に開始すべきでしょう。
また、令和4年4月1日施行の在職老齢年金制度の支給停止基準額の改正により、企業は賃金額の設定の際に年金の支給停止に配慮する必要がほぼなくなるため、人事評価の結果に基づき昇給させるなど、高年齢労働者の処遇のあり方を改めて検討すべきです。
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