「日本一働きたい会社」から「世界最高のチーム」へ
経営理念に命を吹き込む、企業文化のつくり方
株式会社LIFULL 執行役員 人事本部長
羽田幸広さん
社員が安心して挑戦できる環境をつくる
貴社の人事施策では、社員の「やりたい」「こうなりたい」という意欲を引き出す“内発的動機付け”を大切にされているとうかがいました。具体的にはどのような取り組みが行われているのでしょうか。
以前から社長とよく話していたのは、「“挑戦できない”という言い訳ができないような環境をつくりたいね」ということでした。社会人にとってのやりたいこと、望む挑戦はすべて実現できるようにしたいと考えたのです。具体的な取り組みとしては、年2回、役員を含めた全社員が「キャリアデザインシート」を作成しています。将来自分はどうありたいのか、どんな仕事をしたいのかというキャリアビジョンをもとに、それを実現するためには5年後・3年後・半年後にどうあるべきなのかを考えて書き出すのです。
たとえば、「将来のなりたい姿が〇〇だから、半年後に□□の部署に異動したい」となれば、部署異動や職種変更の希望を伝える「キャリア選択制度」を利用することができます。ほかにも、業務時間の10%を他部署の仕事にあてられる「キャリフル(社内副業制度)」や、新規事業を提案できる「SWITCH」、年間労働時間の10%をクリエイティブな活動に費やせる「クリエイターの日」、社会貢献活動を支援する「One P’s」など、さまざまな施策を用意しています。
当社では会社都合での職種変更を伴うジョブローテーションは行っていないのですが、キャリア選択制度を利用し、職種や部署変更に手を挙げた社員のうち約6割は希望を叶えています。2ヵ月に1回の頻度で行われる「SWITCH」では年間130件ほどの新規事業提案があり、優れたアイデアの提案者は、資本金数千万円の出資を受け、子会社を立ち上げることができます。
部署異動や職種変更の意思を伝えた社員の6割が希望を叶えられているのは非常に高い割合ですね。キャリア選択制度を導入している企業のなかには、管理職や上司から「優秀な社員を部門外に出したくない」と要望され、なかなか実現に結びつかないという声も耳にします。
確かにキャリア選択制度を始めたばかりの頃は、事業部長から「部下を異動させたくない」という声もありました。ただ社員の希望を尊重し、挑戦できる環境をつくることは、会社として意思決定したこと。一つひとつの事例に対して、社長と私で役員を説得してまわりました。プロジェクトの事情などですぐに異動を叶えられないケースもありますが、その際は、社員に対してその旨を説明し、異動の目安時期を伝えるようにしていました。
また、社員の挑戦を応援する一方で特に重視していたのは、「心理的安全性」を確保することです。心理的安全とは社員が上司や同僚に対して自分の考えや感情を率直に伝えても大丈夫だと思える状態のこと。この心理的安全性が担保されていると、社員は失敗を恐れずチャレンジできるようになります。
社長の井上が普段よく口にする言葉に「薩摩の教え」というものがあるのですが、それは人の価値は、次の順番で決まるという教えです。一番価値が高いのは「何かに挑戦し、成功した人」、次は「何かに挑戦し、失敗した人」。そして「自ら挑戦していないが、挑戦した人を手助けした人」「何もしなかった人」「何もせず、他人の批判だけをする人」と続きます。以前、子会社を立ち上げたけれど事業がうまくいかず、撤退を余儀なくされた社員がいました。社長は、その社員を全社総会で檀上にあげ、失敗理由を述べさせたうえで、「ナイスチャレンジ!」と褒めたたえたのです。加えて、会社がこれから注力していく、社会的な注目度の高い新サービスのプロジェクトリーダーに抜てきしました。その光景を見て、「この会社では、たとえ失敗したとしても、ちゃんと次の挑戦の機会を得られるんだ!」と社員は感じたと思います。