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残業時間・ムダな労働時間削減、生産性向上のための
「時短マネジメントシステム」

時短コンサルタント・社会保険労務士

山本 昌幸

Ⅵ. ステージ1

11. 残業・ムダ労働時間発生原因リスクの洗出しと取組みリスクの決定

「ステージ0」においても、過去2年間の現状把握を実施しましたが、今回はリアルタイムの残業時間・ムダな労働時間発生の現状を洗い出します。

その洗い出した現状から「リスク」と「取組リスク」を決定します。

「取組リスク」を決定するプロセスとしてリスク評価を実施します。この「現状把握~リスクアセスメント」のプロセスは非常に重要であり、今後の時短への取組みの根拠となります。

ちなみに、品質マネジメントシステムの8原則の1つに、「意思決定への事実に基づくアプローチ」があり、ここでは、「何かに取り組むとき根拠となる適切なデータを元に決定すべき」とご理解ください。

12. 残業・ムダ労働時間削減に繋がる機会の洗出しと取組機会の決定

これは、残業・ムダな労働時間削減に繋がる良い機会を洗い出すことです。少々専門的な文言で表現すると「ポジティブリスク」ということになります。

時短実現には、残業発生の原因だけではなく、残業削減の要因を鋭意洗い出していくことが必要という考えに基づくからです。

13. プロセスリストラ策決定:根本的な作業改善

プロセスリストラとは次の定義です。

  • 残業・ムダな労働時間発生プロセスを明確にして再構築する
  • 生産性向上が見込まれるプロセスを再構築する
  • 残業時間・ムダな労働時間を削減するためもしくは生産性を向上させるには、どのような一連のプロセスがあるのかをあらかじめ明確にして、成果を出すための鍵となるプロセスの改善や修正を意識して最良の成果を出すこと

プロセスリストラは14種類あります。

プロセスリストラの詳細については、拙著である『「プロセスリストラ」を活用した真の残業削減・生産性向上・人材育成実践の手法』(2014、日本法令)をご覧ください。

【14種類のプロセスリストラ】

  1. そのプロセスを止められないのか
  2. そのプロセスの前後に追加するプロセスはないのか
  3. そのプロセスを人手作業から機械作業に変えられないのか(逆も)
  4. そのプロセスのモノの種類を変えられないのか
  5. そのプロセスを外注に出せないのか(逆も)
  6. そのプロセスを担当している要員の力量を上げられないのか
  7. そのプロセスを担当している機械・設備の能力を上げられないのか(下げられないのか)
  8. そのプロセスの処理方法を変えられないのか(処理順番を含む)
  9. そのプロセスと他のプロセスをまとめられないのか(分割を含む)
  10. そのプロセスと並行してできることはないのか(直列も)
  11. そのプロセスの処理時間は適正か(少なすぎるor多すぎる)
  12. そのプロセスのアウトプットの基準が高すぎないか(低すぎないか)
  13. 直前のプロセスに問題がないか(インプットに問題がないか)
  14. そのプロセスの担当者を変えられないのか
  15. その他

プロセスリストラの実施については少々根気が必要かもしれませんが、筆者の関与先で安定的に成果が維持できるのもこの取組みのおかげです。

14. 長期目標、短期目標および実施計画

3~5年後の到達点である長期目標、単年度の到達点である短期目標および短期目標達成のための実施計画を策定します。

15. 実施計画の実行

実施計画を実行(運用)します。

16. 監視、測定および検証

PDCAの「C」に該当することであり、残業時間数等の検証を実施します。

17. 取組結果を全社的に周知する

当取組みの結果を公表します。

“結果”は、思わしくない場合もありますが、そのことも事実として公表して次のステップに活かしましょう。

18. 効果ある施策を標準化する

「ステージ1」における到達点がこの「標準化」です。

ただ、ここで標準化を理解していない人ほど、「標準化=マニュアル化」と思っている人がいらっしゃいますが、標準化は“マニュアル化”に限定されません。標準化の1つの手法が“マニュアル化”なのです。 ですから、決して「○○のひとつ覚え」みたいに「マニュアル化!」と叫ばないでください。

筆者の関与先の多くは、この“標準化”と聞いて「なんか難しそう」と尻込みしてしまう組織がありましたが、標準化の事例や可視化した文書を提示することによりその疑念が取り除かれました。

