労働関係・社会保険の改正項目を一元整理
社会保険労務士
安部敏志
2 高年齢者の就業機会の確保と就業の促進
少子高齢化による労働力確保は喫緊の課題であり、その対応として国が期待感を寄せ、また企業のニーズが高いのも勤務経験の豊かな高年齢者です。実際、帝国データバンクが令和元年9月に発表した「人手不足の解消に向けた企業の意識調査」においては、今後最も積極的に活用したい人材は「シニア」とする回答が29.2%となっており、「女性」「外国人」「障害者」に比べて高くなっています。
1.高年齢者就業確保措置の導入
その高年齢者の活用策として、令和3年4月1日から、以下のいずれかの70歳までの高年齢者就業確保措置が努力義務として求められます。
①企業が現在65歳までの労働者への措置として求められている定年廃止、定年延長、継続雇用制度の導入といった高年齢者雇用確保措置と同様の措置
②①の措置を行わない場合は事業主による以下のような新たな措置を設けいずれかを講ずること
(ア)特殊関係事業主以外の企業への再就職に関する制度の導入
(イ)フリーランスや起業による就業に関する制度の導入
(ウ)社会貢献活動への従事に関する制度の導入
職業安定分科会雇用対策基本問題部会「高年齢者の雇用・就業機会の確保及び中途採用に関する情報公表について」の報告によると、令和元年6月1日現在で31人以上規模企業の高年齢者雇用確保措置の実施割合は99.8%、法に定める義務を超えた積極的な取組みとして、66歳以上まで働ける制度のある企業の割合は30.8%となっています。
このことから、政策誘導の効果として、65歳までの企業による雇用確保のための制度の構築は完了し、そして66歳以上の人にも働いてほしいと希望する企業のニーズが一定数確認できるとされ、高年齢者就業確保措置の努力義務化、後述する年金の受給開始時期の上限の延長により、65歳以降もできる限り長く働いてもらおうという政策になったのでしょう。
2.60~64歳の在職老齢年金制度の支給停止基準額の引上げ
しかし、高年齢者就業確保措置により高齢者の就労期間を延長する制度を整備しても、肝心の高年齢者の働く意欲を阻害しては無意味となります。その一つの理由として以前から指摘されていたのが、在職老齢年金制度です。そのため、令和4年4月1日から、60 ~ 64歳の在職老齢年金制度の支給停止基準額は、現行の28万円から47万円に引き上げられることになります。
在職老齢年金制度は、一定以上の賃金を得ている60歳以上の厚生年金受給者に対して、年金支給を一部停止するというものですが、自ら働いて得る賃金にもかかわらず、それによって本来もらえる年金が減額されるのは納得できないと考える心情は理解できるものです。
多くの企業が、65歳までの高年齢者雇用確保措置として、再雇用を選択していますが、再雇用の際の賃金は、定年前の金額から減額されることがよくあります。ただし、これは必ずしも企業側の一方的な賃金減額の要求というわけではなく、「在職老齢年金の支給停止基準額以内に抑えることができる賃金額にしてほしい、そして、その賃金額に見合った働き方に抑えたい」という労働者側の要望によるものでもあります。
実際、第14回社会保障審議会年金部会の資料2「60歳台前半の在職老齢年金制度の状況」によると、賃金と年金の合計額の階級別では、26万円以上から28万円未満となっている人が多く、また60歳台前半の在職している年金受給権者の半数強が支給停止の対象となっています。
人事の専門メディアやシンクタンクが発表した調査・研究の中から、いま人事として知っておきたい情報をピックアップしました。