【“うっかり5年超え”に注意が必要!】無期転換ルールに対応した「定年退職日」と「再雇用終了日」の定め方
特定社会保険労務士
鳥井 玲子
3. 実務上の留意点
さて、2で説明した再雇用者に無期転換申込権が発生する可能性についてですが、就業規則等で定年年齢が60歳、再雇用終了年齢が65歳と定められているのであれば、5年を超えることとはならないので、そもそも無期転換申込権は発生しないのではないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
確かにその通りなのですが、実際には、定年後の再雇用期間が5年超えとなるケースもままあります。具体的には、次のような場合です。
(1)一律に、再雇用終了時を「67歳」「70歳」など65歳を超えた年齢で定めている場合
(2)一律ではないが、能力や経験、特殊技能の有無などに応じて特定の労働者について、65歳を超えても継続雇用することとしている場合
(3)定年退職日と再雇用終了日の定め方の違いにより5年を超えてしまう場合
(1)、(2)のケースは、特に中小規模の企業でよく見られます。もっとも、中小規模の企業の場合には、大企業に比べ定年年齢を60歳超で定めている割合が多いので、65歳を超えて再雇用終了年齢を定めている場合であっても、再雇用後の有期雇用期間が5年を超えないこともあります。また、(1)、(2)は、5年を超えることを認識したうえで定めていますので、同時に第二定年を定めたり、本年4月以降であれば、有期雇用特別措置法による特例を活用したりするなどの方法で、対応することができます。
これに対し、(3)のケースでは、意図せずに5年を超えることとなってしまいますので、注意が必要です。一口に「60歳定年、65歳再雇用終了」と言っても、実際の退職日や契約終了日をいつにするのかは、企業によって様々です。「誕生日」を基礎に定めている企業もあれば、「月末」や「賃金締切日」「対象年齢に達した日以後の最初の決算期末」と定めている企業もあります。定年後の再雇用に関する規程等を整備する際に、就業規則等で定年退職日をどのように定めているかをしっかり確認せずに定めると、“うっかり5年超え” という事態も起こり得るのです。
こうした事態が起こり得る具体的なケースとして、例えば、定年退職日は「60歳の誕生日」や「60歳の誕生日の前日(60歳に達する日)」と定め、再雇用終了日は「65歳に達する日の属する月の末日」と定めているような場合が挙げられます。この場合、5年超となるのは1カ月に満たないわずかな期間ではありますが、それでも無期転換申込権が発生する可能性があるケースと言えます。
以上のほか、有期雇用特別措置法に関連して、ご留意いただきたい事項があります。同法の対象者は、定年後同一の事業主(高年法9条2項に規定する特殊関係事業主を含む)に継続雇用されている有期雇用労働者です。60歳以上の有期雇用労働者がすべて対象になるわけではありません。次の(a)、(b)のような有期雇用労働者は、60歳以上の有期雇用労働者であっても特例の対象にはなりませんので注意が必要です。
(a)他の企業を定年退職後に雇用した有期雇用労働者
(b)60歳前から有期雇用である労働者
ただし、まだ詳細はわかりませんが、(b)については、場合によっては、個別に対象労働者が出てくる可能性もゼロではないと考えます。すなわち、厚生労働省「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)」のA1-11では、「有期契約労働者に関して、就業規則等に一定の年齢に達した日以後は契約の更新をしない旨の定めをしている場合は、有期労働契約であっても反復継続して契約を更新することが前提となっていることが多いと考えられ、反復継続して契約の更新がなされているときには、期間の定めのない雇用とみなされることがあります。これにより、定年の定めをしているものと解されることがあり、その場合には、65歳を下回る年齢に達した日以後は契約しない旨の定めは、高年齢者雇用安定法第9条違反であると解され」(右の青線部分)るとされています。これを踏まえて考えると、本Q&Aに記載されているような「定年の定めをしている」と解されるような状態であって、同一事業主が継続雇用している場合には、有期雇用特別措置法の特例対象となる可能性はあるでしょう。
●高年齢者雇用安定法Q&A(抜粋)
Q1-11:有期契約労働者に関して、就業規則等に一定の年齢(60歳)に達した日以後は契約の更新をしない旨の定めをしている事業主は、有期契約労働者を対象とした継続雇用制度の導入等を行わなければ、高年齢者雇用安定法第9条違反となるのですか。
A1-11:高年齢者雇用安定法第9条は、主として期間の定めのない労働者に対する継続雇用制度の導入等を求めているため、有期労働契約のように、本来、年齢とは関係なく、一定の期間の経過により契約終了となるものは、別の問題であると考えられます。
ただし、有期契約労働者に関して、就業規則等に一定の年齢に達した日以後は契約の更新をしない旨の定めをしている場合は、有期労働契約であっても反復継続して契約を更新することが前提となっていることが多いと考えられ、反復継続して契約の更新がなされているときには、期間の定めのない雇用とみなされることがあります。これにより、定年の定めをしているものと解されることがあり、その場合には、65歳を下回る年齢に達した日以後は契約しない旨の定めは、高年齢者雇用安定法第9条違反であると解されます。
したがって、有期契約労働者に対する雇い止めの年齢についても、高年齢者雇用安定法第9条の趣旨を踏まえ、段階的に引き上げていくことなど、高年齢者雇用確保措置を講じていくことが望ましいと考えられます。
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