平均所定労働日数を用いた欠勤控除計算の懸念点
弊社では平均所定労働日数20日から日額を求める方法で欠勤控除の計算をしています。
規則としては簡潔に記載すると次の通りです。
・出勤15日超の場合、欠勤日数分を控除
・出勤15日以下の場合、出勤日数にて支給
平均所定労働日数20日を超える実労働日数の月の場合、例えば23日出勤日数があって、1日欠勤の場合は22日出勤しても19日分の給与支給となります。(月給20万円なら19万円の支給)
年で見ると、実労働日数が多い月と少ない月が有り均されるため直ちに違法とはならないと一般的には解釈されております。
ただ、こちらは賃金計算上でみた時に、例えば月給20万円の場合前述の例でみると「200,000÷23×22≒191,305」この賃金を下回る支給は労働基準法第24条に違反していないでしょうか。
労働基準法第24条内では「全額を、月一回以上」支払う事とされています。
よって、「年平均で均されるから月単位で見れば労働日数以下の給与支給となっていても問題ない」という解釈は誤りではないかと思いまして、ご見解を頂戴できれば幸いです。
投稿日:2025/10/08 10:29 ID:QA-0159311
- 半田さん
- 宮城県/その他業種(企業規模 1001~3000人)
この相談に関連するQ&A
プロフェッショナル・人事会員からの回答
プロフェッショナルからの回答
ご回答申し上げます。
ご質問いただきまして、ありがとうございます。
次の通り、ご回答申し上げます。
1.前提:平均所定労働日数方式とは
一般的な方式では、
月給制社員の1日あたりの単価を
月給 ÷ 平均所定労働日数(例:20日)
として、欠勤控除や日割支給に用いる方法です。
この方式の特徴は「月ごとの実労働日数が何日であっても一定単価で処理できる」点で、事務の簡便化目的で多くの企業が採用しています。
2.法的根拠:労基法第24条の「全額払い」との関係
労基法第24条第1項では次のように定めています。
「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。」
ここでの「全額」とは、労働者が当該賃金支払期間において提供した労務の対価の全額を意味します。
したがって、
出勤した日数に対応する労務の対価(1日あたり賃金×出勤日数)を下回る支給となれば、「全額払いの原則」に抵触する可能性があります。
3.問題の具体例とリスク分析
ご提示のケース:
月給:200,000円
平均所定労働日数:20日
実際の出勤日:23日(うち1日欠勤)
したがって控除額は
200,000 ÷ 20 × 1 = 10,000円
となり支給額は190,000円。
一方、実労働に対する日割りでみると
200,000 ÷ 23 × 22 ≒ 191,304円
となり、約1,300円不足します。
この差額分については、実際に労務提供した22日分の対価が支払われていないとみなされるおそれがあり、理論的には「全額払いの原則」に反する可能性が否定できません。
4.実務上の取扱いと裁判例・通達の傾向
(1)行政実務の一般解釈
実際には、多くの企業が平均所定労働日数(例:20日、21日、20.4日など)を用いていますが、
この方式は「労働契約上、月給が毎月一定額で支払われることを前提」としているため、
『平均20日で月給を算定する』という基礎が労使合意として明確であれば、24条違反にはならないと解されています。
厚生労働省・監督実務上も、
「月給は月単位で労務提供に対する包括的な対価」であり、
1日ごとの厳密な比例計算までは要求しない、という運用です。
ただしこれはあくまで「毎月20日働けば20万円の給与」という前提のもとで、
所定労働日数が月によって増減することを黙示的に織り込んでいる場合に限ります。
(2)裁判例における考え方(参考)
例えば「旭通信社事件」(東京地裁昭和62年6月30日判決)などでは、
月給制における日割計算方式は労使の合意に基づく限り合理的な範囲で認められるとされました。
また、全額払いの原則は「契約上支払うべき全額」を意味し、
日割計算の基礎となる分母(平均日数)も、契約上の支払方式として合理性があれば違法ではないと判断されています。
5.問題が生じやすいケース
以下のような場合は、労基法第24条違反や未払い賃金のリスクが高まります。
ケース→リスク内容
平均日数の根拠が就業規則・賃金規程に明記されていない→労働契約上の支払基準が不明確であり、全額払いの根拠が曖昧になる
平均20日なのに実際の出勤が25日など極端に多い月が頻発→実労働の対価を下回る支給が常態化する
欠勤控除と日割支給の算出方法が異なる→一貫性がなく、合理的な賃金体系とは言いづらい
実労働日数に応じた調整や年次精算の仕組みがない→年単位で均されるといっても根拠が契約上不明確になる
6.実務上の推奨対応
賃金規程に明記
→ 「日割計算および欠勤控除は、月給を平均所定労働日数20日で除して算出する」
と明示しておくことが重要です。
基礎となる平均日数の合理性を説明できるようにする
過去1年間の平均所定労働日数などを根拠として設定しておくと望ましいです。
実労働日数が極端に多い月は例外的調整を行う
→「平均所定労働日数を著しく超える月においては、別途調整することがある」と規定しておく。
7.まとめ(ご質問へのご回答)
Q:平均所定労働日数方式により実際の労務提供日数に満たない支給となるのは、労基法24条違反ではないか?