時短に効果のある取組みを標準化することにより、仕組みとして組織に残し・浸透させることができます。

Ⅶ. ステージ2

19. 業務処理プロセスの明確化

前項の“効果ある施策を標準化する”と強く関連していますが、当項では、現状の業務処理プロセスを文書化します。ただ、文書化する際に改善事項を加えても問題ありません。文書化する例として

  1. 各プロセス
  2. 各プロセスのインプット内容
  3. 各プロセスからのアウトプット内容
  4. 管理項目
  5. 基準
  6. 基準測定の頻度
  7. 作業担当者
  8. 記録
  9. 標準処理時間

すでに「QC工程表」等が存在している場合は、積極的に活用します。

業務処理プロセスを文書化できたら、「標準処理時間」を設定します。「標準処理時間」とは、通常の力量を持つ従業員が力量を発揮して作業を処理できる時間のことです。その設定方法は次の2種類が考えられます。

A: 現状の業務処理時間を標準処理時間時間に設定する
B: 現状の業務処理時間を把握のうえ、本来であれば処理できる時間を標準処理時間に設定する

通常は“A”の方法を活用しますが、“B”の方法は、標準処理時間設定時にプロセスリストラを施す手法です。

また、この標準処理時間は常に改善させていく必要があるでしょう。現在30分で処理できる作業が、5年後も30分かかっているとは特別な事情がない限り望ましくありません。この考えは、「職能資格等級定義表」と同じことです。5年前の3等級と現在の3等級で職務内容が同一の場合は、組織としての要員の能力の底上げができていないということです。

「時短マネジメントシステム」において、この「業務処理プロセスの明確化~標準処理時間の設定」はキモの部分と言えます。

20. プロセスリストラ策決定:根本的な作業改善

「ステージ1」とほぼ同じ項目です。

21. 短期目標と実施計画の改定、追加

「ステージ1」で策定した短期目標について、ここまでプロジェクトが進んでくると改定の必要性が出てきます(通常は目標を上方修正する)。当然、短期目標が改定されると実施計画も改定されます。

22. 継続運用

「ステージ0」「ステージ1」「ステージ2」で決定したことを継続的に運用します。

23. 監視、測定および検証

「ステージ1」の“監視、測定および検証”の項目にプラスαして、可能な限り次の項目を測定します。

  • 従業員ごとの“のそり状態”時間
  • 従業員ごとの“蒸発状態”時間
  • 従業員ごとの妨害被害時間
  • 従業員ごとの効率
  • 従業員ごとの稼働率
  • 従業員ごとの業務処理量
  • 従業員ごとの作業品質
  • 残業時間、労働時間削減の推移(原単位で)
  • 標準処理時間の適切性
  • その他(法令遵守等)

※ のそり状態:頭、手、足、口、目、耳、鼻がフル稼働していない状態
※ 蒸発状態:作業に従事していない状態

すべては説明できませんが、これらのデータを実績として科学的に収集して分析します。また、残業時間や労働時間の削減数も原単位で割り出します。

ところで、皆さんは「秒給」を考えたことがありますでしょうか。「秒給」とは、そのものズバリ1秒当たりの給与です。

仮に、月給25万円で月所定労働時間が177時間の従業員の秒給は、0.39円/秒です。仮にこの従業員が1日5回、1回当たり5分喫煙した場合、25分(1,500秒)ですから、「ハイ、喫煙してくれてありがとうね。585円支払いますね」と、喫煙時間にまで給与を支給していることになります。年間だと(240日労働)、約14万円になります。

この喫煙時間は“蒸発状態”です。

24. 不適合、是正処置およびインシデント管理

「時短マネジメントシステム」に取り組むにあたり、あらかじめ不適合とはどのようなものかを定義しておき、発生した場合に、

  • 応急処置
  • 再発防止処置(是正処置)
  • 予防処置

に展開します。また、日頃から残業やムダな労働時間に繋がる可能性のある事象(インシデント)への気配りが大切です。

25. 内部監査

PDCAの「C」の集大成として、自分たちで自らの取組みを監査します。誌面の都合で詳しく触れませんが、この内部監査は法令遵守確認のように決して、○×チェックで済ませないでください。検出した事項の背景を探ることが必要です。

内部監査については、当初は監査のプロに任せ、その監査実施手法を学んだほうが得策でしょう。

26. マネジメントレビュー

一通り「時短マネジメントシステム」を運用してみて、社長として今後の展開を示唆することです。

取組開始から24カ月目くらいにこのマネジメントレビューへ到達しますが、その後は年に1回実施してください(内部監査も同様)。

27. 継続的改善

さらなる改善を目指して仕組みの運用を継続していきます。

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