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タナケン教授の「プロティアン・キャリア」ゼミ【第6回】
新型コロナ禍によるテレワーク、今こそ問われる「人事」のアダプタビリティとは?

法政大学 教授

田中 研之輔さん

タナケン教授の「プロティアン・キャリア」ゼミ

令和という新時代。かつてないほどに変化が求められる時代に、私たちはどこに向かって、いかに歩んでいけばいいのでしょうか。これからの<私>のキャリア形成と、人事という仕事で関わる<同僚たち>へのキャリア開発支援。このゼミでは、プロティアン・キャリア論をベースに、人生100年時代の「生き方と働き方」をインタラクティブなダイアローグを通じて、戦略的にデザインしていきます。

タナケン教授があなたの悩みに答えます!

皆さん、いかがお過ごしですか? プロティアン・ゼミ第6回です。

新型コロナウィルスのパンデミックにより、私たちの働き方は大きな歴史的転換期に直面していますね。緊急事態宣言が発令されている7都府県には、「社会機能を維持するために必要な職種を除き、オフィスでの仕事は原則自宅で行うように」(安倍首相 記者会見 2020年4月7日)との訴えがありました。

私も日々の打ち合わせや企画会議は、すべて自宅からのオンラインとなりました。Zoom、Googleハングアウト Meet、Microsoft Teams、LINE WORKS、facebook、Slack、chatworkなど、オンラインツールやソーシャルメディアを適宜使っています。

正直なところ、これほど大きな変化を経験するとは予想していませんでした。大学教員としての仕事は、各種委員会の運営、入試業務など多岐にわたりますが、学期中は何よりもまず、教室に向かい、担当科目の講義を行うことが欠かせません。しかし今は、それができないのです。

勤務する法政大学は、前期の講義をすべてオンラインで実施することに決め、学生も教員も原則として大学に入ることができません。また、産学連携関連の企業関係者との打ち合わせも、すべてオンラインで実施しています。

タナケン教授の「プロティアン・キャリア」ゼミ【第6回】 新型コロナ禍によるテレワーク、今こそ問われる「人事」のアダプタビリティとは?

毎日の働き方が、がらりと変わったのです。では、このような変化に直面したとき、私たちは何ができるのでしょうか? 

このプロティアン・ゼミでも常に念頭においてきた「変化に適応する力=アダプタビリティ」が今、問われているのです。アダプタビリティについては、第2回のゼミで取り上げています。再確認したい方は、読んでおいてください。

さて、今回のプロティアン・ゼミでは、次のきわめてアクチュアルで本質的な問いを、私から皆さまに投げかけてみたいと思います。

Q.新型コロナ禍によるテレワーク体制において、いま人事は、どうあるべきなのでしょうか?

ここで、二つの前提を整理しておきます。

(1)緊急事態宣言により、「在宅勤務」が要請されている地域 or それ以外の地域
(2)「在宅勤務」が要請されている地域下での、「オフィス勤務」or「在宅勤務」

新型コロナ禍の働き方分類
オフィス勤務 在宅勤務
在宅勤務要請地区 現行の働き方 テレワーク・イノベーション
それ以外の地区 現行の働き方 テレワーク推奨

(筆者 作成 2020.4)

まず、新型コロナ禍によって働き方の変革が求められている企業は、緊急事態宣言が発令された地域にあり、なおかつ在宅勤務に対応することのできる職種の企業です。そのため、今回のゼミで考えていくのは、前提として、現段階では局所的な変化をベースにしたものであることを理解しておいてください。

ただ、論旨を先に述べるならば、現在、新型コロナ禍で完全テレワークを強いられている企業の働き方は、これまで働き方改革で推奨されてきたテレワークが、実際に可能であることを示すモデルケースとなりうるものです。つまり、この先の未来の働き方を占うパイオニア・ケースでもあるのです。

そのため今回、完全テレワーク体制において求められる人事の役割を考えておくことは、この先の人事の役割を検討していくことにもつながると言えます。

では、何が変化し、いま何が求められているのでしょうか? 今回は、(1)新入社員研修のオンライン化、(2)在宅勤務でのミドルシニアのキャリア開発の2点をとりあげます。

それ以外についても、皆さんがいま直面している問題について教えてください。次回以降のゼミで取り上げるので、質問コーナーに投稿しておいてください。

(1)新入社員研修のオンライン化

多くの企業が新入社員研修を実施する最中の4月7日に、今回の緊急事態宣言は発令されました。新入社員研修をこれまで通りオフィスでの対面集合形式で実施することは困難になり、人事には経営層と相談した上で、迅速な意識決定が求められました。