→原則的には、違法とはされません。
月給制の「包括賃金」として平均日数を用いることが労使間で明確に合意されていれば、それが労務対価の「全額」として認められます。
ただし、合理性が欠ける設定や運用の一貫性がない場合は違法の疑いが生じます。
そのため、就業規則・賃金規程に明記し、根拠を明確化することが不可欠です。
以上です。よろしくお願いいたします。
投稿日:2025/10/08 13:11 ID:QA-0159322
相談者より
このたびはご丁寧かつ詳細なご回答を賜り、誠にありがとうございます。
平均所定労働日数方式の法的根拠や実務上の取扱い、さらにリスクと対応策についても具体的にご教示いただき、大変参考になりました。
「理論的には24条抵触のリスクがあるが、労使合意と合理性が確保されていれば、実務上は慣例的に問題ないと解されている」と理解しました。
投稿日:2025/10/09 13:10 ID:QA-0159351大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
回答いたします
ご質問について、回答いたします。
実労働日数に見合った賃金が支払われていない場合、その差額分については
労働基準法第24条(賃金全額払いの原則)に違反する可能性が高いと考えら
れます。
つまり、年平均で均されるから月単位で見れば問題ないという解釈は、
労働基準法第24条の全額払いの原則の観点からは、適切ではありません。
貴社の控除方法では、本来支払われるべき賃金(191,304円)よりも少ない額
しか支払われていないことになります。これは、労働した22日分の賃金が全額
支払われていないことを意味し、全額払いの原則に違反する可能性が高い為、
是正される方が良いでしょう。
望ましいルールとしては、欠勤控除・日割計算は当月の所定労働日数で除して
算出する。といった分岐がない、シンプルなルールとなります。
投稿日:2025/10/08 13:12 ID:QA-0159323
相談者より
このたびはご丁寧なご回答を賜り、誠にありがとうございます。
労基法第24条の全額払いの原則との関係や、当月所定労働日数を基準とした算定方法の望ましさについて明確にご指摘いただき、大変参考になりました。
先生方からご教示いただいた内容を総合し、
「平均所定労働日数を用いた欠勤控除については、理論的には労基法第24条に抵触するリスクがあるものの、労使合意と合理性が確保されていれば、実務上は慣例的に問題ないと解されている」
との理解に至りました。
投稿日:2025/10/09 13:31 ID:QA-0159352大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
ご質問の件
1日欠勤の場合には、
出勤日数ではなく、欠勤控除ですので、1日分の欠勤控除ということになりますので、19日出勤分ということではありません。
1か月平均所定労働日数で日割りし、
例えば、当月所定労働日数の半分以上出勤なら欠勤控除、半分未満なら日割り額×出勤日数にするといったケースは少なくありません。
投稿日:2025/10/08 17:16 ID:QA-0159343
相談者より
先生方からご教示いただいた内容を総合し、
「平均所定労働日数を用いた欠勤控除については、理論的には労基法第24条に抵触するリスクがあるものの、労使合意と合理性が確保されていれば、実務上は慣例的に問題ないと解されている」
との理解に至りました。
このたびは貴重なご指摘を賜り、誠にありがとうございました。
投稿日:2025/10/09 13:33 ID:QA-0159353参考になった
回答に記載されている情報は、念のため、各専門機関などでご確認の上、実践してください。
回答通りに実践して損害などを受けた場合も、『日本の人事部』事務局では一切の責任を負いません。
ご自身の責任により判断し、情報をご利用いただけますようお願いいたします。
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