新人研修を実施するのか、しないのか。実施するならどのような形式で行うのか――。

アダプタビリティの高い企業は、オンラインでの実施に取り組んでいます。例えば楽天は、約700名の新入社員に対して、ビデオ会議システムを用いたオンライン新人研修を実施しています。ビジネス基礎研修、プログラミング・AI研修など、約1ヵ月間のオンライン研修とのことです。(https://corp.rakuten.co.jp/news/update/2020/0317_01.html)

楽天に入社し、新入社員として働いているAさんにヒアリングしたところ、「なんら問題はなく、通勤時間も不要で、効率的に研修を受けることができている」と現状を語ってくれました。
 
オンラインでの新人研修を導入している企業の人事担当者の方は、オンライン研修とオフィスでの対面研修との効果の比較にぜひ、取り組んで欲しいと思います。

限られたヒアリングデータからですが、デジタル・ネイティブ世代は、オンライン・アダプタビリティがきわめて高く、ZoomやMicrosoft Teamsなどでのオンライン研修にも、それほど大きな違和感なく、適応しています。

オンラインでの新人研修が「あたりまえ」になれば、他の地域に勤務する新入社員を本社近くに呼び寄せてホテルに滞在させ、合宿型で新人研修を行う必要も無くなります。オンライン研修では決して得ることのできない「特定空間に集まることで醸成される共同意識やコレクティブ・アイデンティティ」をこれからも不可欠なものだと考えるのか、それともオンライン研修でも問題ないと判断するのかという人事方針も、いずれ決めることになるでしょう。

社会人としての心得を学ぶ、新入社員研修という「通過儀礼(イニシーション)」のやり方も、オンラインでの実施が選択肢に入ることで、より改善されていくことになるのです。

(2)在宅勤務でのミドルシニアのキャリア開発

これから働き方を習得していく新入社員を対象とした研修のオンライン化には、それほど大きな支障がなさそうです。日頃からオンライン・コミュニケーションになれたデジタル・ネイティブ世代であることや、働き方が固定化されていないことで、柔軟に対応できるのです。

それに対して、人事が今注目すべきもう一つのポイントは、在宅勤務でのミドルシニアのキャリア開発です。

タナケン教授の「プロティアン・キャリア」ゼミ【第6回】 新型コロナ禍によるテレワーク、今こそ問われる「人事」のアダプタビリティとは?

ミドルシニアのビジネスパーソンは今、抱えている仕事をいかにオンラインで取り組んでいくのか、試行錯誤している最中だと思います。仕事では進捗の共有が重視されるため、これまで職場では細かなコミュニケーションが日常的に取られてきました。

しかしオンラインの場合、対面と比較してコミュニケーションが限られたものになります。時間も限定的になりますし、画面にうつるという点で「動き」も限られたものになります。

今は緊急事態宣言下の「特別対応」なので、ミドルシニアのキャリア開発は後回しにするという判断を下すのか。それとも、テレワークを今後も有効活用していくと判断するのか。人事にとっても分岐点といえます。

後者のように判断するのであれば、これまで導入されてきた1on1によるキャリア相談などは、遠隔からより柔軟に対応することが可能になります。それぞれの勤務シフトを調整して会議室に集まらなくても、キャリア相談は可能です。

しかし、こうしたテクニカルな次元での変化ばかりに目を奪われてはいけません。働き方が外発的な理由で変わっている今、これまでの働き方を問い直し、これからの働き方として、テレワークがどんなイノベーションをもたらすのかを徹底的に考え抜く、実践的な機会とすべきなのです。

たとえば、役職定年後にモチベーションが下がってしまうシニア社員が問題になっていますが、テレワークを使った丁寧なキャリア相談を継続的に行っていけば、集団対面形式で実施する社内研修より、効果が上がるのではないかと感じています。

歴史的未曾有の危機を、これからの働き方を考え直す機会へと活かしていく。今人事に求められていることは、テクノロジカルな対応(技術的な対応)だけでなく、その深部にあるエッセンシャルなイシュー(本質的な問題)に迫るアダプタビリティなのだと言えるでしょう。


田中 研之輔さん(法政大学 教授)
田中 研之輔
法政大学 教授

たなか・けんのすけ/博士:社会学。一橋大学大学院社会学研究科博士課程を経て、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員をつとめる。2008年に帰国し、現在、法政大学キャリアデザイン学部教授。専門はキャリア論、組織論。<経営と社会>に関する組織エスノグラフィーに取り組んでいる。著書23冊。『辞める研修 辞めない研修–新人育成の組織エスノグラフィー』『先生は教えてくれない就活のトリセツ』『ルポ不法移民』『丼家の経営』『都市に刻む軌跡』『走らないトヨタ』、訳書に『ボディ&ソウル』『ストリートのコード』など。ソフトバンクアカデミア外部一期生。専門社会調査士。社外取締役・社外顧問を14社歴任。最新刊『プロティアン―70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』


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東京都 HRビジネス 2020/04/24

 

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